フルーツの政治学とミラクルベリーの秘史
モントリオール在住の作家アダム・リース・ゴルナーに、彼の新著について聞きました。本の表題は『フルーツ・ハンター 自然と冒険と商業と執着の物語』。 この本の取材でゴルナーは世界中を旅し、「果物の忘れられた歴史」を探ってきたといいます。彼が発見した彩り豊かでちょっぴり皮肉な「果物の地政学」をご紹介しましょう。
米国では長年禁輸措置の下にあった極上の美味インド産マンゴーがついに解禁されたわけは? 20世紀半ばの中米やカリブ諸国で経済や政治を牛耳っていた「バナナのチキータ」の所業は?
きわめつけは「ミラクルベリー」にまつわるお話です。日本ではミラクルフルーツと呼ばれていますが、このクランベリーに似たフルーツは、口に含むと一時的に味覚を変化させる作用があり、しばらくの間は酸味を甘味のように感じさせるます。すっぱいレモンやライムも、ミラクルベリーを食べた後ではどんなオレンジよりも甘い果物に代わるのです。
この性質を利用して米国の企業家ロバート・ハーベイは新たな甘味料を製造しようとしました。これがうまく行っていれば、糖尿病患者に福音をもたらし、化学療法で味覚を失った患者にも大きな利益をもたらしたでしょう。
しかし彼の前に立ちはだかったのは、人口甘味料製造企業側の産業スパイによるデータ窃盗と、食糧医薬品局(FDA)による不認可の決断で彼の事業は頓挫しました。 その一方で味の素株式会社が開発した人口甘味料アスパルテームは、ドナルド・ラムズフェルド元国務長官がサール製薬会社の社長だった時代にFDAの認可を獲得しました。この時期、ほんの短期間FDA局長をつとめた人物は後に汚職でクビになりましたが、サール製薬会社の重役として迎え入れられました。 中野)
*アダム・リース・ゴルナー(Adam Leith Gollner)
モントリオールの作家。果物と人間のかかわりの歴史を追ったThe Fruit Hunters: A Story of Nature, Adventure, Commerce, and Obsession (『フルーツ・ハンター 自然と冒険と商業と執着の物語』)を出版した。
字幕翻訳:川上奈緒子 校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子・付天斉