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第108号(2017.2.27)
アメリカの急進派 I.S.ストーン-2(2009.6.18放送))
第107号(2017.1.31)
アメリカの急進派 I.S.ストーン-1(2009.6.18放送))
第106号(2016.12.31)
アイスランドの海賊党(2016.3.17放送)
第105号(2016.11.17)
優生保護運動の先駆者は米国(2016.4.6放送)

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第104号(2016.9.30)
日系米国人強制収容の記憶(2016.4.11放送)
第103号(2016.8.29)
祭りをダシにする惨事資本主義(2016.6.1放送)
第102号(2016.7.10)
1兆ドルの核兵器刷新計画(2016.4.13放送)
第101号(2016.6.30)
人権とジェンダーが気候対策の鍵(2015.12.10放送)
第100号(2016.5.31)
租税回避が招く大惨事と対処法(2015.11.3放送)
第99号(2016.4.10)
市民が守る「ネットの中立」(2015.2.6放送)

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第98号(2016.3.30)
アレン・ダレスと米国の影の政府(2015.10.13放送)
第97号(2016.2.28)
まやかしのイデオロギー対立(2014.4.28放送)
第96号(2016.1.28)
パリ襲撃で蘇る9.11(2015.11.19放送)
第95 号(2015.12.26)
ギリシャの悲劇は世界の鏡像(2015.8.21放送)
第94 号(2015.11.22)
司法を蘇らせた砂粒の力(2011.9.15放送)
第93号(2015.10.13)
コービンが示す本物の選択肢(2015.9.14放送)

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第92号(2015.9.13)
変わりゆくキューバ(2015.6.2放送)
第91号(2015.8.10)
極限の証言者 ロバート・J・リフトン(2015.5.7放送)
第90号(2015.7.10)
ナオミ・クライン : これがすべてを変える(2014.9.18放送)
第89号(2015.6.10)
米国 ベネズエラ敵視で威信失墜(2015.3.11放送)
第88号(2015.5.10)
緊縮の圧制に挑むギリシャ(2015.2.2放送)
第87号(2015.4.10)
貧者に寄り添う新風(2014.12.31放送)

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第86号(2015.3.10)
「テロ」報道の色眼鏡(2011.7.26放送)
第85号(2015.2.10)
開発支援?それとも政権転覆?(2014.4.4放送)
第84号(2015.1.10)
事故が招く核ホロコースト(2013.9.18放送)
第83号(2014.12.10)
スノーデンが託したもの(2014.5.13放送)
第82号(2014.11.10)
すべての戦争を終えるために(2011.5.10放送)
第81号(2014.10.10)
新たな冷戦の時代 ロシアとウクライナ危機(2014.4.14放送)

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第80号(2014.9.10)
パイプラインの政治学:Part Ⅱ(2013.10.8放送)
第79号(2014.8.29)
パイプラインの政治学:Part I(2013.10.8放送)
第78号(2014.7.30)
アマゾン商法とワシントンポスト紙の使い道(2013.8.7放送)
第77号(2014.6.27)
奴隷制に支えられたアイビーリーグ(2013.10.30放送)
第76号(2014.5.31)
軍用化にさいなまれる「インディアンの土地」(2011.05.06放送)
第75号(2014.4.26)
チョムスキー:アラブ世界の民主化を望まない米国(2011.05.11放送)

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第74号(2014.3.30)
ハンナ・アーレント(2013.11.26放送)
第73号(2014.2.27)
憎しみが拡がるイスラエル社会(2013.10.04放送)
第72号(2014.1.31)
隠ぺいされた原爆(2011.08.09放送)
第71号(2013.12.22)
チリ・クーデターから40年 ビクトル・ハラ殺害への裁きを求めて(2012.09.09放送)
第70号(2013.11.13)
オリンピックに乗っ取られたロンドン(2012.07.31放送)
第69号(2013.10.18)
罰される島 ビエケス(2013.05.02放送)

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第68号(2013.09.26)
ネットが民主主義の敵に!(2013.04.05放送)
第67号(2013.08.23)
ファシズムに陥ったカトリック教会(2013.02.28放送)
第66号(2013.07.30)
フォードランディア(2009.07.02放送)
第65号(2013.06.21)
帝国の収穫(2012.09.25放送)
第64号(2013.05.27)
借金をストライキ!「ローリング・ジュビリー」とは?(2012.11.15放送)
第63号(2013.04.27)
オリバー・ストーン:『語られざる米国史』(2012.11.16放送)

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第62号(2013.03.29)
アーロン・シュワルツ:接続の自由(2013.01.14放送)
第61号(2013.02.26)
裏切られたアメリカン・ドリーム(2012.07.30放送)
第60号(2013.01.31)
マイケル・ポーラン:食の運動のいま(2012.10.14放送)
第59号(2012.12.23)
ブラッドリー・マニングの素顔(2012.06.08放送)
第58号(2012.11.15)
スペインの怒れる人々(2012.03.30公開)
第57号(2012.10.16)
作られるうつ病(2010.03.01放送)

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第56号(2012.09.22)
ポール・クルーグマン:さっさと不況を終わらせろ(2012.05.17放送)
第55号(2012.08.17)
企業による世界統治を参加国に強制するTPP(2012.06.14放送)
第54号(2012.07.28)
民主主義を踏みにじったギリシャ「救済」(2011.11.03放送)
第53号(2012.06.28)
隠された人種差別(2012.01.13放送)
第52号(2012.05.28)
政府と企業の検閲が進むインターネット(2012.01.17放送)
第51号(2012.04.18)
ウォール街の占拠を超えて(2011.11.16放送)

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第50号(2012.03.27)
ロボット兵士と戦争(2009.02.06放送)
第49号(2012.02.29)
マイケル・シュナイダー:原発は終わった(2011.04.14公開)
第48号(2012.01.30)
アサンジ-ジジェク対談: パート2(2011.07.02収録)
第47号(2011.12.31)
アサンジ-ジジェク対談: パート1(2011.07.02収録)
第46号(2011.11.28)
デリック・ジェンセン: エコロジー運動の哲学詩人(2010.11.26放送)
第45号(2011.10.31)
デジタルの闇(2011.02.01放送)

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第44号(2011.9.27)
ゲイ人権運動の先駆者クリーブ・ジョーンズ(2009.06.19放送)
第43号(2011.8.25)
マンフレッド・マックスニーフ:裸足の経済学(2010.11.26放送)
第42号(2011.7.25)
ヴァンダナ・シヴァとモード・バーロウ:アースデーに母なる大地の権利を語る(2011.4.22放送)

第41号(2011.6.20)
ナオミ・クライン:火事場の底力(2011.3.9放送)

 

第40号(2011.5.21)
アラブのときがきた(2011.2.17放送)
第39号(2011.4.28)
スティグリッツ:銀行より国民を(2010.10.20放送)

 

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第38号(2011.3.21)
カナダの農民 巨大企業に挑む (2010.9.17放送)
第37号(2011.2.16)
ジュリアン・アサンジが語る『ウィキリークス』 (2010.12.31放送)
第36号(2011.1.12)
チャルマーズ・ジョンソン:壊れ行く米国 (2007.2.27放送)
第35号(2010.12.11)
民主主義を侵すキリスト教右派 (2007.2.19放送)
第34号(2010.11.10)
ウィキリークスとハッカー文化 (2010.7.27放送)
第33号(2010.10.10)
フリーダムライダーズ (2010.2.1放送)

** 4 **

第32号(2010.9.10)
貧困の終焉? (2009.11.10放送)
第31号(2010.8.10)
パレスチナの桂冠詩人 マフムード・ダルウィーシュ (2008.8.11放送)
第30号(2010.7.10)
沖縄・グアム・ハワイ:太平洋米軍基地の拡大に反対する国際的連帯 (2010.5.24放送)
第29号(2010.6.10)
追悼 ハワード・ジン  無数の人々に愛された気骨の活動家・歴史家:「無名の人々の無数の小さな行動が歴史を動かす」 (2010.1.28放送)
第28号(2010.5.10)
ホワイトパワーUSA:勃興する右翼民兵組織 ──黒人大統領誕生の背後で (2010.1.11放送)
第27号(2010.4.10)
ハイチ 栄光と苦難の200年 ──ランダル・ロビンソンが語る黒人奴隷革命からアリスティド拉致まで (07.07.23放送)

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第26号(2010.3.10)
GMの金のなる木 ──米汚染企業の環境対策で森を追われるブラジルの農民 (09.11.05放送)
第25号(2010.2.10)
ハミッド・ダバシ: いま、イランで起きていること  (09.06.24放送)
第24号(2010.1.10)
モード・バーロウ: 水が危ない!  (08.02.27放送)
第23号(2009.12.10)
「映画監督デビューから20年、新作『キャピタリズム~マネーは踊る』で一挙に核心に迫るマイケル・ムーア」 (09.09.24放送)
第22号(2009.11.29)
「白い肌のテロリスト」 反アパルトヘイトの詩人ブレイテンバッハ: Part 2  (08.12.26放送)
第21号(2009.11.10)
「白い肌のテロリスト」 反アパルトヘイトの詩人ブレイテンバッハ: Part 1  (08.12.26放送)
第20号(2009.10.10)
デヴィッド・ハーヴェイ:不死鳥・資本主義を絶やすには(09.4.2放送)

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第19号(2009.9.25)
パシフィカ・ラジオ、栄光と苦闘の60年 2 闘う公共放送、市民を裏切らないメディアをめざして(09.4.15放送)
第18号(2009.9.10)
パシフィカ・ラジオ、栄光と苦闘の60年 1 ありえない公共放送が誕生(09.4.15放送)
第17号(2009.8.10)
戦時下の性的暴力と闘うモニカ・ハウザー (08.12.8放送)
第16号(2009.7.10)
良心を売り渡さない企業を求めた活動家 ザ・ボディショップの創設者アニータ・ロディック (07.10.22放送)
第15号(2009.6.10)
ソマリア内戦につけこむ 各国黙認のもうひとつの海賊  (09.4.14放送)
第14号(2009.5.10)
アヴィ・シュライム教授がすっきり解説  いまからでもわかる「パレスチナ紛争」(09.1.14放送)
第13 号(2009.4.10)
誰のための人道か? 「命名の政治学」マフムード・マムダニが語るダルフール問題(07.6.4放送)

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第12号 (2009.3.25)
エイモリー・ロビンス: 幻だった原発ルネッサンス(08.7.16放送)
第11号 (2009.3.10)
ローレンス・レッシグ: ネットの中立性を守れ!(08.4.17放送)
第10号 (2009.2.28)
スラヴォイ・ジジェクとの対話: Part 2 自滅する資本主義─正しい「問い」はどこに?(08.5.12放送)
第9号 (2009.2.10)
スラヴォイ・ジジェクとの対話: Part 1 「人間の顔をした社会主義」から「人間の顔をしたグローバルな資本主義」へ (08.3.11放送)
第8号 (2009.1.10) 特別配信 動画ページからダウンロード可
ガザのゲルニカ イスラエルによる空爆で300人以上が死亡 (08.12.29放送)
第7号 (2009.1.10)
現代アメリカの危険な"食"事情: マイケル・ポーランの「食を守れ──食べる人宣言」(08.2.13放送)
第6号 (2008.12.10)
「あれから40年」タリク・アリが語る 社会正義を求めて世界が燃えた日々(08.5.29放送)
第5号 (2008.11.25)
ナオミ・クライン「火事場泥棒の資本主義」を検証 2 オバマの経済政策、食糧危機、中国五輪(08.7.15放送)
第4号 (2008.11.10)
ナオミ・クライン「火事場泥棒の資本主義」を検証 1 石油利権の"ショックドクトリン"応用(08.7.15放送)
第3 号(2008.10.25)
チョムスキーとジン、異例の共同インタビュー 2 市民的不服従のすすめ(07.4.17放送)
第2号 (2008.10.10)
チョムスキーとジン、異例の共同インタビュー 1 ベトナムからイラクへ(07.4.16放送)
第1号 (2008.9.10)動画ページからダウンロード可
チリのベストセラー作家イサベル・アジェンデ  自らの半生、家族、ミシェル・バシュレ大統領、拷問、移民体験を語る(08.4.7放送)
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第108号(2017.2.27)

アメリカの急進派 I.S.ストーン-2(2009.6.18放送)

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アップリンクで上映される新作カナダ映画『すべての政府は嘘をつく』の公開に併せて、この映画の基調に据えられた調査報道ジャーナリスト、I.F.ストーンについて、彼の生涯、時代背景、思想をたっぷり語った番組を、2部に分けてお届けします。 稀代の調査報道ジャーナリスト、I.F.ストーンを語る2009年の長編インタビューの後半です。ここではストーンの思想がより深く掘り下げられています。ベトナム戦争における政府の嘘の暴露、公民権運動との関わり、イスラエル・パレスチナ問題との関わりと、いずれも問題に対する彼の立ち位置や報道に対する考え方がよく示される例です。また、最後には本人が語る古い映像をパシフィカ・ラジオのアーカイブから紹介しています。告発ジャーナリズムが米国における「言論の自由」の伝統に根ざしていること、巨大な軍事機構を持つことが米国が戦争をする原因になっているという指摘など、現在にも通用する鋭い指摘をしています。「急進派ジャーナリスト」を自称したI.F.ストーンは、20世紀アメリカを代表する調査報道記者でした。学究的とさえいえる緻密で徹底した調査によって政治スキャンダルを暴く独特のスタイルで、報道界に大きな影響を与えました。60年にわたる活動を通じて取り上げた問題は、ニューディール政策、第二次世界大戦、マッカーシズム、冷戦世界大戦、イスラエル=パレスチナ問題、公民権運動、ベトナム戦争と多岐にわたります。ストーンの伝記を上梓した作家 D.D.ガッテンプランに、この稀代のジャーナリストの生涯について訊きます。(中野真紀子)

*D.D.ガッテンプラン (D.D. Guttenplan) ネイション誌のロンドン特派員で、I.F.ストーンの伝記American Radical: The Life and Times of I.F.Stone(『アメリカの急進派 I.F.ストーンの生涯とその時代』)を書いた。


第107号(2017.1.31)

アメリカの急進派 I.S.ストーン-1(2009.6.18放送)

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アップリンクで上映される新作カナダ映画『すべての政府は嘘をつく』の公開に併せて、この映画の基調に据えられた調査報道ジャーナリスト、I.F.ストーンについて、彼の生涯、時代背景、思想をたっぷり語った番組を、2部に分けてお届けします。 「急進派ジャーナリスト」を自称したI.F.ストーンは、20世紀アメリカを代表する調査報道記者でした。学究的とさえいえる緻密で徹底した調査によって政治スキャンダルを暴く独特のスタイルで、報道界に大きな影響を与えました。60年にわたる活動を通じて取り上げた問題は、ニューディール政策、第二次世界大戦、マッカーシズム、冷戦世界大戦、イスラエル=パレスチナ問題、公民権運動、ベトナム戦争と多岐にわたります。有名な自費出版の個人ジャーナル『週刊I.F.ストーン』を始めたきっかけは、マッカーシー時代の言論弾圧の中で、公的医療保険の導入を阻む医療業界のボスを果敢に批判してマスコミから追放されたことでした。その結果は、先進国で唯一、今日に至るまで公的医療保険制度を持てない不幸な米国市民です。ストーンのような忌憚のない報道を主流メディアから排除することが、いかに危険であるかを、これがよく物語っています。たった一人の手で4千部から出発した『週間IFストーン』は、最盛期の1960年代には発行部数約7万のを記録するまでになりました。しかし、そのあいだ中ずっと、ストーンにはFBIの尾行がついていたのです。ストーンの伝記を上梓した作家 D.D.ガッテンプランに、この稀代のジャーナリストの生涯について訊きます。(中野真紀子)

