「作られるうつ病:現代病の隠れた歴史」

2010/3/1(Mon)
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13分

うつ病は作り出された病気か? 抗うつ剤プロザックの出現から20年がたち、いまでは人の悲しみは"うつ"と呼ばれる病気で説明されるようになりました。国立精神衛生研究所(NIMH)によれば、アメリカでは年間1400万人以上が重度のうつ病をわずらい、3千万人が100憶ドルを抗うつ薬に費やしています。でも「うつ病」は医者と製薬会社がつくり上げたところが大きいと、ゲイリー・グリーンバーグは論じます。うつ状態は脳内物質の生化学的なバランスの問題であり、処方薬によって治療できる「病気」とされるようになったのです。

プロザックの導入以来、抗うつ剤の売り上げとうつ病と診断される確率が大きく上昇しました。この2つの連動が「まず薬ありき」の風潮を作り上げました。グリーンバーグは、少なくとも過去150年間の医療の歴史には、この方向に進む明確な流れがあると言います。

いとも簡単に精神疾患だと診断してしまえば、患者が苦しみを理解するための他の説明や機会が奪われます。大不況の中で雇用不安から落ち込む人々は、それが生化学的な病気のせいだとなったとたんに、社会問題から関心がそれてしまいます。米国精神医学会はこれを徹底して、どんな外的要因も認めない方向で診断マニュアル(DSMと呼ばれる診察項目リスト)をつくっています。離婚や死別さえ考慮されません。これでは、積極的に行動を起こして社会的な状況を改善しようとする意欲を奪ってしまいます。

これに便乗したのが製薬会社です。向精神剤をテレビCMで宣伝し、ふさぎ込むのは病気だという考えを大々的に広めていきました。しかし、それでは結果的に人々を薬漬けにして、社会の現状の維持を助長するものにもなりかねません。(中野)

*ゲイリー・グリーンバーグ(Gary Greenberg)
精神療法士、作家。新著は Manufacturing Depression: The Secret History of a Modern Disease(『作られるうつ病 現代病の隠れた歴史』)

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字幕翻訳:小椋優子/校正:永井愛弓
全体監修:中野真紀子・付天斉