第一次世界大戦の平和主義者たちから学ぶ反戦運動のレッスン

放送日: 
2011/5/10(火)
再生時間: 
20分
今日は集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が行われそうです。憲法を破壊する官邸のクーデターに、大規模なデモが起きています。一昨日は新宿で抗議の焼身自殺が起き、衝撃的な事件にもかかわらず国内ではきちんと報道されていないことが、怒りに油を注いでいるようです。チュニジアでは2010年12月に失業した青年が絶望して焼身自殺を測ったことが、ベンアリ政権の新自由主義政策への怒りに火をつけ、「アラブの春」が始まりました。官邸はさぞやおびえたことでしょう。

そんななかで、今週は反戦運動についての話題をお届けします。少し前のインタビューですが、第一次世界大戦をふり返るという、今日にぴったりのトピックです。ちょうど百年前の世界は、空前の大戦争に向かって突き進んでいました。1914年6月2628日のサラエボ事件(オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子の暗殺)がおきてから、たった6週間の間に、それまではそこそこに良好な国際関係を維持し、繁栄を極めていたヨーロッパが、一転して全土を巻き込む戦争に引き込まれていきました。この戦争の歴史には学ぶことが沢山あります。

歴史物の作家アダム・ホックシールドは2011年の著作『すべての戦争を終わらせるために: 忠誠と反抗の物語 1914-18(仮訳)』で、第一次世界大戦中の反戦運動を中心とする人間模様を探求しています。その話の中でも特に興味深いのは、戦争の犠牲者の性格が現在の戦争とは大きく違っていることです。米国の戦争をみれば、貧困層に犠牲者が集中していることが統計的にも明らかです。でもWWIでは、まったく逆でした。戦死者の中には多数の支配階級の子弟が含まれていました。当時の欧州では貴族や上流階級の子弟が入隊してすぐ将校になったので、彼らの多くが先頭に立って突撃し、戦死しました。オックスフォード大学の1913年卒業生は31%が戦死という、すごい数字をホックシールドは挙げています。ソールズベリー元首相の10人の孫のうち5人が戦死したそうです。

もちろん戦死するのに支配階級である必要はありません。第一次大戦では膨大な数の国民が犠牲になりました。戦闘中に死んだ兵士だけでも約1000万人、民間人を含めればその倍に達するとみられ、人類史上でも有数といわれる凄惨な戦いでした。北フランスなどヨーロッパの激戦地の後には、文字通りお国のために塹壕の中で死んでいった多くの若者の墓が、見わたす限り並んだ巨大な墓地群が並んでいるそうです。 → たとえば、こんな写真

ところが今の戦争では、どんどん犠牲者が見えにくくなっています。民間人の犠牲が増えたこともありますが、それだけでなく、戦闘員の犠牲者も見なくてすむのです。米国ではベトナム戦争で徴兵制が破綻をきたし、志願兵への切替えが行われました。この制度が先述のような貧困層への犠牲の集中につながりました。その後イラクやアフガニスタンの戦争では民間傭兵を多用するようになり、無人機などのロボット兵器が遠い異国の土地で戦っています。

一般の米国人には戦争をしているという感覚が希薄なまま、膨大な税金が軍事産業に投じられ、他国での破壊行為がだらだらと続きます。標的は順繰りに入れ替わり、開始も終了もぼやけています。これでは反戦運動に、いまひとつ迫力や盛り上がりが出ないのも無理はありません。ホックシールドは、徴兵制度に戻すことが戦争を早く終わらせる一つの方法ではないかと提唱しています。たしかにそのほうが当事者としての責任も危機感も持ったうえで戦争の是非を熟考させることになり、少なくとも他国を侵略して一般市民を殺すような戦争はしにくくなるでしょう。傭兵やロボットを使って他国で「自衛」戦争をするなんて禁止すべきなのかも。(中野真紀子) パート2 はこちら http://democracynow.jp/video/20110510-9

ゲスト

*アダム・ホックシールド(Adam Hochschild)マザージョーンズ誌の共同設立者で、現在はUCバークレー校ジャーナリズム専攻科大学院で教えている。To End All Wars: A Story of Loyalty and Rebellion, 1914-1918 (『すべての戦争を終えるために 忠誠と反抗の物語り』)、ややベルギー領コンゴを扱ったKing Leopold's Ghost(『レオポルド王の幽霊』)など歴史物の著書多数

字幕翻訳;中野真紀子

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