*D.D.ガッテンプラン (D.D. Guttenplan) ネイション誌のロンドン特派員で、I.F.ストーンの伝記American Radical: The Life and Times of I.F.Stone(『アメリカの急進派 I.F.ストーンの生涯とその時代』)を書いた。


第106号(2016.12.31)

アイスランドの海賊党(2016.4.6放送)

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租税回避地に置かれた隠し資産が記された「パナマ文書」の報道は世界を震撼させましたが、真っ先に辞任に追い込まれたのがアイスランド首相だったことは、この国の過去と密接に関係しています。極北の国アイスランドは金融立国をめざし、高金利を餌に外国資本を呼び込んで金融部門を異常に肥大させました。アイスランドの銀行が扱うハイリターンの金融派生商品は、租税回避地の存在と表裏一体のハイリスク投資でした。それゆえ2008年のリーマンショックと国際金融危機の影響をモロに受け、まっ先に通貨暴落と金融危機で国家経済が破綻しました。この危機に際してアイスランドが選択した道はギリシャとは異なり、税金を使った銀行救済を拒絶し、銀行を破綻させて納税者を守ることでした。債権者の多くが外国人投資家であり、彼らの資産をアイスランドの納税者が肩代わりするいわれはないからです。これは国際的な非難を浴びましたが、わずか数年でアイスランド経済は復活し、この方法の正しさを証明することになりました。こうした措置を可能にした背景には、経済破綻をきっかけにウィキリークスによる不正暴露で目覚めた市民たちの大規模な抗議運動があり、グローバル金融体制と結んだ既存の政治を追い払ったのです。今回の首相の辞任劇は、そうした一連の経緯に対する裏切りとみなされ市民の怒りを買いました。一方、アイスランド海賊党は、市民の抗議運動の中から生まれました。民衆の手に権力を取り戻し、政府情報の開示を推進し、ネット社会の現実に即した政治の仕組みを築くための根本的な変革を求める未来志向の政党です。10月の選挙では第一党にはなれませんでしたが、着実に勢力を伸ばしました。海賊党に支持が集まるアイスランドは、世界の最先端を走っているようです。(中野真紀子)

*アイスランド国会議員、海賊党の代表。ウィキリークスに協力し、米軍ヘリによるイラク民間人銃撃ビデオの公開に尽力。米捜査当局がツイッター社に彼女のアカウント情報を請求したことを知り、捜査情報の開示を求め、2013年国防権限法に異を唱える著名人の集団訴訟に参加。先端的な情報公開法制IMMIについては、DVD17巻の「アイスランドは情報天国を目指す」に収録


第105号(2016.11.17)

優生保護運動の先駆者は米国(2016.3.17放送)

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ドナルド・トランプが大統領選を制した直後から、米国各地でマイノリティに対するヘイトクライムが急増しています。民主党が自滅ともいえる大敗北を喫し、これまでリベラルに抑え込まれていた白人至上主義が一気に噴出した感があります。グローバル化で転落する白人中流層の不満を移民叩きによってすくい上げるトランプの手法が招いたものではありますが、その背景には米国社会に根深く染み付いた人種差別主義の伝統があることも忘れてはいけません。優生学といえば悪名高いナチスの断種法と人種政策が真っ先に思い浮かべがちですが、じつは他に先駆けて断種法を成立させ、数万人の人々に不妊手術を強制した国は米国でした。米国は当時の優生学の中心地であり、推進者の中にはナチの科学者と密接に連絡を交わし、彼らの人種政策に助言を与えていた者もいたのです。1920年代から30年代にかけて、優生学思想は米国のエスタブリッシュメントのあいだに広く浸透し、大統領や最高裁判事といった指導的立場にある人々にも熱心に支持されていました。このような過去の事実が現在あまり知られていないのは、都合の悪い過去については口をつぐむという「臭いものに蓋」的な態度のせいです。それを端的に示すのが、断種法を合憲とした1924年の最高裁判決に関与したエリート裁判官たちや、この恥ずべき判決についての、その後の扱いです。この判決が今も正式には覆されておらず、口に出せない本音として温存されていることが、米国社会の病根の一つにつながっているようです。現在の米国の状況を考える上で、たいへん示唆的なインタビューです。(中野真紀子)

*アダム・コーエン(Adam Cohen):Imbeciles: The Supreme Court, American Eugenics, and the Sterilization of Carrie Buck(『知的障害者:米最高裁、米国の優生学とキャリー・バックへの不妊手術』)の著者で、元ニューヨーク・タイムズ紙の編集委員、元タイム誌の特別編集員。現在は、TheNationalBookReview.comの共同編集者


第104号(2016.9.30)

日系米国人強制収容の記憶(2016.4.11放送)

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知っているようで知らない日系アメリカ人の歴史。第二次大戦中の強制収容がいかに不当なものであったかは、一般のアメリカ人はもとより、日本に住む我々の多くも詳細は知りません。じつは日系アメリカ人にとっても、被害に遭った親の世代が口を閉ざしてしまったせいで過去は闇に葬られてしまったようです。三世や四世の時代になってようやく本格的な過去の掘り起しの気運が起こり、何が本当に起きたのかを開明すべく忌憚のない議論が始まりました。「アメリカの強制収容所」と題する展覧会の記録を見ると、第二次大戦中の欧州のユダヤ人の体験と米国の日系人の体験を重ね合わせるような企画もあったようです。ユダヤ系の人々が強制収容所の体験に強烈な執着を示すのとは対照的に、日系の人々は過去の迫害体験を忌み嫌うあまり、冷淡と忘却に逃げ込んだようです。体験そのものを知ることも重要ですが、それに対峙する姿勢について比較してみることも、自分たちが何者かを知る手がかりですね。一方、軍事的脅威をでっちあげて通常の司法手続きを回避し、少数移民の財産を奪った暴挙を推進した張本人が、進歩的な政策で知られるフランクリン・ルーズベルト大統領だったこと、それを支えたのがアメリカ自由人権協会の重鎮ロジャー・ボールドウィンだったことなどは、アメリカのリベラル派が後世に遺した負の遺産になりかねません。(中野真紀子)

*カレン・イシズカ(Karen Ishizuka):ロサンゼルスでアジア系アメリカ人の運動にかかわる日系三世。全米を巡回した"America’s Concentration Camps: Remembering the Japanese-American Experience"(アメリカの強制収容所:日系アメリカ人の体験を語り継ぐ)展のキュレーターを勤めた。Lost and Found: Reclaiming the Japanese American Incarceration(『遺失物 日系アメリカ人強制収容の記憶を取り戻す』)の著者。近著はServe the People: Making Asian America in the Long Sixties(『人民のために尽くす:怒涛の60年代におけるアジア系アメリカ人の誕生』)。

*リチャード・リーブズ(Richard Reeves):The Shocking Story of the Japanese-American Internment in World War II(『汚点:第2次世界大戦中の日系アメリカ人収容をめぐる衝撃の真実』)をはじめ多数の著作を持つベストセラー作家。南カリフォルニア大学のアンネンバーグ・コミュニケーション学部の上級講師。


第103号(2016.8.29)

祭りをダシにする惨事資本主義(2016.6.1放送)

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現代のオリンピックは開催都市にとって悪魔の抱擁。お祭り騒ぎに税金を蕩尽した後には、巨額の赤字と公共サービスの低下、経済の停滞が待ち構えています。ブラジルの場合はすでに経済が危機的状況に陥り、政治は大統領弾劾で大混乱、おまけにジカ熱が猛威を振るうという最悪の状態ですが、それでも競技は敢行されました。どうして国民をほったらかしてまで五輪を成功させなければならないのか、この理不尽を回避する手だてはないのか、とっても気になります。明日はわが身の東京ですから。二人のゲストを迎え、オリンピックの歴史を検証しながら、近年における変質の本質と、将来に向けた変革の可能性について語り合います。特にジュールズ・ボイコフが唱える「祝典便乗型資本主義」という説明は、ナオミ・クラインの「惨事便乗型資本主義」論を一歩進めた補完理論として、たいへん説得力があります。すでに惨事便乗型の略奪で緊縮財政を強いられ、しみったれた生活にうんざりした人々は気晴らしを必要とします。そこで気分がぱっと明るくなるような巨大スポーツイベントが提供されるのですが、そこには、またしても企業が群がり、公金で賄われるおいしい受注のつかみ取りが始まり、当初の予算はすっかり別のものに書き換えられてしまいます。膨大な借金で財政はさらに逼迫し、破綻すればはげたかファンドの餌食。こんな、ぞっとするような構図には陥らないように、しっかり見張っていかなければ。必見のインタビューです。(中野真紀子)

*デイブ・ザイリン(Dave Zirin):雑誌『ネイション』のスポーツ欄編集主任。Brazil’s Dance with the Devil: The World Cup, the Olympics, and the Fight for Democracy(『悪魔と踊るブラジル:ワールドカップ、オリンピックと民主主義への闘い』)の著者

*ジュールズ・ボイコフ(Jules Boykoff):オレゴン州のパシフィック大学の政治学教授。Power Games: A Political History of the Olympics(『パワー・ゲーム オリンピックの政治史』)の著者。


第102号(2016.7.10)

1兆ドルの核兵器刷新計画(2016.4.13放送)

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オバマ大統領の歴史的な広島訪問に先立ち、4月11日ジョン・ケリー氏が現職の米国国務長官としてはじめて原爆被災地の広島を訪問しました。ケリー氏も「核なき世界」の実現に向けて力を尽くすという決意を語りましたが、実際の政策を見ると、米国のやっていることは新たな軍拡競争の幕開けにつながりかねません。今後30年間で1兆ドルをつぎ込み、保有核兵器を小型化し、精度を上げて、実戦に使えるものに置き換えていく計画です。しかし、被害が局地的に限定されるからといって核戦争の危険は減少するとは限りません。破壊力の大きさゆえに「張子の虎」だった大型核兵器よりも、実際に使用できる小型核兵器のほうが、報復攻撃や先制攻撃の可能性を考えれば何倍も危険ではないでしょうか。米国の核兵器刷新計画について報告書を出した「核の説明責任を求める市民団体連合」から、著者の一人マリリア・ケリーに聞きます。(中野真紀子)

*マリリア・ケリー(Marylia Kelley):トライバレー・ケアーズ(Tri-Valley CAREs:放射能環境に反対するコミュニティ)の代表。同団体は最近、Alliance for Nuclear Accountability(核の説明責任を求める市民団体連合)と連携してTrillion Dollar Trainwreck(1兆ドルの大惨事) という報告書を発表し、オバマ政権が30年間で1兆ドルをかけて米国の核兵器庫を全面的に刷新する計画を進めていることを明らかにした。


第101号(2016.6.30)

人権とジェンダーが気候対策の鍵(2015.12.10放送)

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昨年12月にパリで開催された気候変動サミットは、2020年に失効する京都議定書の後を継ぐ新たな枠組みを定める超重要な会議でした。さまざまな対立はあったものの、最終的には「歴史的な合意」とメディアが絶賛するパリ協定が全196カ国の承認を得て採択されました。とはいえ会議の終盤に持ち上がった協定文中の「人権」と「ジェンダー平等」への言及をめぐる駆け引きは、合意の成立を危うくするような事態を招きました。最後の最後に妥協が成立し、両方の文言は前文に残ることになりましたが、この問題が紛糾したおかげで、「人権」と「ジェンダー」という文言がなぜ国際的な気候変動対策の基本原則として決定的に重要なのかが明快にされました。優れた気候対策は、単にCO2を効率的に削減すればよいということではなく、気候変動の被害に苦しむ地域の人々の生活環境全体を立て直す方向でなければいけません。特に見過ごされがちだった「ジェンダーの平等」という視点の重要性を中心に、元アイルランド大統領メアリー・ロビンソンが、パリ会議で議論された最新の論点を語ります。(中野真紀子)

*メアリー・ロビンソン(Mary Robinson):アイルランド共和国第7代大統領(1990~97)、国際連合人権高等弁務官(1997~2002)などを経て、2010年にメアリー・ロビンソン気候正義基金を設立。


第100号(2016.5.31)

租税回避が招く大惨事と対処法(2015.11.03放送)

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パナマ文書の衝撃以来、タックスヘイブンに注目が集まっています。そんな中で非常にタイムリーな映画が『我々が支払う代償』です。グローバルな租税回避システムの問題を深く掘り下げたこのドキュメンタリー映画を基に、さまざまな角度から問題を考察します。前半部分は企業の租税回避をめぐる英米の議会における聴聞会の様子です。アップル、グーグル、アマゾンといった名だたる巨大ネット企業の税金逃れの実態が追及されていきます。合法性を強調するのがこれらの企業の常套手段ですが、公共サービスは享受しながら税金は払わないという行為の反社会性は隠しようがありません。経済学からモラルの観点が消滅して久しいようですが、道徳哲学のない経済学はいったい何のために存在するのかが問われる時期にきたようです。放送時間からはみ出した第二部は、まだ字幕動画はありませんが、重要性に鑑み先に翻訳してしまいました。映画に登場する経済学者のトマ・ピケティ、社会学者のサスキア・サッセン、タックスヘイブンについての第一人者ニコラス・シャクソンなど、興味深い面々のコメントを手がかりに話を進めます。租税回避と格差拡大の関係、特に累進課税制度の衰退が中産階級や社会保障制度の崩壊を招き、19世紀のような階級社会への逆戻りが始まっているという考察、社会契約の崩壊、グローバルなタックスヘイブン・ネットワーク形成の歴史など、奥の深い話題が続きます。そして最後に、この状況に対処するため、いま何をすべきかという切実な問題提起も盛り込まれています。現代版の産業革命で産業構造は激変し、もはや20世紀と同じ徴税システムに戻ることはできません。21世紀の世界に通用する別の形の税制で累進課税を再建し、平等な社会を復活する必要があります。その決め手はロビンフッド税、すなわち金融取引税です。重要なことは、普通の人々が新税制について考え、要求する運動を作っていくことだと監督は言い、この映画をつくった動機をほのめかします。(中野真紀子)

*ハロルド・クルックス(Harold Crooks):・新作ドキュメンタリー映画『我々が支払う代償』の監督

*ジェイムズ・ヘンリー(James Henry):経済学者、法律家、タックス・ジャスティス・ネットワークの上級顧問。元マッキンゼー・アンド・カンパニーの主任エコノミスト。映画『我々が支払う代償』にも登場した。


第99号(2016.4.10)

市民が守る「ネットの中立」(2015.2.6放送)

