「英国の政治反乱」 タリク・アリ 労働党の新党首ジェレミー・コービンの当選について

2015/9/14(Mon)
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英国の野党、労働党の党首選で、反戦、反緊縮、移民保護を掲げる社会主義者のジェレミー・コービン議員が6割近い票を獲得して圧勝し、内外に衝撃が走りました。英国のマスコミはパニックに陥り、これで政権獲得の芽はなくなった、「労働党の自殺行為」だ、などと一斉に酷評しました。一方、コービン議員とは40年来のつきあいだという政治評論家タリク・アリは、コービン党首の誕生で「労働党が変わり、英国の政治も変わる」と大喜びです。日本でも反原発、反安保の抗議運動が政治運動に変わろうとしている今、タリク・アリの分析は必見です。

労働党はトニー・ブレアやゴードン・ブラウンが党首の時代に、従来の左派路線を中道寄りに修正して中産階級の支持獲得を狙いました。「ニューレイバー」の誕生はマスコミにもてはやされ、ブレアは1997年の選挙に圧勝し、保守党から政権を奪還しました。でも彼の政策は、サッチャー政権以来の市場原理主義の継承にほかなりませんでした。ブレア党首の圧倒的な人気の影で、タリク・アリによれば、党内の反対派の声は圧殺され、党指導部に従順な落下傘候補ばかりが当選し、国会議員にめぼしい人材がいなくなってしまったのだそうです。コービンが党首に就任したことは、ニューレイバー路線に決別し、労働党が社会主義路線に回帰する兆しです。

労働党が反戦、反緊縮を唱え、保守党の政策と真っ向から対立するようになれば、ようやく英国に本物の野党が誕生し、有権者に政策の選択肢が与えられます。若者の政治離れは英国でも大きな問題ですが、彼らが無関心なのは誰に投票しても何も変わらないという事実を見抜いてているからです。でも、泡沫候補と見られていたコービンに、まさかの地すべり的勝利をもたらしたのは、彼の主張に共感して熱烈な声援を送った若者たちでした。振り付けどおりに動くだけの信念のない議員ではなく、本当に自分たちの声を代弁してくれる政治家が見つかれば、彼らは本気で動くのです。長年の国民不在の選挙にがまんできなくなった人々が、自分たちの運動で政治家を動かし始めたようです。

これが、いまや世界共通の現象となった「急進中道派」政治、言い換えれば二大政党詐欺への回答でしょう。どの政党が選挙で勝っても基本の政策はみな同じで、戦争の遂行、緊縮政策の推進、巨大企業を助け、富裕層におもねることばかりです。国民の大多数の利益に反するこのような政策を推進する政党を「中道派」と呼び、それに反対する政策を「強硬」とか「過激」とか呼ぶこと自体がイメージ操作ですが、それに気づいた人々は本物の「選択肢」を自分たちで作り出そうとしています。

同じようなことが、ギリシャでも、スペインでも、アイルランドでも、スコットランドでも、そして今イングランドでも起きました。成功も、失敗もありますが、日本にもいずれ、そのときがくるでしょう。(中野真紀子)

*タリク・アリ(Tariq Ali) パキスタン出身の英国の政治評論家、歴史研究家、活動家、映画作家、小説家。『ニューレフトレビュー』の編集者。新著はThe Extreme Centre: A Warning(『中道急進派にご注意』)。

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字幕翻訳:中野真紀子