「フォードランディア」失われたジャングル都市の盛衰

2009/7/2(Thu)
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15分

最近、本になった風変わりな実話です。1920年代に当時世界一の大富豪だった自動車王ヘンリー・フォードが、ブラジルのアマゾン奥地にゴム園を開き、アメリカ中西部の企業城下町を再現しようとした物語を通じて、この伝説の資本家の人生と人となり、理念と野望と傲慢について語ります。

「フォードランディア」は、フォードがブラジル政府から与えられた広大な土地の中心に建設した町です。自動車タイヤの原料ラテックスの生産を支配するのが目的でした。でもそれだけではなく、アマゾン地域にアメリカ文化を移植しようという壮大な試みであり、また「フォード主義」と呼ばれるか独特の資本主義理念の実現をはかるユートピアでもありました。

「フォード主義」は、工場の労働者に高い賃金を支払い、それによって彼らが自分の作った製品(自動車)を買うことのできるようにして、製品の消費者を創出し市場を拡大していくという考え方です。かつてはこれが、米国の資本主義の中心教義でした。組み立てライン方式も彼の発明ですが、これは労働の民主化をもたらすどころか、単純化と服務規定の厳格化を招くことになりました。工業社会に抱いた彼の理想は、資本主義のむき出しの力によって裏切られ、それを埋め合わせるためにブラジルのユートピア都市の経営はますます理想主義に走り、奇怪なものになっていったようです。

アマゾンの自然も労働者の生活もすべて自分の意志に屈服っさせようとした、米国産業資本主義の立役者ヘンリー・フォードの壮大で傲慢な試みは、現在の自動車産業の落日の中から振り返れば、感慨深いものがあります(中野)。

*グレッグ・グランディン (Greg Grandin)ニューヨーク大学中南米史教授 最近 Fordlandia: The Rise and Fall of Henry Ford’s Forgotten Jungle City(『フォードランディア:ヘンリー・フォードの失われたジャングル都市の盛衰』)を出版した。

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字幕翻訳:加藤麻子
校正・全体監修:中野真紀子・付天斉