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インターネットが企業利益の追求のために二層化してしまうところだったのを、反対する大勢の市民の声が止めました。インターネットを根本から変えることになる、この問題の深刻さや、ここに至るまでの紆余曲折については、この2014年の動画「マイケル・パウエルの置き土産とネット中立性を守るバトルの再開」を見るとよくわかります。オバマ大統領が任命した新FCC委員長トム・ウィーラーは、ケーブル業界やワイアレス業界を代表する大物ロビイストを務めた人物だったため、もはやネット中立性の原則は風前の灯火と思われていました。ところが、そのウィーラー委員長が2015年2月、180度の方向転換を見せ、「インターネットの中立」原則を守るためFCC史上最強の規制を導入する方針を打ち出しました。まさかの手のひら返しの背景には、FCCに殺到した400万人もの市民からのパブリックコメントがありました。かつてマイケル・パウエルFCC委員長がメディア所有規制の大幅緩和によるメディアの大統合を企てたときも、200万人の市民が反対意志を表明したため撤回に追い込まれました。今回はなんとその倍の数の市民が行動を起こし、業界の圧力を覆したのです。さすがアメリカだ、などと関心しているだけではいけません。米国だって普通の人には、「ネットの中立性」なんて抽象的すぎて魅力のない言葉です。こんな注目されにくい観念をわかりやすく説明し、ことの重大性を大勢に知らせる努力があってこそ、これだけの動員ができたのです。短期間のうちに大規模な運動を全国に巻き起こしていったメディア活動家や改革団体の努力には学ぶことが沢山あります。キャンペーンを組織してきた主要団体の一つ「フリープレス」のティム・カーは、ここ5年ほどでメディア改革運動は大きな盛り上がりをみせ、いまや米国のネット市民は一つの運動母体を形成するようになっていると指摘しています。マスコミ批判の一方で、こうした新メディアの支持母体を作り上げていく努力も重要ですね。(中野真紀子)

*ティム・カー(Tim Carr):メディア改革団体「フリープレス」の戦略担当シニア・ディレクター。FCCがネット中立性保護規制をめぐる採決を予定する2月26日に向け、「インターネット・カウントダウン」運動を、他の団体と共に組織した。


第98号(2016.3.30)

アレン・ダレスと米国の影の政府(2015.10.13放送)

字幕動画(第一部)
字幕動画(第二部)

第二次戦後のアメリカの国家体制で特徴的なのは「国家安全保障体制」、すなわち国家安全保障委員会(NSC)、CIA、国防総省、統合参謀本部といった新しい官僚機構がつくりだす半永久的な軍事動員体制です。アメリカという国家に脅威をもたらす可能性のあるものは全て先制攻撃で排除しなければなりません。国家安全保障の範囲も、最初は領土や軍事的なものでしたが、次第に経済的な安定や資源供給の確保、環境保全なども含むようになり、仮想敵とされるものも国家だけではなく、麻薬カルテルやゲリラに拡大しています。今日ではテロリストがそれに追加されました。しかし、こうした脅威に対抗する措置は、しばしば個人の自由や知る権利を侵害します。民主主義の国を守るために、極めて非民主的な影の要素が肥大していくのは奇怪なことですが、これが今現在も民主的に選出された大統領の手足を縛っているようです。このような体制が築かれることになったのは、どういう経緯によるのでしょうか。この過程に大きな役割を果たしたと見られるのが「CIAの育ての親」アレン・ダレスです。ダレス長官時代にCIAは大統領も手玉にとる強大な組織に成長しました。国の法規を無視し、議会や大統領にも従わず、自前で予算を調達し非合法活動に走るという暴走ぶりで、まさに影の政府です。1950年代の出来事をいま一度ふり返り、権力の内部に別の指揮系統を作り上げることになった具体的な経緯と、ケネディ政権とダレスの確執、さらには主流マスコミが忌避するケネディ暗殺の黒幕についても、興味深い洞察が示されています。(中野真紀子)

*デイビッド・タルボット(David Talbot):Salon.comの創設者、元CEO・編集長。新刊The Devil’s Chessboard: Allen Dulles, the CIA, and the Rise of America’s Secret Government(『悪魔のチェスボード アレン・ダレスとCIA、米国の影の政府の出現』) の著者。Brothers: The Hidden History of the Kennedy Years(『兄弟 ケネディ時代の秘史』)はベストセラー


第97号(2016.2.28)

まやかしのイデオロギー対立(2014.4.28放送)

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最近よく再生されるこの動画。2年近く前のものなのですが、今の日本の状況に重なるところがあるのでしょう。今年の米国の大統領選挙は民主党も共和党も党の上層部に挑戦するようなアウトサイダー的な候補が大きな支持を集めているのが特徴です。背景にあるのは大企業の暴挙を許している既存の政治体制への不満です。二大政党の上層部はいずれも選挙資金源である巨大資本にひれ伏していますが、大企業優遇の政策を露骨に進めれば選挙民の不興を買ってしまいます。そこで彼らの注意を逸らすために、保守派の政治家は「家族制度を守れ」といったような伝統的価値の危機を訴え、リベラル派はその逆をはって対抗し、表面上は社会問題をめぐるイデオロギー対立が繰り広げられています。その影で大企業に有利な政策がさしたる対立もなく粛々と進められるという悪辣な構図。でも実は、その足元では地方政治のレベルで左派と右派の連携が全米各地に広がっているのだと、ラルフ・ネイダーは指摘します。最低賃金の引き上げ、刑事司法の改革、危険なグローバル貿易協定の拡大阻止、エネルギー政策の転換など、数多くの分野で左派と右派の共闘が生まれ、下からの突き上げによって議員やマスコミを動かしているのだそうです。そうした下からの動きを押さえつけてきた党中央への反発が、現在の選挙戦にも反映されているのでしょう。日本の政治も今が正念場。イデオロギー対立に惑わされることなく、真の問題点を見据えた団結が望まれます。(中野真紀子)

*ラルフ・ネイダー(Ralph Nader):米国の消費者運動に火をつけ、パブリック・シチズンなどの組織を発足させ何世代にもわたる活動家を輩出させた。1996年以降は、二大政党政治に異を唱え、第3極の候補として大統領選挙に4回出馬した。2014年の新著は、Unstoppable: The Emerging Left-Right Alliance to Dismantle the Corporate State(『もうとまらない 企業国家をぶっつぶす右派・左派連合の台頭』)で左右両派の共闘を訴えた。


第96号(2016.1.28)

パリ襲撃で蘇る9.11(2015.11.19放送)

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11月13日金曜日に起きたパリの襲撃で、世界が一気にキナ臭くなってきました。フランスのムスリムたちは1月のシャルリエブド襲撃事件に続いて再びイスラム憎悪の高まりに怯えています。各国で移民への反感も露骨になってきました。フランスでは非常事態が宣言され、デモも禁止されています。フランスやベルギーの当局が国家権力の拡大に走る中、米国の諜報機関や治安関連のトップもこの事件に便乗して国民監視の正当化を図っています。コーミーFBI長官は、スマートフォンの暗号化情報にアクセスする権限が必要だと言い、ブレナンCIA長官は、NSAの監視体制が暴露された為にテロリストの発見が困難になったと言いました。ウールジー元長官にいたっては、エドワード・スノーデンの手はパリ襲撃の犠牲者の血で汚れているとまで言います。このような政府高官の放言を無批判に報道し、イスラム憎悪と戦争拡大を煽る米国のメディアの体質、「イスラム国」の出現と勢力拡大に最も大きな責任のある米国の侵略と中東政策、そして軍事行動の拡大で、暴利をむさぼるのは誰なのかを、グレン・グリーンウォルドが明快に語ります。パリ襲撃後の初取引となる週明けの株式市場では、低調な市場のなかで軍需関連株だけがほぼ垂直に値を上げました。投資家は、欧米諸国の空爆拡大によって大量の税金が彼らの懐に入ることをよく知っています。(中野真紀子)

*グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald):ピュリツァー賞受賞のジャーナリスト。オンライン調査報道サイト『インターセプト』の共同創設者。


第95号(2015.12.26)

ギリシャの悲劇は世界の鏡像(2015.8.21放送)

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大統領選挙で民主党の指名を争うバーニー・サンダース議員はグラスルーツの強い支持を集めてヒラリー・クリントン候補を猛烈に追い上げています。選挙集会には全国どこでも多数の支援者がつめかけています。選挙献金も230万ドルを超え、大統領候補としては史上最高額に達しています。でもメディアには、そんなことは取り上げられません。大手メディアの世界では、金融業界を中心に巨大企業の利益を代弁するヒラリーがあくまでも「本命」でなければいけないからです。おまけに、民主党の全国委員会さえもサンダース議員の足を引っ張るようなことをしています。メディアがサンダース候補を取り上げたがらない理由は、彼の主張を聞けばわかります。バーニー候補の面目躍如というようなスピーチをお届けします。今年7月にワシントンの上院議員会館に経済専門家を集めて行われたフォーラムのもので、主要なテーマはギリシャの債務危機です。ギリシャの話が中心ですが、問題はギリシャにとどまるものではなく、世界の多くの国々が共有するものです。重過ぎる債務と極端な格差に苦しむ国が、債権者の強要する緊縮政策のために所得も経済もますます低迷し、社会的弱者が追い詰められ、民主主義も人権も踏みにじられていきます。ギリシャで起きていることは、いま世界中で起きている不条理な構造を、この上なく鮮明にみせてくれる鏡なのです。(中野真紀子)

*バーニー・サンダース(Bernie Sanders):バーモント州選出の無所属の上院議員。民主党と院内会派を組み、2016年の大統領選挙に民主党から出馬した。


第94号(2015.11.22)

司法を蘇らせた砂粒の力(2011.9.15放送)

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中央アメリカの国グアテマラは1950年代前半の民主化が米国の干渉で阻止されて以来、軍の親米派と反米派や左派の対立が続き、1960年に始まった内戦が96年の和平合意まで36年間も続きました。親米軍事政権は反体制派のゲリラ戦に対抗するため、ゲリラや左派が潜入していると見られるマヤ系先住民の村を襲撃して焼き払い、住民を大量虐殺しました。この内戦で推定20万人が殺害または失踪させられましたが、その多くは1982年に軍事クーデターで権力を掌握したエフライン・リオス・モントの1年半の親米独裁政権の時代に集中しています。このすさまじい大量虐殺については内戦終結後だれも責任を問われることなく、政府は事実を否定しつづけました。下手人たちが権力の中枢に居座りつづけ、人々は恐怖で口を閉ざし、司法は無力化しました。極悪な犯罪を免責してきたことが、麻薬組織が幅を利かせ暴力事件が日常化する今日の状況を招いたと法医人類学者フレディ・ベチェリは指摘します。ところが、そんなグアテマラで、2013年5月に驚くべき事件が起こりました。グアテマラの裁判所がリオス・モント元将軍に対し、ジェノサイドと人道に対する罪で、80年の刑を宣告したのです。中南米はもちろん、世界中を見渡しても元国家元首が自国の司法制度の中でジェノサイドの罪で裁かれるなんて初めてのことです。しかも有罪判決が出たのです。死んだかのように思われていたグアテマラの司法が息を吹き返した背景には、重大犯罪に断固として裁きを求める人々の地道な活動と国際ネットワークの働きがありました。この映画に描かれているのはその第一歩。闇に葬られた過去を掘り起こし、記憶の断片を拾い集めて証拠を積み上げる丹念な作業が裁判所を動かしたのです。(中野真紀子)

*パメラ・イエーツ(Pamela Yates): 映画『グラニート 独裁者を追え』(Granito: How to Nail a Dictator)の監督。

*フレディ・ペチェレリ(Fredy Peccerelli): グアテマラ法医人類学基金のディレクター。


第93号(2015.10.13)

コービンが示す本物の選択肢(2015.9.14放送)

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英国の野党労働党の新党首は筋金入りの社会主義者ジェレミー・コービン議員。泡沫候補と見られていたのに、反戦、反緊縮、移民保護を掲げて圧勝し、国内外に大きな衝撃を与えました。これで労働党に政権奪還の芽はなくなったとメディアはけなしますが、マスコミの意見にひれ伏すような政治家にろくなのはいません。政治評論家タリク・アリは、新党首の誕生は労働党がニューレイバー路線と決別し、国民に本物の選択肢を提供する政治的大転換だと大喜びです。「ニューレイバー」は1994年に党首に就任したトニー・ブレアが、左派路線を中道寄りに修正し、上中流階級の支持獲得を狙って採用した新ブランドです。ニューレイバーはマスコミにもてはやされ、労働党は1997年の選挙に圧勝し、17年ぶりに保守党から政権を奪還しましたが、その政策は、サッチャー政権以来の市場原理主義の継承でした。若者の政治離れは英国でも深刻ですが、彼らが無関心なのは誰に投票しても同じだからです。でも泡沫候補だったコービンに、まさかの地すべり的勝利をもたらしたのは、彼の主張に共感して熱烈な声援を送った若者たちでした。振り付けどおりに動くだけの信念のない議員ではなく、本当に自分たちの声を代弁してくれる政治家が見つかれば、彼らは本気で動くのです。長年の国民不在の選挙にがまんできなくなった人々が、自分たちの運動で政治家を動かし始めたようです。日本でも反原発、反安保の抗議運動が政治運動に変わろうとしている今、タリク・アリの分析は必読です。(中野真紀子)

*タリク・アリ(Tariq Ali):パキスタン出身の英国の政治評論家、歴史家、活動家、映像作家、小説家、『ニュー・レフト・レビュー』の編集委員。最新の著作はThe Extreme Centre: A Warning(『中道急進派に ご注意』)。


第92号(2015.9.13)

変わりゆくキューバ (2015.6.2放送)

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昨年12月、オバマ大統領とラウル・カストロ議長が国交正常化に向けて交渉を開始すると発表して以来、両国の関係改善は着々と進み、米国からの旅行者の殺到でキューバの観光業は大賑わいです。一見、オバマの大英断のように映るのですが、じつは追い込まれた末の苦渋の選択だったようです。冷戦はとうに終わり、もはや脅威でも何でもないキューバを執拗に敵視し続ける米国に、他の中南米の国々が痺れを切らし、2009年にキューバの米州機構(OAS)復帰を求める決議をしました。カストロが来るなら出席しないとオバマは抵抗しましたが、中南米諸国は再度の決議を行って公然と反旗を翻し、米州機構に対抗する中南米カリブ諸国共同体(CELAC)を結成して軸足を移し、気がつけばキューバではなく米国のほうが米州で孤立していたのです。そこでようやく、50余年ぶりに米国の扉が開く運びとなり、キューバの人々は期待に胸を膨らませています。ここ10年弱の規制緩和で勃興した民営の小規模事業が、新しい経済機会の拡大で飛躍的に成長すると期待されています。しかし、米国企業側ももちろんキューバ市場への参入を狙っています。米国流の資本主義が押し寄せる中で、キューバの小規模ビジネスはどう変質するのでしょう。また、90年代に導入されて大きな成功を収めている都市部の有機農業も、米国のアグリビジネスとの競争が始まる中で生き残ることができるのでしょうか。そうした懸念に応えて、映像による現地報告が、変わりゆくハバナの街から届きました。(中野真紀子)

*ジェイン・フランクリン(Jane Franklin): キューバ史研究家、作家。Cuba and the United States: A Chronological History (『キューバと米国~年代記』)、Cuban Foreign Relations: A Chronology, 1959-1982(『キューバの外交関係 1959~82年の年代記』)などの著作がある。


第91号(2015.8.10)

極限の証言者 ロバート・J・リフトン (2015.5.7放送)

