ポール・クルーグマン「さっさと不況を終わらせろ」 (2) ユーロ圏の危機ほか

2012/5/17(Thu)
Video No.: 
3
20分

金融大手JPモルガン・チェース銀行は、今年5月高リスクなデリバティブ取引で巨額の損失が発覚しました。その額は、5月の放送時で、20億―30億ドルと言われていましたが、今では40-60億ドルと言われています。ク ルーグマンは同行の最高経営責任ジェイミー・ダイモンを批判します。ダイモンは金融改革に対抗する知恵袋とされ、「我々のビジネスは我々が一番良く知っている。他の者が、私達にどうするか教える必要はない」と言って、どのような規制にも猛反対してきました。そ結果がこの巨額の損失です。米国政府機関によって預金が保証されている銀行が、このような高リスクの取引をすることは、彼らが納税者のお金で賭けをしているとのと同じです。「ボルカー・ルール」と呼ばれる規制が発効されれば (2012年7月から有効)、このような投機的な取引は出来ないはずですが、今年5月以前は、それがいつも通り行われていたことは明らかです。ひとつ間違えば国の経済をも破壊しかねない「大きすぎて潰せない銀行」は、甘い規制で銀行家に任せておくには重要すぎるとクルーグマンは言います。

ヨーロッパの経済危機は深刻さを増す一方ですが、クルーグマンはユーロ圏が解体の危機に直面していると警告します。ギリシアでは、預金が引き出される銀行取付け騒ぎがおきており、その波及がユーロ圏全体に広がる恐れもあります。

アラン・シンプソン元上院議員は5月、クルーグマンの新著を「過剰反応だ」と批判しました。不況のさなかに歳出削減を主唱しているシンプソンに対し、今は財政支出を増やすべきだというのがクルーグマンの主張だからです。またシンプソンはじめ、多くの政治家が好んで使う「普通の家庭でも、収入を超える支出はしない。だから政府もそうすべきだ」という例えに対し、クルーグマンは「国の経済は家計とは違う」という基本的な間違いを指摘します。国全体で考えると、「あなたの支出は、私の収入」だから、みんなが同時に支出を減らせば、みんなの収入が減って経済が低迷してしまう。「一つの家庭にとっては良いことでも、それを集合的に同時に行うと破壊的な結果となるのです」。(関房江)

*ポール・クルーグマン(Paul Krugman) ノーベル受賞の経済学者、ニューヨーク・タイムズ紙の論説コラムニスト、プリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのセンテラリー教授。『世界大不況からの脱出 - なぜ恐慌型経済は広がったのか』など著書多数。 新著は『さっさと不況を終わらせろ』

Credits: 

字幕:関房江/全体監修:中野真紀子