イスラム国に処刑された米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリーの本当の声

2014/9/12(Fri)
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20分

日本人2人が処刑されたことで「イスラム国」(ISIS,ISIL)に対する関心は一気に高まりましたが、人質解放に失敗した日本政府の対応についての検証はまだこれからです。トルコやフランスの人質は解放されているのに、中東への軍事干渉には直接関与していない日本の民間人が殺されてしまったことには、おおいに疑問が残ります。脅迫ビデオでイスラム国の処刑人ジハーディ・ジョンから「安倍晋三、お前の責任だ」と名指しで非難された日本の総理は、そんなことは知らんぷりで、ここぞとばかりにイスラム国と戦うことの必要性を熱弁し、「政府に協力しない者はテロリストの味方」というロジックで、大手メディアを使って政権批判の声を封じています。これはジョージ・W・ブッシュの対テロ戦争ドクトリンをそっくりいただいたものですが、オバマの民主党政権になっても米国は「テロには屈しない」という念仏を唱えて交渉を避ける「拒絶主義」に変わりはありません。最初に処刑された外国人ジャーナリストであるジェームズ・フォーリーへのオバマ政権の対応を見れば、日本政府の行動との共通点が読み取れます。

2014年9月、オバマ大統領はイスラム国を掃討するためイラクでの軍事行動拡大とシリア領内の空爆に踏み切りましたが、その必要性を訴えるに際して持ち出されたのが人質にされた米国人ジャーナリスト2人が斬首された事件でした。しかしジェームズ・フォーリーと生前に交流のあった映画作家のハスケル・ウェクスラーの怒りは、ISISよりもオバマ大統領の対応に向けられています。フォーリーの名をこのように利用することが、いかに本人を侮辱し、米国民を愚弄する行為であるかを知ってほしいと、ハスケルは生前のフォーリーが語る2012年のシカゴNATOサミットでの映像を見せて訴えます。

政府は犠牲者を利用するだけで、本気で救出の手を打たなかったことは、親族による救出活動を迷惑がり、邪魔したことで明らかです。フォーリーの母親は、身代金支払いのための資金を募ろうとして政府に妨害されたと証言しています。この態度は日本政府も同じです。米国人、英国人、日本人の人質だけが斬首という結果になったのは、彼らの政府が「テロリストとの交渉」をあたまから拒絶するからではないのか?テロリストという凶暴で理性のない集団というイメージを作り出し、交渉の余地がないと決めつけで外交解決の道を自ら閉ざし、軍事力でのみ解決したがるのは、イスラエルがパレスチナ人の抵抗を抑えるために長年使ってきた戦略と同じであり、チョムスキーはそれを拒絶主義と呼んでいます。

92歳になるハスケル・ウェクスラーは『アメリカを斬る』の監督としても有名です。1968年シカゴで民主党の大統領候補を指名する党大会をめざして全国から反戦活動家たちが結集したところ、警察による暴力的な弾圧が流血事件を引き起こし、後に「警察の暴動」と呼ばれるようになった事件が題材でした。2012年に同じシカゴで開催されたNATOサミットでも反戦活動家がオキュパイ運動を行うと宣言し、会場の周りでイランやアフガニスタンからの帰還兵が従軍メダルを投げかえすデモも行われました。40年前と比べてシカゴ市当局の対応は本当に変わったのか、ウェクスラー監督は確認のためにドキュメンタリー映画の制作を決めました。その取材中に出会ったジェームズ・フォーリー記者の生の声も、フィルムに収められています。

その意味では、シカゴを舞台に米国の二つの世代の反戦運動が交錯する、奥行きの深いインタビューです。現在はオバマ政権の国務長官として軍事介入を推進しているジョン・ケリーも、元はといえばベトナム帰還兵による米軍の戦争犯罪の告発(冬の兵士証言集会)のスポークスマンとして頭角を現した人物です。彼のように現在の米国政治の中心にいる人たちの中にはベトナム戦争に従軍し、侵略戦争の愚劣さを十分に知っている者がたくさんいるはずなのです。それなのに、民主党の大統領の下でも、米国は再び軍事行動を拡大するという、戦争病に取り付かれています。(中野真紀子)

★ この字幕は朝日カルチャーセンター横浜校の字幕講座の第一作目です。今後も随時このチームで字幕映像を掲載していきますので、どうぞよろしく。

*ハスケル・ウェクスラー(Haskell Wexler) 映画カメラマン、映像監督として定評があり、『バージニアウルフなんか怖くない』と『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』の2作品でアカデミー賞を受賞し、5回ノミネートされた。映画監督としては、ドキュメンタリーを主軸に社会派の作品を作っている。

*メディア・ベンジャミン(Media Benjamin) メディア・ベンジャミン(Media Benjamin)平和活動家 女性を中心に平和と社会正義を追求する集団「コードピンク」の代表で、積極的な抗議行動を行う。Drone Warfare: Killing by Remote Control (『無人機の戦争 リモートコントロールによる殺害』)の著者。この番組の前半のコーナーでは、無人機を使った米国の海外作戦を強く批判している。

Credits: 

朝日カルチャーセンター横浜 字幕講座チーム
富岡由美・長沼美香子・仲山さくら・西田優子・水谷香恵・山下仁美・山根明子・渡邊美奈