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ナチの強制収容所で処刑に直接関わったり人体実験を行った医師たちは、極悪非道な特殊例とみなされがちです。しかし、広島の被爆者へのインタビュー調査を行いその精神的側面に初めて光をあてた記念碑的著作『ヒロシマを生き抜く─精神史的考察』の著者で、戦争をはじめとする極限状況における人間の心理の徹底した批判的分析で知られる精神医学者ロバート・J・リフトンによれば、どんなジェノサイドにも専門家の存在は欠かせません。人間誰しも、集団の規範に自分を適応させようとする傾向があり、医者や心理学者を含め、知的職業につく専門家であっても、その点で何の違いもありません。たとえ倫理に反する行為であっても、上からの命令や承認、仲間内での容認があれば、自分の役割だとして受け入れ、実行してしまう、というのです。9.11多発テロ事件後、ブッシュ政権による拷問の正当化に権威ある「アメリカ心理学会」が加担したことがスキャンダルになりました。が、これまた同じ根をもつできごとだとみられます。社会が悪を遂行するとき、その規範にのまれず、個人としての倫理観をどう保ち、行動するか。リフトンの問いかけは、現代社会に生きるすべての人に課された問いなのです。(大竹秀子)

*ロバート・J・リフトン(Robert Jay Lifton) 米国の代表的な精神医学者で著書多数。ニューヨーク市立大学の精神医学・心理学の名誉教授。国内外で多数の賞や名誉学位を受けている。『広島を生き抜く』 、The Nazi Doctors: Medical Killing and the Psychology of Genocide(『ナチスの医師たち 医療殺人とジェノサイドの心理』)など多数の著書がある。最近、Witness to an Extreme Century: A Memoir(『極限の世紀の証言者 ~回想録』)というメモワールを出した。


第90号(2015.7.10)

ナオミ・クライン : これがすべてを変える(2014.9.18放送)

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2007年刊のベストセラー『ショックドクトリン 惨事便乗型資本主義』で民主主義を破壊する新自由主義批判の旗手になったナオミ・クライン。2014年に出版された待望の新著This Changes Everything: Capitalism vs. the Climate(『これがすべてを変える~資本主義と気候の対決』)でいかにも彼女らしい大胆な解決策を打ち出しました。惨事に便乗してはびこり民衆をグローバルに抑圧し格差を広げる市場原理主義に対抗するには、民衆の側が気候変動という災厄に「便乗」、いやそれを「活用」して破滅的な気候変動と不平等の拡大という二大危機にみまわれた現代の世界を一挙に打ち壊してしまおう。世界経済の根幹を支えている一握りの人々が牛耳る中央集権型の化石燃料依存構造を打ち壊し再生可能なエネルギーを基盤した経済に作り直すことで富や権力が分散化された新たな世界も可能になると呼びかけています。環境危機解決の障害となっている世界各地の大小さまざまな事象の緻密な取材・分析に基づいたナオミ・クラインのパワフルな声をお聞きください。(大竹秀子)

*ナオミ・クライン(Naomi Klein): カナダ人ジャーナリスト。『ブランドなんか、いらない』、『ショックドクトリン~惨事便乗型資本主義』はベストセラーになった。新著は、This Changes Everything: Capitalism vs. the Climate(『これがすべてを変える~資本主義と気候の対決』)


第89号(2015.6.10)

米国 ベネズエラ敵視で威信失墜 (2015.3.11放送)

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2014年12月、キューバとの歴史的な関係修復で脚光を浴びたオバマ米大統領。しかし、ほぼ同時期に、米議会は人権侵害などを理由にベネズエラの政府高官に制裁措置を課す法を通過させました。さらに2015年3月になると、ベネズエラを「国家安全保障と外交政策を脅かす尋常ならざる脅威」とし、7人の政府高官を制裁リストに追加する大統領令が出され、米国とベネズエラとの外交関係は冷え込みました。「アメリカの裏庭」と呼ばれ、長らく中南米とカリブ海諸国に思うままの介入を続けてきた米国。米州サミットでも、キューバを締め出してきました。その米国がようやくキューバとの関係正常化の道をとり始めたのは、キューバを支持する諸国の中ですっかり孤立し、政策の見直しを余儀なくされたためだといわれています。しかし、これと同時進行でベネズエラに強硬姿勢を示したのは、なぜでしょう?ベネズエラを米州内の新たな脅威と対外的にも位置づけることで「裏庭」諸国の結束を阻み、かつ米国内の強硬派をなだめるためだと見られます。しかし、いかにも姑息なこの手段。ふたを開けてみると、米州諸国は一斉にベネズエラに味方し、米国はまたしても孤立のはめに。米当局は早々にベネズエラ敵視発言の勇み足を認めざるをえなくなり、米国の威信失墜をさらに際立たせてしまいました。中南米事情に詳しいミゲル・ティンカー・サラス教授が、米州地域での力関係の変化をみすえながら、米国・ベネズエラ外交の攻防を読み解きます。(大竹秀子)

*ミゲル・ティンカー・サラス(Miguel Tinker Salas):カリフォルニア州ポモナ大学歴史学教授。著書はThe Enduring Legacy: Oil, Culture, and Society in Venezuela(『不朽の遺産 ベネズエラの石油 文化 社会』)

 


第88号(2015.5.10)

緊縮の圧制に挑むギリシャ (2015.2.2放送)

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2015年1月、ギリシャの総選挙での左派シリザ党の勝利は、寡頭勢力に牛耳られ格差が広がる社会で過酷な緊縮政策に苦しんできたギリシャの人々に明るい希望を与えました。ネオリベのグローバルな支配を突き破る風穴を開けてくれたからです。ユーロ圏諸国、欧州中央銀行、IMFの3者による救済パッケージには過酷な財政緊縮政策の実施が組み込まれており、債務を返済するために国民の生活を破壊するような内容でした。グローバルビジネスや金融業界を偏重し、ひとにぎりの勢力者ばかりが甘い汁を吸う誤った政策から生まれた経済危機。救済プランで救われるのは銀行ばかり。支援金は銀行への負債返済に還流され、厳しい緊縮条件を課された国民の暮らしは疲弊を重ねています。「次の投薬を懇願する麻薬中毒」状態を脱し、「国境の外から押し付けられた改革」ではなく「内からの改革」で「経済を再稼動」させ「民主主義を活性化」できるか。「もう、たくさんだ」という人々の声を受けて当選を果たしたシリザ党。緊縮の圧制に挑むギリシャの頑張りに世界が注目しています。(大竹秀子)

*コスタス・パナヨタキス(Costas Panayotakis): ニューヨーク市立大学テクノロジー・カレッジの社会学教授で、Remaking Scarcity: From Capitalist Inefficiency to Economic Democracy(『希少性の再創造 資本主義の非効率から経済の民主主義へ』)の著者

 


第87号(2015.4.10)

貧者に寄り添う新風 (2014.12.31放送)

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カトリック史上700年ぶりの珍事といわれた教皇ベネディクト16世の生前退位。スキャンダルにまみれ地に落ちた教会の尊厳回復という悲願を受けて2013年3月に選出されたのが、アルゼンチン出身の現教皇フランシスコです。階層と権威が幅をきかせるカトリック教会の機構の中で清貧を旨とし、貧者や虐げられる者の側に立つ「愛と奉仕」の精神、ひょうきんな人柄で庶民の心をとりこにしています。が、その一方で、貧者に寄り添うその姿勢は、既存の特権を守ろうとする勢力を突き崩す強力な力にもなりそうです。すでに米国とキューバの国交回復の後押しをしましたし、まもなく気候変動と強欲に支配された資本主義を批判する「回勅」を発行する予定です。ラテンアメリカには、「解放の神学」の伝統があります。かつて冷戦時代にカトリック総本山のバチカンがつぶしたその精神と実践を、フランシスコは教皇の立場に立って新たにしようとしているのだと、評伝作家のオースティン・アイバリーは主張します。(大竹秀子)

*オースティン・アイバリー(Austen Ivereigh): 英国の作家、コメンテーター、「カトリックの声」設立。教皇の新評伝The Great Reformer: Francis and the Making of a Radical Pope(『偉大な改革者 急進的教皇フランシスコの誕生まで』)の著者。


第86号(2015.3.10)

「テロ」報道の色眼鏡 (2011.7.26放送)

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「歴史」的事件として人々の記憶に刻まれた2015年のシャルリー・エブド誌襲撃。でも、2011年7月に起きたノルウェー連続テロ事件を覚えている人は、どのくらいいるでしょう。オスロの政府庁舎爆破と10代の若者を狙い撃ちにした銃乱射事件との組み合わせで77人が死亡し、200人以上が負傷した事件です。大変な規模の事件だったにも関わらず、忘れ去られたのはなぜでしょう。ノルウェーの事件では、事件発生直後、メディアはイスラム過激派による犯行だときめつけました。ところが、反ムスリムの国粋主義者が犯人だとわかった途端に、熱狂的な報道は消え去りました。グレン・グリーンウォルドは、露骨な落差に大きな衝撃を受けたと言います。騒ぐに足る「テロ」事件とは、イスラム過激派による犯行に限る、そんなメディアのきめつけ。「テロ」事件の政治利用の一端をメディアが進んで担い、ムスリムのコミュニティへの「色眼鏡」と過激なナショナリストの温存を助長しているのです。(大竹秀子)

*グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald)ピュリツァー賞受賞のジャーナリスト。オンライン・んニュースサイト『インターセプト』の共同創立編集者の一人。新著は『暴露 スノーデンが私に託したファイル』。 字幕付き動画:


第85号(2015.6.10)

開発支援?それとも政権転覆? (2014.4.4放送)

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キューバと言えば、スパイ映画顔負けのカストロ暗殺計画はじめ、CIAの工作で有名です。しかし、途上国の開発支援に励むべき米国国際開発庁(USAID)までもがキューバの革命体制転覆に向け秘密工作を行っていたらしいことがAP通信の特ダネで暴露されました。若年層向けに携帯メールを使ったツイッターもどきの偽ネットワークを作り、あわよくば「キューバの春」を起こそうとしたらしいのです。利用者に出所がわからない情報を流して操作しムーブメントを生み出す手法は、米国のマーケティング業界が得意とするところですが(ノーム・チョムスキーによると広告業界自体が、米政権から情報操作の手法を学んだそうです)、海外の秘密の銀行口座を開いたりフロント会社を使ったりの仕掛けにはCIAの匂いがぷんぷんです。米国はオバマ大統領の下、キューバとの国交正常化に向けてようやく動き始めました。仕掛けられた「春」がすこやかな民主化をもたらさないことは、世界各地ですでに明らかです。開発の名を借り、若者を利用する汚い工作は、金輪際やめにしてほしいものです。(大竹秀子)

*ピーター・コーンブルー(Peter Kornbluh): ジョージ・ワシントン大学にある公益研究機関、国家安全保障アーカイブの「キューバ記録事業」責任者。近著にBack Channel to Cuba: The Hidden History of Negotiations Between Washington and Havana(『キューバへの裏口 米国・キューバ秘密交渉史』共著)。また「フォーリン・ポリシー」誌にOur Man in Havana: Was USAID Planning to Overthrow Castro?(「ハバナの男─USAIDはカストロ政権転覆を計画したのか?」)を寄稿。


第84号(2015.1.10)

事故が招く核ホロコースト (2013.9.18放送)

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他国の核開発には大騒ぎする米国ですが、自国で起きた核ホロコースト寸前の事故については口をつぐんでいます。コンピューターチップ1片の取り付けの不備や整備工がうっかり落としたハンマー、そんな些細な出来事が大惨事を引き起こし、あわや世界を破壊する核戦争の引き金になりかねなかったのです。ベストセラー『ファストフードが世界を食いつくす』で有名なエリック・シュローサーが語られずにきた米国での核兵器事故の実態、そして核を開発し保持する自体がどんなに危険をはらむことかを論じます。核ミサイルの発射は国家トップのひとにぎりの人間が限られた情報をもとにくだす一瞬の判断にゆだねられているからです。新著『指揮統制:核兵器、ダマスカス事故、安全神話』をもとに、シュロッサーはまた、核兵器をめぐる国家の秘密主義がいかに機密をはびこらせ、民主主義の敵になってきたかにも注意を喚起しています。((大竹秀子)

*エリック・シュローサー(Eric Schlosser): ジャーナリスト。ベストセラー『ファーストフードが世界を食いつくす』の著者。新著はCommand and Control: Nuclear Weapons, the Damascus Accident, and the Illusion of Safety(『指揮統制:核兵器、ダマスカス事故、安全神話』)。


第83号(2014.12.10)

スノーデンが託したもの (2014.5.13放送)

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エドワード・スノーデンが明るみに出した、米国の電子通信情報収集・監視機構の実態と手口は、世界の人々を震撼させました。米国史上最大規模の内部告発を世に出すパートナーとしてスノーデンが選んだのは米国憲法を専門とする弁護士としての体験ももつグレン・グリーンウォルドでした。まるでスパイ小説の世界に飛び込んだかのような香港でのスノーデンとの会見を軸に米国通信監視機構の骨格を描いたグリーンウォルドの新著『暴露 スノーデンが私に託したファイル』は世界24ヶ国で同時発売され、ベストセラーになりました。このインタビューはその発売当日に、デモクラシー・ナウ!のスタジオから放送されたものです。グリーンウォルドが描写するスノーデンは、高校ドロップアウトという経歴から連想されがちな社会的未熟者、不適応者というイメージからはほど遠い人物です。内部告発を完璧なものにすべく用意周到に計画を立て進める緻密な構想力と実行力、告発がもたらす余波を冷静に予測し愛する家族やパートナーを守ろうとする温かさと強靱な意思、虚栄やエゴのみじんもない自制心に、グリーンウォルドが感服し舌を巻いていることが言葉の端々からうかがわれます。急速に進化するIT技術を駆使し巨大な情報機構を築き上げた米国政府。しかし、このシステムを動かすにはネット文化で育った若い世代を現場に投入せざるを得ません。そのため時に反抗心にあふれたハッカー・タイプのぶれない人物を権力機構の中枢に組み込んでしまうのは民主主義にとってはラッキーな皮肉です。たった一人の反乱が、憲法をないがしろにした安全保障機構の秘密の堰を決壊させた。その快挙の一端を担った当事者が語る貴重な証言です。(大竹秀子)

*グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald): ガーディアン紙の一員としてピュリツアー賞を受賞したジャーナリスト。オンライン報道サイト「インターセプト」の創設者/エディター。


第82号(2014.11.10)

すべての戦争を終えるために (2011.5.10放送)

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歴史物を得意とする著述家でジャーナリストのアダム・ホックシールドの作品には、反骨のジャーナリストとめげない市民活動家がよく登場します。To End All Wars: A Story of Loyalty and Rebellion, 1914-1918 (『すべての戦争を終えるために 忠誠と反抗の物語 1914‐18年』) でも、第一次大戦を止めようと、時に家族の絆を断ち切られながらも全力を投じた有名・無名の人々が描かれます。平和主義者たちの試みは成功せず、近代兵器の投入により第一次大戦は、戦死者1600万人、戦傷者2000万人以上という惨事をもたらしました。第一次大戦開戦から1世紀が経ったいま、アメリカでは、戦争は多くは職を求めて入隊する貧困層からの志願兵にゆだねられ、無人機に代表されるようなテクノ兵器の導入でますます見えない存在となり、巨額の予算を費やしながら実感を失い、終わることなく続いています。ナショナリストの戦争推進に「ノー」という勇気は、私たちにも課されています。(大竹秀子)

