クリス・ヘッジズとロバート・ライシュ サンダース撤退後の選択肢について討論

2016/8/4(Thu)
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34分

2006年の米国大統領選の一般投票日が目前に迫ってきました。メディアはクリントンかトランプかという有力候補の争いばかりに注目しますが、不人気対決と言われるほど好感度の低いこの2人。第3の選択について十分な議論はなされたのでしょうか。クリントンが正式に党の大統領候補指名を受けた7月末の民主党全国大会初日、予備選でクリントンと指名を争ったバーニー・サンダースはクリントン候補の下に民主党の結束を呼びかける演説を行い、一部の支持者からブーイングを受けました。「政治革命」を掲げ、既存の政治や経済のあり方にノーを突きつけて支持を集めたサンダースが、既存権力の象徴のようなクリントンへの鞍替えを呼びかけたのですから、裏切り行為と受け止めた支持者がいて当然でしょう。サンダース支持者の次なる選択肢はどのようなものでしょうか。大会期間中、ジャーナリストのクリス・ヘッジズと、元労働長官でカリフォルニア大学バークレー校教授のロバート・ライシュが、この点について論戦しました。

格差社会についての著書もあるライシュは予備選でサンダースを支持していましたが、ここに来てクリントン支持を強く訴えます。ライシュはビル・クリントン政権時に労働長官を務めるなどクリントン夫妻と縁の深い人物でもありますが、彼がクリントンを支持する最大の理由は、共和党候補のドナルド・トランプを大統領に当選させてはならないという点にあるようです。米国の大統領選は、間接選挙の形を取り、有権者による一般投票は大統領選挙人を選出するものです。票は州毎に集計され、その州で一番多くの票を集めた候補者がその州の選挙人を全て獲得するという「勝者総取り方式」が大半の州で採用されています。つまり一般投票の得票数が全国の総計で下回っていたとしても、州ごとの当選結果によっては、より多くの選挙人を獲得することが可能です。実際、2000年の大統領選挙では、一般投票で民主党候補アル・ゴアの得票数を下回った共和党候補のジョージ・W・ブッシュが大統領に当選しました。このとき緑の党から立候補していたラルフ・ネーダーに流れた票がゴアの敗北の一因だとも言われています。ライシュが危惧するのは、このときと同様に民主党の票が分散する事態が起きることです。トランプが大統領になれば、変革への運動が著しく退行してしまうと危機感を表し、この局面においては戦略的に行動すべきだと訴えます。

一方、クリス・ヘッジズはサンダースと比較的近い政策を掲げる緑の党のジル・スタイン候補を支持しています。彼は当初から民主党から立候補したサンダースを支持しませんでした。ヘッジズは、新自由主義を前提とする現在の政治体制を問題視します。それは企業が圧倒的な権力を持って政治を支配している体制です。規制を緩和し自由な企業活動を促そうとする新自由主義は、一般的には共和党の政策基盤にある思想と捉えられがちですが、共和党ばかりが新自由主義を推進しているわけではありません。大幅な社会保障費の削減と弱者の切り捨てにつながった1996年の福祉改革、国内産業の空洞化を加速し労働者階級に大きな打撃を与えた1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)の発効、労働力搾取の新たなシステムとも指摘される刑務所への大量収監を可能にした1994年の犯罪防止法、いずれも民主党ビル・クリントン政権下で実行されたことです。企業に支配された現在の政治システムにおいては二大政党の進める政策に大差はないというわけです。ヘッジズは、今のアメリカでは民主主義は機能していない、これは企業が権力の頂点に立つ全体主義だとすら言います。さらにヘッジズは論戦相手のライシュに対しても手厳しい批判を浴びせます。トランプの危険性を喧伝することで、民主党への投票を促すライシュのやり口は、自称リベラル派たちの常套手段だという指摘です。彼らは現在の体制を根本から変えることを本当には望んでいない、だから変革を訴えながらも、こうした局面では、人々の恐怖を煽ることで、改革を求める声を圧殺しようとするというわけです。そうした生ぬるいリベラル派は、体制を維持する上で、企業権力にとってはむしろ好都合な存在だとヘッジズは言います。企業権力に挑むため、ヘッジズは独立候補支持の立場を譲りません。(水谷香恵)

☆ ニュースレター刊行にあわせて、最後の6分ほどを追加しました(2017.7)

*クリス・ヘッジズ(Chris Hedges):ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト、作家、活動家。最新作は、Wages of Rebellion: The Moral Imperative of Revolt(『反逆の対価 反抗の道徳的必要性』).

*ロバート・ライシュ(Robert Reich):ビル・クリントン政権で労働長官を務め、カリフォルニア大学バークレー校教授。最新の著作は、Saving Capitalism(『資本主義を救済する』)。

Credits: 

字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・山根明子
/全体監修:中野真紀子