*アダム・ホックシールド(Adam Hochschild): マザージョーンズ誌の共同設立者で、現在はカリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院で教えている。To End All Wars: A Story of Loyalty and Rebellion, 1914-1918 (『すべての戦争を終えるために 忠誠と反抗の物語 1914‐18年』) やベストセラーとなったKing Leopold's Ghost(『レオポルド王の幽霊』)など歴史物の著書多数。


第81号(2014.10.10)

新たな冷戦の時代 ロシアとウクライナ危機 (2014.4.14放送)

翻訳:中野真紀子 字幕動画

3000人以上の死者を出したウクライナ内戦は9月5日に停戦合意が成立し、散発的な衝突は続くものの今のところ和平は維持されています。南で「イスラム国」の脅威が急速に拡大してくると、とたんにこちらは休戦モードに入ったところは、いかにも代理戦争らしい展開です。背後に控える欧米陣営とロシア側の手打ちが成立し、ウクライナのEU加盟と自由貿易協定の見送りというのが当面の落としどころのようですが、事態をここまで悪化させた責任についての双方の主張は平行線のままで、冷戦状態に変わりはありません。7月のマレーシア航空機墜落事件をきっかけに、墜落の真相もうやむやなまま、欧米では全てプーチンが悪いという大合唱が始まり、それまでの経緯など吹き飛んでしまいました。ご都合主義のメディアが撒き散らす偏見に対しては、旧ソ連時代からこの地域の事情に精通している専門家の声が解毒剤です。スティーブン・コーエン教授は、欧米メディアが無視している多くの重要な事実を指摘ています。 1)ウクライナ危機の始まりは、ロシアのクリミア編入ではなく、昨年11月にEUが当時のウクライナ大統領ヤヌコビッチに最後通牒をつきつけ、EUかロシアかどちらか一方の選択を迫ったことである。2)その後のヤヌコビッチ大統領の解任と暫定政権成立はクーデターであり、現在のキエフ政府は正統性に疑問があること。3)欧米はプーチンには自重を求めていながら、NATOの東欧拡大を自制する様子はなく、堂々と臨戦態勢を発表していること。いったいどちらが緊張をあおり、軍事化を進めているのか? そもそもが、NATOの旧ソ連加盟国への拡大が今回の危機の背景になっていることを忘れてはいけません。東西冷戦終了後のNATOの存続理由こそが問われるべきでしょう。(中野真紀子)

*スティーブン・コーエン(Stephen Cohen)ニューヨーク大学ロシア学教授。ロシアとソ連に関する多数の著作がある。近著はSoviet Fates and Lost Alternatives: From Stalinism to the New Cold War(『ソビエトの運命と失われた選択肢 スターリニズムから新たな冷戦まで』)


第80号(2014.9.10)

パイプラインの政治学:Part Ⅱ (2013.10.8放送)

翻訳:阿野貴史 字幕動画

20世紀、特に第2次大戦後から現在にいたるまで、度重なる紛争の火だねとなり続けてきた石油。欧米では反民主的で非合理・強権的なイスラム原理主義と民主的で理性的・自由な欧米社会との対立構造があるのだとし、中東産油国への政治的・軍事的介入を時におおっぴらに時に隠密にはかってきました。しかし、この図式はまやかしで、実際には欧米、特に米国は、石油を都合よく手にいれるため、サウジアラビアなどでみられるように宗教的戒律を厳しく守る勢力を抱え込んだ強権的な君主制や政権と手を組み、その国の民主勢力をつぶしてきたとティモシー・ミッチェル教授は指摘します。一方、ジェイムズ・マリオットとアナ・ガルキナが所属する団体「プラットフォーム」は、国家の後ろ盾を得た巨大石油企業に対抗する住民運動を支援し、民主主義を育てる仕事をしています。石油と民主主義をめぐるパワフルなセグメントのパート2をお届けします。(大竹秀子)

*ジェイムズ・マリオット(James Marriott):ロンドンを拠点とし、社会正義と環境正義をアート、アクティビズム、教育、リサーチを通して追究するユニークな団体「プラットフォーム」の設立者で The Oil Road: Journeys from the Caspian Sea to the City of London (『石油の道 カスピ海からロンドン金融街まで』 )の共著者。

*アナ・ガルキナ(Anna Galkina):「プラットフォーム」で調査分析を担当。 

*ティモシー・ミッチェル(Timothy Mitchell):英国生まれの歴史学者。コロンビア大学中東・南アジア・アフリカ研究学科教授。 Carbon Democracy: Political Power in the Age of Oil (『炭素民主主義 石油時代の政治権力』)著者。日本語訳書に『エジプトを植民地化する』(法制大学出版局)。


第79号(2014.8.29)

パイプラインの政治学:Part I (2013.10.8放送)

翻訳:阿野 貴史 字幕動画

「石油の呪い」ということばがあります。産油国では、どこもかしこも戦争、腐敗、不平等が横行している。富をもたらすはずの天然資源が住民になぜ、不幸をもたらすのか?ロンドンを拠点とし社会正義と環境正義をユニークな手法で追究する団体「プラットフォーム」のジェイムズ・マリオットたちは、石油の政治経済学をひもとくためにパイプラインに目をつけました。旧ソ連の新興国アゼルバイジャンを例に取り、油田から欧州の製油所まで、はるばると運ばれるオイルロードの建設にどんな政略がからみ、パイプラインの周辺住民はどのような影響を受けるのか、オイルロードを旅し、非公開だったさまざまな資料を公開させて、巨大石油ビジネスBPが、政界・金融界をまきこんで展開する生々しい政略、そしてそれに対抗する地域住民のアクティビズムを描きます。一方、コロンビア大学のティモシー・ミッチェル教授の切り口は、斬新で颯爽としています。19世紀末から20世紀前半にかけて英国などを中心に世界各地で民主主義が著しい進展をみせた。この大躍進の原動力を石炭の普及にみるのです。大勢の炭鉱夫を必要とするため、労働者が団結してストライキを打てば、企業は譲歩せざるをえない。資本家にとっては由々しきこの事態を覆すために、第2次大戦後、戦争で疲弊した欧州を支援し経済を再生させる過程で、米国は世界の主要エネルギー源だった石炭を脇に押しやり、石油への方向転換を図り、大衆民主主義の後退を意図したというのです。「プラットフォーム」で調査分析を担当するアナ・ガルキナも交えた刺激的なセグメントのパート1をお届けします。(大竹秀子)

*ジェイムズ・マリオット(James Marriott):ロンドンを拠点とし、社会正義と環境正義をアート、アクティビズム、教育、リサーチを通して追究するユニークな団体「プラットフォーム」の設立者で The Oil Road: Journeys from the Caspian Sea to the City of London (『石油の道 カスピ海からロンドン金融街まで』 )の共著者。

*アナ・ガルキナ(Anna Galkina):「プラットフォーム」で調査分析を担当。 

*ティモシー・ミッチェル(Timothy Mitchell):英国生まれの歴史学者。コロンビア大学中東・南アジア・アフリカ研究学科教授。 Carbon Democracy: Political Power in the Age of Oil (『炭素民主主義 石油時代の政治権力』)著者。日本語訳書に『エジプトを植民地化する』(法制大学出版局)。


第78号(2014.7.30)

アマゾン商法とワシントンポスト紙の使い道 (2013.8.7放送)

翻訳:齋藤雅子 字幕動画

ワシントンポスト紙がアマゾン・ドット・コムCEOのジェフ・ベゾス氏に売却された時、「なんでまた?」という論義がおこりました。新聞なんてもうからない、先のないビジネスだと誰もが思っていたからです。しかし、どうやら、新聞ビジネスには、おカネもうけにまさる別のうまみがあるようです。世論を操り、自分に都合の良い法律や政策を実現させることです。もし、それが可能なら、売却価格が下落した新聞事業は、アメリカの経済や社会を自分のビジネスに都合よく、また自分の価値観にぴったりに動かしたい富豪たちにとっては、なんともお安い買い物です。実をいうと、かつてはウォーターゲート事件の曝露などでジャーナリズムのかがみとして尊敬を集めたワシントンポスト紙ですが、9・11後は社説でイラク侵攻をけしかけたりと昔の輝きはとっくに地に落ちていました。それでも、革新的なビジネスマインドをもてはやされてはいても、税金を極力払わなかったり、市場を独占的に支配したり、社員への待遇の悪さで悪名も高いベゾス氏のような人物、しかもCIAとの大規模契約など、国による監視体制にすりよって大もうけをしてきた会社のCEOが主要ジャーナリズムの首根っこをおさえてしまうのは、やはり、危険な動向です。ジャーナリズムの起死回生の道は?本を愛し、ジャーナリズムの義を信じる論者たちが、熱い論議を展開します。(大竹秀子)

*デニス・ジョンソン(Dennis Johnson):出版社メルビルハウス共同設立者。

*ロバート・マクチェズニー(Robert McChesney):フリープレスの共同創設者。『資本主義がネットを民主主義の敵に変える』など著書多数 

*ジェフ・コーエン(Jeff Cohen):イサカ大学教授。メディア監視団体「FAIR」の創設者。 


第77号(2014.6.27)

奴隷制に支えられたアイビーリーグ (2013.10.30放送)

翻訳:川上奈緒子 字幕動画

Whitewash、つまりは、過去の悪さを上手に洗い流して純粋無垢にみせかけるのは、マフィアの常套手段ですが、実はアイビーリーグにも暗い過去が。今でこそアメリカの知と良識の府として尊敬を集めている名門大学の多くは、創立期から19世紀半ばにいたるまで、アメリカの負の歴史にどっぷりと関わっていました。MITの米国史教授のクレイグ・スティーブン・ワイルダーの上梓までに10年をかけた労作、Ebony & Ivy: Race, Slavery, and the Troubled History of America’s Universities. (『エボニーとアイビー:人種、奴隷制、そしてアメリカの大学の問題ある歴史』)は、ハーバード、イェール、プリンストンを初めとする東部名門校が、奴隷貿易で財をなした実業家たちの富を財源とし、北米大陸はもちろん、西印度諸島のプランテーションで大もうけした人々の子供たちを学生としてリクルートし、大学としての基盤を築いていった歴史を跡づけます。(大竹秀子)

*クレイグ・スティーブン・ワイルダー(Craig Steven Wilder):MITのアメリカ史教授。最新著、Ebony & Ivy: Race, Slavery, and the Troubled History of America’s Universities. (『エボニーとアイビー:人種、奴隷制、そしてアメリカの大学の問題ある歴史』)で広く注目を集めた。


第76号(2014.5.31)

軍用化にさいなまれる「インディアンの土地」 (2011.5.6放送)

翻訳:斉木裕明 字幕動画

かつて自分たちの土地と社会を守るために果敢に闘い、白人入植者たちから野蛮な仇敵視されたアメリカ先住民たち。軍事力を背景としたアメリカの覇権の行使には、先住民との闘いのイメージが奇妙に重なっています。外国にある米軍基地を「保留地」と呼び、戦闘機や武器に先住民にちなんだ名前をつけるなど、先住民の歴史への軍の鈍感さはいまに始まったことではありません。さらにほかの社会から孤立した先住民の土地は、核実験、ウラン採鉱など核武装にまつわる危険な開発を無責任に行う、あるいは有害廃棄物を容易に投棄できる場所として被害を受けてきました。このような歴史をもちながら、高い失業率にあえぐ先住民コミュニティは、ほかのコミュニティに比べて軍への入隊率が著しく高く、自ら軍を支えざるをえない状況にもあります。インディアンの土地がいかに軍用化され、追い詰められているかを、先住アメリカ人活動家で作家のウィノナ・ラデュークが、語ります。(大竹秀子)

*ウィノナ・ラデューク(Winona LaDuke): 先住民活動家、作家。ミネソタ州北部のホワイトアース・ネイション在住で、団体Honor the Earth(大地を称えよ)の代表。新著はThe Militarization of Indian Country (『インディアンの土地の軍事化』)


第75号(2014.4.26)

チョムスキー:アラブ世界の民主化を望まない米国 (2011.5.11放送)

翻訳:桜井まり子 字幕動画

民主主義のほころびが世界各地で懸念されています。危険な国家主義や全体主義をちらつかせる政権が、市民の声をかき消し、しかもその動きは一国を超え、グローバルな経済的・軍事的利権の絡みの中で推進されています。そして、それは世界史の流れの帰結でもある。ノーム・チョムスキーは、「民主主義の促進」という美辞麗句が、欧米政権により民主主義つぶしのために使われてきた歴史と現状を指摘しています。米国とその同盟国の意を受けた独裁者に利権をむさぼらせて本当の民主主義を求める市民を抑え、反抗すれば「民主主義」を損なう危険分子として排除するという戦略は、 アラブ世界にとどまらずありとあらゆる場所で試みられてきたし、これからも試みられていくことでしょう。チョムスキーの言う「歴史と地理の奇妙なめぐり合わせで、世界有数のエネルギー資源である油田地帯が中東では少数派のシーア派の住む地域に集中している」という事実こそ、アラブ世界で民主主義と平和が邪魔だてされている、ずばり原点。二枚舌の「民主主義」の売り文句に躍らされないために、まずは誰が何を目的にして「問題」を仕掛けているか、からくりを知ることが重要です。(大竹秀子)

*ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky):マサチューセッツ工科大学名誉教授 言語学者 政治評論家 活動家


第4号(2014.3.30)

ハンナ・アーレント (2013.11.26放送)

翻訳:阿野貴史 字幕動画

自国政府、特に全体主義時代の政府が行った「犯罪的行為」の責任を問われるべきは誰か。後から振り返れば異常としか思えない決定を支え、実現させたのは、誰か?アイヒマン裁判は、その問いに冷徹な答をつきつけました。ハンナ・アーレントが目撃したのは、想像していた邪悪な殺人鬼ではなく、命令を守り職務に忠実であること以外に関心のないどこにでもいそうな小役人でした。「悪の凡庸」という表現で語ったイメージを受け入れる準備は、当時の社会にはなく、アーレントはアイヒマンを擁護したと誤解され、激しい非難を浴びました。ホロコーストという世紀の犯罪を支えたのは小市民だったという教訓はいまも強烈です。ドイツ人映画監督マルガレーテ・フォン・トロッタの作品『ハンナ・アーレント』は、信念を貫いたユダヤ系ドイツ人政治思想家アーレントの問いが、再び、重さを増していることを思いおこさせてくれます。(大竹秀子)

*マルガレーテ・フォン・トロッタ(Margarethe von Trotta):1942年、ベルリンに生まれる。ライナー=ヴェルナー・ファスビンダーその他の監督作品に女優として出演したのち、1975年に初監督作品『カタリーナ・ブルームの失われた名誉』(当時の夫であるフォルカー・シュレンドルフとの共同監督)を発表。代表作に『鉛の時代』、『ローザ・ルクセンブルク』、『三人姉妹』がある。

*バルバラ・スコヴァ(Barbara Sukowa):1950年、ブレーメンに生まれる。ライナー=ヴェルナー・ファスビンダー監督の『ベルリン・アレクサンダー広場』と『ローラ』で脚光を浴びる。マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『鉛の時代』と『ローザ・ルクセンブルク』にも主演している。


第73号(2014.2.27)

憎しみが拡がるイスラエル社会 (2013.10.04放送)

翻訳:斉木裕明 字幕動画

世界各地で民主化のニュースがわきたち明るい希望にあふれた時からわずか数年。非寛容とファシズムが世界を埋め尽くしつつあるかのような今日この頃です。マックス・ブルーメンソールの新著Goliath: Life and Loathing in Greater Israel (『ゴリアテ-憎しみの国 大イスラエルでの生活』)は、ネタニヤフ政権下のイスラエル社会の中で数年暮らし、そこで起きている変化をつぶさに観察・分析した力作です。パレスチナ人といえば、ともすれば占領地に住む人たちだけを思い描きがちですが、イスラエル国内のそれ以外の場所に住むパレスチナ人もいますし、イスラエルではほかにもアフリカからの移民、ベドウィン人などさまざまな人たちが暮らしています。ところが、イスラエル国内では、「占領を本土に持ち帰る」ような動きが進み、西岸地区の過激な入植者たちがイスラエル内に戻ってデモや占拠を行い、イスラエル内に居住する非ユダヤ系住民を排斥しようとしているとブルーメンソールは指摘します。「ユダヤ人の国」―こういうことばを若者たちが誇らしげに使いはじめる時、その国のせっかくの良いものが死にはじめるのも、世界共通の流れです。(大竹秀子)

*マックス・ブルーメンソール(Max Blumenthal):Republican Gomorrah: Inside the Movement that Shattered the Party(『共和党のゴモラ 党を破壊した運動の内幕』)の著者。


第72号(2014.1.31)

隠ぺいされた原爆 (2011.8.9放送)

翻訳:内藤素子 字幕動画

 2014年1月、初の来日を果たしたエイミー・グッドマンが日本での限られた時間の中で、どうしても行きたかった場所、それが広島でした。2011年8月、長崎への原爆投下記念日にオンエアされたこのセグメントでは、米国ではいまだに語られることがきわめて少ないヒロシマとナガサキへの原爆投下に関し、そのテーマを長らく追い続けてきた気鋭のジャーナリスト、グレッグ・ミッチェルをゲストを迎えています。この日が同年春に起きたフクシマの原発事故後、初の原爆投下記念日だったことを踏まえ、番組では20世紀後半の米国の政治的・軍事的・経済的立ち位置を大きく左右することになった原爆と原子力をテーマに、原爆の隠ぺいに組みしたジャーナリストと米軍の立ち入り禁止令を破って現場に足を踏み入れ言語を絶した惨状を世界に発信した記者とを対比しながら、ジャーナリズムの使命をエイミーが鮮明に浮き彫りにしています。(大竹秀子)

*グレッグ・ミッチェル(Greg Mitchell):米国新聞業界誌『エディター・アンド・パブリッシャー』誌や『ニュークリア・タイムズ』誌で長らく編集者を務め、また1960年代の伝説的音楽雑誌『クラウダディ!』誌の上級編集者としても名を馳せた。現在は、『ネイション』誌とそのウェブサイト(TheNation.com)で執筆活動を行なっている。ロバート・ジェイ・リフトン(Robert Jay Lifton)との共著『アメリカの中のヒロシマ』をはじめ広島と長崎の原爆投下について多数の著作があり、新刊著はAtomic Cover-Up: Two U.S. Soldiers, Hiroshima & Nagasaki and The Greatest Movie Never Made (『隠ぺいされた原爆:二人の米軍兵士、ヒロシマ&ナガサキ、幻の傑作映画』)。2011年には、ネイション誌のサイトでブログ"Countdown to Hiroshima 1945"を展開し、7月25日からヒロシマに原爆が投下された8月6日にいたるまでの1945年のいきさつを1日ごとに詳細にたどった。日本語翻訳書に、『ウィキリークスの時代』もある。


第71号(2013.12.22)

チリ・クーデターから40年 ビクトル・ハラ殺害への裁きを求めて (2013.9.9放送)

翻訳:斉木裕明 字幕動画

世界規模で激しい格差を生み、民主主義を破壊している「新自由主義」。その悪しき歴史をみすえる人たちが、もうひとつの9.11として重要視する、1973年9月11日。この日、チリで米政府の支援を受けた軍事クーデターが起こり、民主的に選ばれたサルバドール・アジェンデ大統領が命を落としました。クーデター後、首謀者のアウグスト・ピノチェト将軍は政権に就き、極端な新自由主義「改革」を行って冷戦体制にあった西側諸国から「優等生」として称賛を得ました。一方で、左翼や労働運動、人権運動の活動家を徹底的に弾圧し、チリは、17年間にわたり恐怖政治下に置かれました。農村の出身で民衆の心を歌って絶大な人気を得ていた伝説的な歌手ビクトル・ハラも、クーデター直後に殺されました。ベルリンの壁崩壊後、ピノチェトは失脚し、チリには民政が戻りましたが、独裁政権が行った犯罪への裁きを求める遺族や市民は、さまざまな壁につきあたりながら、たゆまぬ努力を続けています。最愛の夫だったビクトル・ハラさんを亡くしたジョアンさんもその一人。ジョアンさんが、ビクトルとの思い出、40年前にあたるクーデター当時の出来事、ビクトルの遺骸を目にした時のこと、殺害の主犯とされる元軍人への米国での訴追について語ります。(大竹秀子)

*ジョアン・ハラ (Joan Jara):英国出身。1973年9月11日のチリ・クーデター時に夫でチリの国民的歌手だったビクトル・ハラを虐殺される。ハラは拷問されてギターが弾けないように両手を折られ、40発を超える銃弾を撃ち込まれた。1984年、亡夫を追悼して著書『ビクトル・ハラ 終りなき歌』を出版。

*アルムデナ・ベルナベウ(Almudena Bernabeu):「正義と責任協会」所属の弁護士で、同協会の「移行期の正義」プログラム責任者。


第70号(2013.11.13)

オリンピックに乗っ取られたロンドン (2012.7.31放送)

翻訳:小椋優子 字幕動画

人口が密集する大都市でオリンピックを開催すると、こんな恐ろしいj羽目になる!2012年のロンドン五輪は、街の要塞化を引き起こしました。会場に近い低所得者層が住むイースト・ロンドンには、集会禁止ゾーンが作られ、2人以上がたちどまると警察に追い出されました。サイクリストたちの毎月の楽しみである集団サイクリングも、治安当局の厳しい取締を受け、逮捕者を出しました。緊急事態に備えて戦闘機や爆弾処理隊がスタンバイし、ビルの屋上には、なんと地対空ミサイルまで設置されたのです。取締は治安にとどまりません。五輪のマークの使用を許可されるのは、後援企業のみ。地元商店などが「違法に」五輪マークを使わないよう街では厳しい検閲が行われ、違反者には高額の罰金が科されました。誰のためのオリンピック?大量のチケットが企業用におさえられたため、地元住民が買おうとしてもチケットはなかなか手にはいりません。でも、住民もしっかりオリンピックに参加できることがひとつありました。それは、税金を払うこと。招聘時に発表された当初予算見積もりの4倍以上にふくれあがった開催経費の大半を支払うのは、国民です。華やかなスポーツの祭典、世界平和の象徴たるべきオリンピック。おいしい思いをしたのは、ダウ・ケミカルやBPなどの環境汚染や人権侵害で有名な企業も含めた巨大なグローバル企業。「国益」ということばの影で、市民は踏んだり蹴ったりの目にあったのです。(大竹秀子)

*ジュール・ボイコフ(Jules Boykoff): パシフィック大学準教授。ブライトン大学の客員研究員として赴任して、ロンドン五輪の開催までの動きを現地で調査した。


第69号(2013.10.18)

罰される島 ビエケス (2013.5.2放送)

翻訳:小田原 琳 字幕動画

ビエケス島は米領プエルトリコの本島の東側に位置する小さな島です。第2次大戦時の1941年に本島に設置される米軍基地の一部として島の4分の3近くが米海軍によって購入されました。以来、長年にわたり、実弾を使った射爆演習場として、また古くなった武器弾薬の廃棄場として使われました。環境破壊や事故による島民の被害に業を煮やし射爆演習場の撤去を求める必死の反対運動に屈して、米海軍がついに演習場を放棄したのは2003年のことでした。喜びにわいた市民的不服従運動の大勝利から、10年。意外にも、島民の苦しみは続いています。必要な除染作業は遅々として進まず、爆発物の処理や環境除染のためにつけられた2億ドル近い米連邦予算は、米国の請負業者の懐をあたためただけ。島民にはほとんど還元されませんでした。島民の多数が体内に重金属その他の有害物質を蓄積していると報告されており、がん発生率も異常な高率です。が、米連邦政府は、汚染との因果関係を否認しています。「米軍を追い出すなんて!」―米国にたてつくとこんな目にあうという見せしめ?罰される島ビエケスの現状が語られます。(大竹秀子)

*ロバート・ラビン(Robert Rabin): 「ビエケス島救援開発委員会」(Committee for the Rescue and Development of Vieques)の創設メンバー。米海軍の爆撃演習を終結に導いた市民的不服従により半年間投獄された経験がある。

*ホセ・セラーノ(Jose Serrano): プエルトリコ出身でニューヨーク州選出の下院議員。ビエケスにおける米軍の行動に対する批判で知られる。 


第68号(2013.9.26)

ネットが民主主義の敵に! (2013.4.5放送)

翻訳:阿野貴史 字幕動画

「インターネットが広がり始めた1980~90年代には、ネットは商業主義の入り込まない聖域に見えました」とメディア改革の旗手ロバート・マクチェズニー教授は語ります。「誰でも参加でき、対等に扱われ、巨大資本や政治権力に一市民が挑戦し、監視されることもなく、身元を突き止められることはない。インターネットを始めた人々が抱いていたのは、そんな素晴らしい民主主義の展望でした」と。ところがいまは? 寡占状態に達した巨大なネット企業は利用者の要望を無視し、劣悪なサービスに高価な料金を課しています。それなのに、利用者にとって重要なニュースや情報、クリエイティブな試みなどコンテンツを作る人たちにはおカネは流れません。なぜってネット帝国にとって商品は、コンテンツではなく私たち利用者なのですから。情報を利用する私たちがどんな生活をしどこに住み何を好んでいるかなどの情報を企業に売るのが商売なのです。利用者が自分についての情報を自分から提供してくれるのですから、企業のマーケティングツールとしてはもう最高です。こんな商売で大帝国と化したネット企業にとっては、民主主義なんてちっとも大事なことではありません。それどころか、商売の役に立たない、邪魔になると判断されれば、皆が見たいコンテンツも囲いこまれたり排除されたり。一方であなたばかりかあなたのお友達のプライバシーにまでどしどし侵入してきかねません。あげくのはてには、政府による監視の目にあなたの情報をさらしたり。資本主義の道具でしかなくなってしまったらネットはもう民主主義の敵です。マクチェズニー教授はネットの世界に迫るそんな危機を明らかにしながら、市民による反撃を促します。 (大竹秀子)

*ロバート・マクチェズニー(Robert McChesney):メディア改革団体「フリー・プレス」とメディア改革全国会議の創始者の1人。新著に Digital Disconnect: How Capitalism Is Turning the Internet Against Democracy (『デジタル・ディスコネクト─資本主義がネットを民主主義の敵に変える』)


第67号(2013.8.23)

ファシズムに陥ったカトリック教会 (2013.2.28放送)

翻訳:阿野貴史 字幕動画

長くやってりゃ、ほこりもたまる。ベネディクト16世の異例(600年ぶり!)の生前退位を機に、かねてから取りざたされていたカトリック教会内の不祥事が、あらためて注目を浴びました。聖職者たちによる児童性的虐待と組織ぐるみのもみ消し、バチカン銀行のマネーロンダリング疑惑、教会とCIAとの結託―「ボルジア家の時代以来」と呼ばれるほどみごとな退廃ぶりです。なぜ、こんな事態に? ベネディクト16世に、責任の一端が問われています。ベネディクト16世はラッツィンガーと呼ばれた枢機卿時代から、カトリック教会の教義を監督する教理庁の長官として教会内の神学思想を力ずくで統制してきました。と同時に教会の気高い権威を傷つけるスキャンダルをもみ消しました。少数の権力者がすべてを決め、受け入れない人は「異端審問」にかける―恐怖のファッショ体制を敷いたと、マシュー・フォックス氏は弾劾します。かくいうフォックス氏自身もラッツィンガー枢機卿にカトリック教会を追われた司祭です。 カトリック教会内にも、いろいろな考え方が可能です。たとえば、1960年代末に開催された第2バチカン公会議は、「解放の神学」を生みました。民衆の側に立って社会正義の問題にも取り組む「開かれた教会」をめざしたのです。けれども、その後40年間あまりにバチカンが行ってきたのは、公会議が開いた扉をひとつひとつ閉ざし、独裁体制に帰っていくこと。その過程で、CIAと手を結ぶこともありました。世俗の悪にどっぷりまみれたカトリック教会、恐怖の統制を脱して自らを開放することはできるでしょうか?(大竹秀子)

*マシュー・フォックス(Matthew Fox):キリスト教の司祭で神学者。以前は、カトリック教会内のドミニコ会の司祭だったが、ラッツィンガー枢機卿(のちの教皇ベネディクト16世)により聖職を剥奪された。現在は米国聖公会の司祭。新刊書は The Pope’s War:Why Ratzinger’s Secret Crusade Has Imperiled the Church and How It Can Be Saved (『教皇の戦争―ラッツィンガーの秘密の聖戦で教会が存亡の危機に陥ったワケ、そして教会をいかにして救うか』)


第66号(2013.7.30)

フォードランディア (2009.07.02放送)

翻訳:加藤麻子 字幕動画

はた迷惑な偉人。ヘンリー・フォードはそんな人物だったらしい。自動車工場で組立 作業を分割して大量生産を可能にし、資本主義国アメリカの生産力と富を画期的に伸 ばし20世紀アメリカの繁栄に多大な貢献をしたフォードは、一方で労働者を視野に入 れた資本家でもありました。労働者にそこそこの高賃金を支払い、彼らが自分で作っ た車を買えるようにすることで自社製品の販売量も伸びる。豊かで幸せな労働者を生 むことが資本主義には不可欠だとするフォーディズムは、やがて情け容赦のない資本 の論理に裏切られていきます。社員への究極の温情主義を追究しながら、結局は厳し い監視で統制するコントロールフリークにおちいっていったのです。そんなフォード の夢の明暗を象徴するのが、フォードランディア―ブラジルのジャングルに理想のア メリカンライフを出現させようとする試みでした。資本主義をてなづけようとした フォードの野望は、一国の制約をつき破った資本主義の発展の前に見果てぬ夢と化し ていきます。(大竹秀子)

*グレッグ・グランディン (Greg Grandin) ニューヨーク大学歴史学部教授(中米 史、ラテンアメリカ史)。2010年に出版されたFordlandia: The Rise and Fall of Henry Ford’s Forgotten Jungle City(『フォードランディア:ヘンリー・フォー ドの失われたジャングル都市の盛衰』)は、ニューヨークタイムズ紙、ニューヨー カー誌などで同年のベストブックに選ばれた。日本語翻訳書に『アメリカ帝国のワー クショップ』。


第64号(2013.5.27)

借金をストライキ!「ローリング・ジュビリー」とは? (2012.11.15放送)

翻訳:小田原 琳 字幕動画

「ローリング・ジュビリー」はウォール街占拠運動から生まれたクリエイティブな試みで、学生ローンなど返済不能 になってこげついたため安値がついて市場に出ている債権を寄付で集めた資金を使って買い取り、債務を帳 消しにしてくれる。ウォール街占拠運動の担い手たちの一部が呼びかけ、軌道に乗せたこの運動、ハゲタカ ファンドが重債務に苦しむ貧困国への債権を超安値で買いとり厳しく取り立てて暴利を得ている手口を、債務 被害者の救済に転用したところが、痛快だ。世の中、債務を救済してもらえるのは銀行だけ。金融業界に「略 奪」された市民はウォール街やビジネス偏重の政策のあおりをくって苦しむだけ。そんな状況に市民が力を合 わせて対抗し実質的な成果をあげると同時に、ゆがんだ経済システムを暴いていくのが、この運動の狙いだ。 占拠していた公園からは追い出されたけれど、ウォール街と市民との接点ともいえる「債務」を新しい闘いの場と して運動を続けるのだと、ローリング・ジュビリーの仕掛け人の一人、パメラ・ブラウンさんは語っている。(大竹秀子)

*パメラ・ブラウン(Pamela Brown):ニュースクール大学社会学部博士過程在学中。「ローリング・ジュビリー」 の母体となった「ストライク・デット」創設者の1人


第63号(2013.4.27)

オリバー・ストーン:『語られざる米国史』 (2012.11.16放送)

翻訳:斉木裕明 字幕動画(前篇) 字幕動画(後篇)

「歴史音痴」のアメリカ人、特に未来を担う次世代のアメリカ人に向けて、映画監督のオリバー・ストーンが歴史学者のピーター・カズニックの協力を得て、10回シリーズのテレビ番組Oliver Stone's Untold History of the United States(『オリバー・ストーンの語られざる米国史』)を制作しました。原爆投下の直後に生まれたストーンは、「原爆の恐怖の中で」育ったことがこの作品を創るきっかけになったと語っています。アメリカの大半の子供たちは、いまなお学校で原爆投下は必要だった、第2次大戦は良い戦争だったとする米国史を教えられて育ちます。ストーンとカズニックは、4年半をかけた今回のプロジェクトで「原爆投下が戦略的に不必要かつ不道徳だった」ことを明らかにし、核の脅威の下に数多くの戦闘と対立、独裁と抑圧を世界にはびこらせることになった米国の歴史をオバマ政権にいたるまで検証していきます。(大竹秀子)

*オリバー・ストーン(Oliver Stone) ハリウッドのヒットメーカーでありながら、政治的な主題にしかも政府の公式見解に真っ向から対立する視点から取り組む、極めて少数派の映画作家。代表作に『プラトーン』、『JFK』、『ウォール街』。近年はドキュメンタリーを積極的に手掛け、フィデル・カストロとキューバに取材した『コマンダンテ』ほかカストロ3部作、ラテンアメリカ各国における左派政権の勃興を伝える『国境の南』を監督した。今回のテレビシリーズOliver Stone'sUntold History of the United States (『オリバー・ストーンの語られざる米国史』)の書籍版(ピーター・カズニックとの共著)は、『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(早川書房)という題で日本語訳が出版されている。

*ピーター・カズニック(Peter Kuznick) アメリカン大学の歴史学教授。広島と長崎への原爆投下に対する批判で知られる。共著に『広島・長崎への原爆投下再考―日米の視点』(法律文化社)、『原発とヒロシマ―「原子力平和利用」の真相』(岩波ブックレット)。


第62号(2013.3.29)

アーロン・シュワルツ:接続の自由 (2013.1.14放送)

翻訳:中野真紀子 字幕動画

インターネットの自由と普遍的な接続性を促進することを目的に毎年開かれる全国大会、F2C(Freedom to Connect)。2012年の大会では、アーロン・シュワルツが基調講演を行いました。より良い社会に向け、人々がつながり情報を交換する自由を推進するために、天才的プログラマーとして、またサイバー活動家として短い生涯を駆け抜けたアーロンが、「オンライン海賊行為防止法案」(下院のSOPAと上院のPIPA)阻止の運動について語っています。(大竹秀子)

*アーロン・シュワルツ(Aaron Swartz) 天才的プログラマー、サイバー活動家。インターネットのあり方を劇的に変えた「RSS」フォーマットの開発に10代で関わったほか、クリエイティブ・コモンズの設計にも貢献した。下院のインターネット検閲法案「オンライン海賊行為防止法案(SOPA)」や上院による同様の法「知的財産保護法案(PIPA)」に反対する市民運動の火付け役の一人として中心になって活動した。会員制の学術論文アーカイブの「JSTOR」から大量の記事や論文をダウンロードした罪で検察に訴追され、裁判が迫っていた(有罪の場合、最大禁錮35年)2013年1月に26歳の若さで自殺し、「ネットの自由」を求める人々の間に大きな波紋を呼んだ。


第61号(2013.2.26)

裏切られたアメリカン・ドリーム (2012.07.30放送)

翻訳:桜井まり子 字幕動画

ドナルド・バーレットとジェームズ・スティールは40年近くもコンビを組んで調査報 道を行い、ピュリッツァーはじめ数々の賞を受賞してきました。1991年に出版されベ ストセラーになった名著『アメリカの没落』では、当時のアメリカの繁栄の陰でひっ そり始まっていた異変、産業の空洞化と中流層の没落に警鐘を鳴らしました。20世紀 の米国は、過去の帝国主義体制と植民地主義とは異なる、革新的でダイナミックな消 費者経済を形成したと、バーレット&スティールは評価します。一生懸命仕事して、 ルールを守れば、経済的・社会的に成功でき、次の世代により良い暮らしを約束でき る――そんな夢を信じて、アメリカの繁栄はミドルクラスに支えられたはずでした。 ところが、アメリカン・ドリームは、次第に裏切られていきます。『アメリカの没 落』から20年後、続編にあたる、The Betrayal of the American Dream(『アメリカン・ドリームの裏切り』)で、2人は米国の中流層にもたらされた惨状を、改めて検 証します。過去30年以上にわたり、グローバルな大企業と彼らに牛耳られた米国政府 により、不公平な税法や規制緩和、野放しの詐欺的金融、組合つぶし、企業の海外移 転やアウトソーシングなどが進み、とびぬけた富裕層とグローバル企業が支配し、そ の他の人々は貧困へと没落していく社会が出現してしまいました。かつては実現が可 能にみえた庶民の夢への道は閉ざされてしまったのです。過去数十年の政策により、 着実に進行してきた米国のお寒い変容、日本にもあてはまる点が多々ありそうです。(大竹秀子)

*ジェイムズ・スティール(James Steele)& ドナルド・バーレット(Donald Barlett): 40年以上にわたり2人でチームを組み、調査報道活動を続けている。 フィラデルフィア・インクワイアラー紙、タイム誌を経て、2006年以来、バニティ フェア誌の寄稿編集者。2度のピュリッツア賞を始め、多数のジャーナリズム賞を受 賞している。共著は7冊。日本語訳書に『アメリカの没落』がある。


第60号(2013.01.31)

マイケル・ポーラン:食の運動のいま (2012.10.14放送)

翻訳:関 房江

字幕動画1


字幕動画2

カリフォルニア州の州民投票は、「進歩的すぎる」などの理由でさまざまな圧力を怖れ議員が立法をはばかる住民の発議による提案への賛否を直接州民に問う直接民主主義的な立法手段。ここで通れば、全国にも影響が及ぶことから、「変化は西から」といわれてきました。州民投票は、大統領選挙や中間選挙の際に行われるのですが、昨年の選挙で問われたのは、遺伝子組み換え食品の表示を義務付ける「提案37号」でした。モンサント社など遺伝子組み換えが利益に直結するバイオテク巨大企業が二大政党を取り込んでおり、またメディア広告などを駆使した猛反撃が展開されたこともあり、提案は結局否決されてしまいました。食が抱える問題にかけては第一人者、ジャーナリストでベストセラー作家のマイケル・ポーラン教授が、米国での食の運動について語ります。米国で食の運動は、まだ「フォークで一票」、つまり間違っていると思う食品は買わないという取り組みの段階です。健康的な食品を生産し流通しようとするフードマーケットも勢いを増している。でも、それだけでは、だめ。大金をかけて自然で健康的な食生活を維持できる富裕層と、選択肢を奪われて工業化された食を強制される圧倒的多数へ、食の階層化が進みかねない。食には環境とエネルギー、健康の問題がわかちがたくからみあっている。だからこそ、ニューヨーク市で市長が強行した映画館や飲食店での甘味料入り清涼飲料水の大型容器販売の禁止などに見られる、立法や規制により健康的で民主的な食の仕組みを回復していく動きも必要だと、ポーランは執筆や講演を通して熱心な取組を続けています(大竹秀子)

*マイケル・ポーラン(Michael Pollan):カリフォルニア大学バークレー校教授。日本語翻訳書に『ガ ーデニングに心満つる日』(主婦の友社)、『欲望の植物誌―人をあやつる4つの植物 』(八坂書 房)、『雑食動物のジレンマ─ある4つの食事の自然史』(東洋経済新報社)、『ヘルシーな加工食 品はかなりヤバい―本当に安全なのは「自然のままの食品」だ』(青志社)、『フード・ルール 人と地球にやさしいシンプルな食習慣64』(東洋経済新報社)、『フード・インク─ごはんがあぶない』(共著 武田ランダムハウスジャパン)などがある。


第59号(2012.12.23)

ブラッドリー・マニングの素顔 (2012.06.08放送)

翻訳:斎藤雅子 字幕動画

ブラッドリー・マニングほど、ここ2~3年の世界の動きに大きな影響を及ぼした人物はいないかもしれません。米軍の情報分析官。ランクは、上等兵。米軍によるイラク民間人爆撃ビデオや米国国務省の外交公電など大量の機密情報をウィキリークスに渡したとして身柄を拘束された当時、わずか23歳の若者でした。彼がもらしたとされる情報が、「アラブの春」の火付け役になりました。右派は、マニングに対する容赦ない人格攻撃を行ってきましたが、新刊書Private: Bradley Manning, WikiLeaks, and the Biggest Exposure of Official Secrets in American History(『プ ライベート:ブラッドリー・マニング、ウィキリークス、そして米国史上最大の公的機密の暴露』)【訳注:Privateには「上等兵」の意味のほか、「秘密」や 「私事」も意味しています】で、著者のデンバー・ニックスは、マニングの人生の軌跡は、ある意味でアメリカ人の典型だと反撃、マニングを通してアメリカの歩みが象徴的に現れていると主張します。米国でゲイの人権が一般的に認知されるようになりながら、軍ではまだ、ゲイであることを隠すことを強要されていた時代。米国で国家安全保障を最優先する国家のあり方が新段階を迎え、機密情報の量も、アクセス権限を持つ人の数も、アクセス権限の幅も肥大化し、一個人が山のような情報への鍵を手に入れるとができるようになった時代。マニングが生きてきたのはそんな時代でした。波乱に富んだ生い立ちの末、ようやく選んだ仕事先で、汚い事実がどっさりの機密情報にさらされてしまった若者マニング。「9.11後の世界、闇の中で展開される外交政策の時代に、政府が何を行っているかを知るために私たちは、これまで以上にリークに頼っています。リークは避けがたいばかりでなく、必要なんです」とニックスは言います。マニングが、その時、そこにいてくれたこと――なんともすばらしい歴史のいたずらだったのかもしれません。(大竹秀子)

*デンバー・ニックス(Denver Nicks):ウェブサイト「デイリー・ビースト」寄稿記者。ブラッドリー・マニングに焦点を当てた Private: Bradley Manning, WikiLeaks, and the Biggest Exposure of Official Secrets in American History (『プライベート:ブラッドリー・マニング、ウィキリークス、米国史上最大の政府機密の暴露』)を刊行。


第58号(2012.11.15)

スペインの怒れる人々 (2012.03.30公開)

翻訳:西内佐知子 字幕動画

スペインで米国で日本で、市民の手による「世直し」の機運が高まっています。その大きなきっかけになったのが、スペインでの「怒れる人々(インディグナドス)」の運動でした。2011年、統一地方選挙をひかえた5月15日、福祉や社会政策を次々に切り捨てる厳しい緊縮財政に不満を抱き、政権の交代ではもはや解決がつかない政治・経済体制に抗議する人々がマドリードのプエルタ・デル・ソル広場はじめ全国各地で大規模なデモや集会を繰り広げ、広場を占拠しました。ユーロ圏のトロイカ体制に仕切られ、国民の手が届かなくなった政治。そのくせ、住む家を取り上げられたり、教育や医療のサービスが激減したり、破綻だけは身近に迫ってくるのです。占拠運動はやがて地域社会に浸透していきます。スペインでもそしてそこから大きな影響を受けた米国のオキュパイ運動でも一見表面から消えたようにみえながら、強制退去を阻止したりハリケーンの被災者の救援にあたったり、活動の形を臨機応変に変えことあるごとに噴出し、底力を発揮しています。抗議するだけでは変わらない。市民の手に力を取り戻し、手応えのある個別の問題への取り組みを通して社会を根底から変えていきたい。「怒れる人々」の運動はグローバルにひろがっています。このセグメントでは、その原点となったスペインの「インディグナドス」の背景をたどります。(大竹秀子)

*マリア・カリオン(Maria Carrion)マドリード在住のフリーランス・ジャーナリストでデモクラシー・ナウ!の元プロデューサー


第57号(2012.10.16)

作られるうつ病 (2010.03.01放送)

翻訳:小椋優子 字幕動画

「奇跡の薬」とまで呼ばれ、一世を風靡した「プロザック」。発売から20年がたち、この間にうつ病と診断される人の数が激増しました。いまでは、全米で約3000万人が計100億ドルを投じて抗うつ薬を服用し、人の悲しみは「うつ病」と呼ばれる病気で説明されると考えられるようになりました。あらゆる意気消沈を脳内の生化学反応の故障とする見方は医学界でますます強まり、親しい人との死別による気落ちさえ、うつ病とみなし薬で治療する時代が到来しかねない趨勢です。薬の前に人は無力。世界のありようや人間関係などが引き金となって落ち込んでも、幸せを感じられないのは生化学的な病気のせいだとされる。とたんに、社会を変えようとする意欲や関心がそがれてしまいかねません。うつ病は、作り出された病気なのでしょうか?精神療法士のゲイリー・グリーンバーグが、「うつ病」の歴史と薬品業界がそこで果たした役割を検証します。(大竹秀子)

*ゲイリー・グリーンバーグ(Gary Greenberg)精神療法士、著述家。日本語訳書に『「うつ」がこの世にある理由―作られた病の知られざる真実』


第56号(2012.9.22)

ポール・クルーグマン:さっさと不況を終わらせろ (2012.5.17放送)

翻訳:関 房江 字幕動画字幕動画

不況を今すぐ終わらせる方法は?「お金を使うこと」。その財源は?「借金です」。ポール・クルーグマンの答えは実に明快です。経済学の基本は、ごく簡単。不況時には政府が支出を増やし需要を創り出す。財政赤字の心配は経済が上向いた時にすればよい。財政赤字に対する過剰な反応は経済回復を妨げるだけと言うのです。 でもそんなに簡単なら、なぜ解決しない?問題は、政治です。米国では昨年共和党が債務上限額の引き上げ承認を盾にとって政府に歳出削減を要求し、債務不履行寸前にまで追い詰めました。大きな政府を悪とする考えは長年にわたって米国民に吹き込まれています。「普通の家庭でも、収入を超える支出はしない。だから政府もそうすべきだ」。もっともしごくに聞こえます。だが、国の経済は家計とは違います。国の経済では「あなたの支出は、私の収入。あなたの収入は、私の支出」。みんなが同時に支出を減らせば、経済が低迷してしまいます。 クルーグマンに言わせれば、オバマ政権の景気刺激策は全然、足りない。共和党に歩み寄り、1992年頃の共和党穏健派に近い立場をとっている。州や地方自治体を支援し予算削減のためにここ数年間に解雇された学校の教師、消防士、警察官を再雇用し、道路などのインフラに投資する。それだけでも、経済回復に大きな効果があがるはず。必要なのは、需要なのだから。それを社会主義だ、左翼だとそしり足をひっぱるのは、共和党が過激に右傾化しているしるしだとクルーグマンは指摘します。さらに欧州に目をやり、ギリシャやスペインなど財政危機に陥っている国に対して厳しい緊縮政策を強要したユーロ圏は大恐慌に向かって突っ走っていると危機感を募らせます。 2011年の夏に「赤字と負債一辺倒」だった米国の世論を、「不平等、不公平、雇用問題」に転換させたオキュパイの運動。だが、そうして浮き彫りにされた真の緊急問題を正面から論じようとしないオバマ政権、問題の被害者をなまけ者・無責任扱いする共和党主流派。「不況をさっさと終わらせる」政府を期待するのは、難しそうです。(大竹秀子)

*ポール・クルーグマン(Paul Krugman) ノーベル受賞の経済学者、ニューヨーク・タイムズ紙の論説コラムニスト、プリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのセンテナリー教授。『世界大不況からの脱出 - なぜ恐慌型経済は広がったのか』など著書多数。 新著は『さっさと不況を終わらせろ』


第55号(2012.8.17)

企業による世界統治を参加国に強制するTPP (2012.6.14放送)

翻訳:田中 泉 字幕動画

環太平洋経済連携協定(TPP)がアメリカでも注目を浴び始めています。米国と環太平洋8カ国との間でもう2年にもわたり秘密裏に進められているこの協定の中でも特に問題が多いとみられる部分がリークされたからです。フェアトレード団体「パブリックシチズン」(Public Citizen)の「グローバルトレードウォッチ」プログラム代表ロリ・ウォラックによると、TPPは、「人口の1%を占める富裕層が市民の生活の最低限のニーズや基本的人権を破壊する道具」です。 TPPのもとでは米国はじめ調印国で活動する外国企業は国際法廷を介してその国の法律・規制・行政手続きを超える力を持ち、気に入らない法規に罰則を課すことができるようになります。巨大製薬会社の特許枠を拡大し医薬品のコストを上げたり、参加国に厳しい著作権法を採用させたり、各国の金融規制を制限して高リスクの金融商品の販売を禁止できなくすることも可能です。また、地産や国産品を推奨する政策や、環境や人権を配慮する商品も「自由」貿易を阻むものとして提訴の対象とされかねません。 TPPはトロイの木馬。貿易協定という外見を取りながら、実は企業の新しい権利と特権を保証し企業による統治に強制力をもたせる仕組みが仕込まれています。しかもセメントのように一度固まってしまったら参加国全員が同意しない限り規則は変更できません。あまりにひどい内容なので、公表したら市民の反対が巻き起こる。だからこそ、協議は秘密裏に進められ、米国でも国会議員はつんぼさじきにおかれてきたとウォラックは説明します。600人もの企業顧問には、草案へのアクセスが許されていると言うのに。しかもこの協定。最終的には太平洋諸国を超えて世界に広げられる可能性も。企業による世界統治の完成です。 知れば知るほど空恐ろしいTPP。停めるなら、いまなのです。(大竹秀子)

*ロリ・ウォラック(Lori Wallach) フェアトレード団体「パブリックシチズン」(Public Citizen)のグローバル・トレード・ウォッチ代表。


第54号(2012.07.28)

民主主義を踏みにじったギリシャ「救済」 (2011.11.03放送)

翻訳:小田原 琳 字幕動画

2011年秋カンヌで開かれたG20サミットの中心議題は、ギリシャの財政赤字拡大に端 を発する欧州務危機でした。ギリシャのデフォルト(債務不履行)を阻止するためEU は財政支援を行う一方、ギリシャには財政規律を要求し厳しい緊縮財政政策を約束さ せようとしています。ユーロを使い続けるかぎりギリシャは独自の通貨政策が取れま せん。かつてIMFが第3世界に押し付けたような政策をやむなくとれば、ギリシャ経済 は壊滅的な打撃を受け、向こう10年は立ち直れません。国民の生活に決定的な影響を 及ぼすこと間違いなしのEUの支援策を受け容れるかどうかを国民投票にかけようとし た同国のパパンドレウ首相に、G20首脳は集中砲火を浴びせました。ギリシャの民主 主義などよりユーロの安定が大事なのです。ギリシャ国債の最大の保証人になってい たのは米国の投資信託(MMF)やヘッジファンドでした。欧州の銀行がこわがって手を 出さなかったリスキーな国債に逆張りをかけて保証証券(CDS)を売りまくったので す。ギリシャが返済不能になれば大損してしまいます。でもウォール街の皮算用に は、米国による政治圧力への期待がちゃんと組み込まれていたようです。ガイトナー 財務長官やオバマ大統領が欧州に出向き、ギリシャのデフォルトや債務減免を認めな いように圧力をかけ、欧州経済の破滅がいやならギリシャに血を流させろと命じたと いうのです。こうした状況の下、ギリシャで起きた民衆デモは、ニューヨークの ウォール街占拠とまったく同じです。民主主義を踏みにじるグローバル金融資本への 反発が原動力になっているのです。 結局、国民投票は行われず、パパンドレウは内閣信任決議が可決されたものの、左右 両派の合意で大連立政権をめざす形で辞任。2011年11月に元ギリシャ中央銀行総裁 で、欧州中央銀行副総裁も務めたルーカス・パパディモス氏を首班とした新政権 (PASOK,新民主主義党、及び国民正統派運動による連立内閣)が成立し、2012年5月 にEUの第2次支援が合意されました。しかし、同月の選挙で連立与党は過半数割れ。6 月の再選挙で第一党になった新民主主義党のアンドニス・サマラスを首相にND、 PASOK、民主左派の連立政権が発足し、お目付役の国際通貨基金(IMF)、欧州連 合(EU)、欧州中央銀行(ECB)の評価を得ようと、政府資産を売却したり、歳 出を削減し、支援確保をめざし財政目標達成に励んでいますが、これからも火事場で何 が起こるのか、苦難はまだまだ続きそうです。 (大竹秀子)

*マイケル・ハドソン(Michael Hudson) ミズーリ大学カンザスシティ校の経済学 教授で、長期経済動向研究所の所長。 『超帝国主義国家アメリカの内幕』の著者。


第53号(2012.6.28)

隠された人種差別 (2012.1.13放送)

翻訳:川上奈緒子 字幕動画(1) 字幕動画(2)

人種差別が無くなったはずの米国。2人の活動家兼著述家、ランダル・ロビンソンとミシェル・アレグザンダーが、黒人のアメリカを語ります。 「トランスアフリカ・フォーラム」の創設者として、カリブや中南米も含めたアフリカ系ディアスポラ社会ならびに米国のアフリカ政策の研究に力をいれてきたランダル・ロビンソンは、新作小説Makeda(『マケダ』)を軸に奴隷として集団的記憶を根絶された黒人の体験をもとに記憶の力を語ります。一方、The New Jim Crow: Mass Incarceration in the Age of Colorblindness(『新たな黒人隔離:カラーブラインド時代の大量投獄』)が大きな話題を呼んだミシェル・アレグザンダーは、麻薬撲滅を錦の御旗にした1980年代後半以降の麻薬戦争に潜む人種差別に目を付けます。貧困地区の黒人を狙いうちにし大量に刑務所に送り込む。そして、不公平な量刑で違反者を重罪犯にし、出所後も投票権の剥奪などさまざまな制限でしばる─公民権運動を担った人々が命をかけてまで獲得した平等な「市民」としての黒人やマイノリティの地位が、こうしてなしくずしに損なわれていると、アレグザンダーは主張します。ゲスト二人に共通する試み、それは見えないところで制度が仕掛けている「支配」のからくりを探り当て感じられるものにすること。そしてそれを、自らを解放する力にしていくことです。(大竹秀子)

*ランダル・ロビンソン(Randall Robinson) 「トランスアフリカ・フォーラム (TransAfrica Forum)」の創設者で元代表。カリブや中南米も含めたアフリカ系 ディアスポラ社会ならびに米国のアフリカ政策の研究に力をいれ、南アフリカのアパ ルトヘイトに 対する反対運動の急先鋒として活躍した。主書にハイチの歴史を扱っ た An Unbroken Agony: Haiti, From Revolution to the Kidnapping of a President (『終わらない試練 ハイチ 革命から大統領拉致まで』)他。最近著 は、小説 Makeda(『マケダ』)。

**ミシェル・アレグザンダー(Michelle Alexander)公民権擁護弁護士。話題作The New Jim Crow: Mass Incarceration in the Age of Colorblindness(『新たな黒人 隔離:カラーブラインド時代の大量投獄』)の著者。オハイオ州立大学のモリッツカ レッジとキルワン人種民族研究所の両方に籍を置く。 


第52号(2012.5.28)

政府と企業の検閲が進むインターネット (2012.1.17放送)

翻訳:田中 泉 字幕動画

「アラブの春」を機にインターネットは、解放をもたらす強力な力としてもてはやされるようになりました。けれども一方でインターネットは人々をスパイし、市民の自由を厳しく取り締まるためにも使われていることにレベッカ・マッキノンは警告を発します。よく取り沙汰される中国のような国にとどまらず、民主主義圏とされる欧米諸国でも、著作権保護と児童ポルノの取締を口実に検閲法が増殖し、ネットのブロッキングが人目につきにくい形で野放しに広がり、ネットの自由を次第に浸食しています。市民はデジタル空間で何を見ることが出来、何にアクセス出来、何を公表し送信することが出来るのか。その権限を企業や政府が握り、説明責任を負わずに濫用しても、市民には歯止めがきかない──このままでは、そんな未来が生まれかねません。iPhoneで権力者の神経を逆撫でしないよう、先回りしてコンテンツを規制したかに見えるアップル、公式に何の告発も受けていないウィキリークスとの取引を断絶したアマゾン、ユーザーのプライバシーを危機にさらしたフェースブック、180日以上前の電子メールなら政府がいとも簡単にアクセス出来る現行法─企業による市民の自由の侵害の具体的な例を次々にあげながら、マッキノンは「インターネットの時代に民主主義が生き残る ことを望むのなら、インターネットが必ず民主主義と矛盾しないかたちで進化するよう、働きかけなければならない」と市民による闘いの必要を説きます(大竹秀子)

*レベッカ・マッキノン(Rebecca Mackinnon) CNN の北京と東京の支局長を経てブロガーに。現在は、ニューアメリカ財団のフェロー。ブロガー、翻訳者、市民ジャーナリストのための国際的ネットワーク”Global Voices Online”を共同創設。新著に、Consent of the Networked: The WorldwideStruggle for Internet Freedom (『ユーザーの同意:インターネットの自由を求める世界的な闘い』)


第51号(2012.4.18)

「ウォール街の占拠を超えて」 (2011.11.16放送)

翻訳:小田原琳 字幕動画

「ウォール街を占拠」運動の何が人々をあんなにもひきつけたのか?作家のジェフ・シャーレットはこの運動の新しさを、自由な創造性にみます。最初は、どうせうまくいきそうにない運動に見えた。労組など既存の団体は見向きもしなかった。だから、アーティストや学生たちが「ダメ元」のノリで想像力豊かに運動の基盤を作ることができたと言うのです。一方、社会変革研究者のマリーナ・シトリンさんは、この運動をアルゼンチンの2001年の経済危機後に生まれた「ホリゾンタリダード(水平化)」とつなげます。上下関係がなく人が人に対して権力をふるわない、だれもが可能な限り平等に耳を傾けてもらえる真の意味での民主主義の模索です。ズコッティ公園(リバティ広場)はそのような思いを持つ人々が集まり意思決定をする場として、「急進的な組織の方法」を提示したと言うのです。だから、警察により公園から閉め出されても、そのような「広場」が職場や学校や隣近所に飛び火して新しい命を得るなら悪くない、とも。もともと、「今すぐ政府の支配権を手にしたい」人々の運動ではなかった。「将来に向けてオルタナティブの種をまきたい」という姿勢なのだと。テクノロジーによって何もかもが人間のスケールを超えてしまった現代世界で敢えて人間のスピードで進もうする、それもまた抵抗の意思の表れなのでしょうか。(大竹秀子)

*マリーナ・シトリン(Marina Sitrin) ニューヨーク市立大学のグローバリゼーションと社会変革センターのポスドク研究員。著書はHorizontalism: Voices of Popular Power in Argentina(『水平化主義:アルゼンチンの民衆パワーの声』)。スペインからエジプトまでのグローバルな民衆蜂起を研究。

*ジェフ・シャーレット(Jeff Sharlet) ハーパーズ誌やローリングストーン誌の寄稿者で、ダートマス・カレッジオ英文学教授。ベストセラーになったThe Family (『ファミリー』)など著書多数。ローリングストーン誌にウォール街占拠運動の始まりを調査した"Inside Occupy Wall Street: How a Bunch of Anarchists and Radicals with Nothing but Sleeping Bags Launched a Nationwide Movement"(ウォール街占拠運動の内幕:寝袋しか持たないアナーキストと急進派の群れが全国的な運動をどうやって始めたか?)が掲載された。


第50号(2012.03.27)

ロボット兵士と戦争 (2012.2.6放送)

翻訳:桜井まり子 字幕動画

「単調(Dull)」「汚い(Dirty)」「危険(Dangerous)」─3つのDを特長とする仕事を ロボットに担わせることにより、戦争の形が大きな変化を遂げています。たとえば 察と攻撃を行う無人機の採用で、米国で家族と共に暮らし、通勤して遠隔操縦で戦闘行為を行ない勤務時間が終われば普通の市民生活に戻る戦闘員が生まれています。技術革新によってロボット化が進んでも機械を設計し、配備し、動かすのは人間。ロボット兵士を介した戦争は、人間の戦争体験をどう変えていくのでしょうか?兵士が死なない戦争、無人偵察機・無人攻撃機による戦争のバーチャル化、無人機が記録する残虐な映像を「ポルノ」のように消費する文化の出現─ブルッキングス研究所の上級研究員で、『ロボット兵士の戦争』の著者P.W.シンガー氏は、機械化により、ロボットに戦争を肩代わりさせることで人間や政治指導者の責任を希薄化させていこうとする傾向に懸念を示します。ロボット化は、戦場にとどまりません。テロへの脅威を合い言葉に、市民への監視がまかり通り、無人機が治安目的などでも使われ始めています。論議不在のまま、進行してきた戦争のロボット化が、民主主義にとってどういう意味を持つのか。シンガー氏の問いは、いま、ますます重要です。(大竹秀子)

*ピーター・ウォレン・シンガー(Peter Warren Singer) 国際政治学者。現在、ブルッキングス研究所上級研究員で、「21