イラクは既に分裂した―「イスラム国」台頭の影響は?

2014/7/16(Wed)
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イスラム国(旧ISIS)の台頭は、長年にわたる欧米の中東政策の矛盾を露呈させるものです。そもそもイラクやシリアという国の国境線や建国自体が英仏など戦勝国の利権分割のためですし、米国は最初サダム・フセインの独裁を支援していたのに彼がクウェートの石油利権に触手を伸ばし始めると急に手のひらを返して極悪人呼ばわりし、10年間後には9.11事件に便乗してサダムを排除し、ついでにイラクの国家機構も完全に破壊して宗派抗争の大混乱を引き起こしました。そのツケが巡り巡って鬼っ子のような過激組織、「イスラム国」がいまでは、シリア国内を含めて「英国の領土以上に大きい地域」を制圧し、クルド勢力が制圧する地域と合わせて、イラクは3分割状態です。

このセグメントでは、現場での経験豊かな2人のジャーナリスト、マクラッチー社が抱える複数の新聞のバグダード駐在通信員のハンナ・アラムと、英インディペンデント紙のベテラン中東通信員パトリック・コウバーンをゲストに、なぜ、イスラム国がここまで大きな勢力になったのか、そして、滑稽なまでに場当たり的で無節操な米国の対応がフォーカスされています。特にコウバーンは、米国メディアがようやく騒ぎ始めた2014年7月半ばのこの時期にすでにThe Jihadis Return: ISIS and the New Sunni Uprising (『ジハーディストの復活 イスラム国とスンニ派の新たな蜂起』)をすでに出版していました。コウバーンは、「イスラム国」を「原理主義的なイスラム教を奉じ、シャリア法や慣習を守るカリフが支配するムスリムの国の建設をめざす」、「他宗教はもとよりシーア派を死に値する異端としてみなし」、「自己犠牲と殉教を信仰の証として称揚する」と定義しています。そして、彼等が広い支持基盤をもてたのは、「シーア派のサダム」、マリキ首相のスンニ派弾圧と並び、欧米やサウジアラビア、カタールなどの湾岸諸国によるシリアの反アサド勢力支援で、武器や資金を潤沢に手に入れたことだとしています。しかもイラクの軍や特殊部隊から排除されたベテランの軍人が関与していると思われ、軍としての統率が取れ、イラク国内やシリアでの闘いで戦争の経験も豊か。おまけに誰よりもネットを使ったプロパガンダに長けています。

米国民の多くがイスラム国に恐怖し大騒ぎを始めたのは、米国人ジャーナリストの斬首事件がきっかけですが、ツイッターを巧みに使い、嘘もほんともおかまいなしに流す「誘い」の効果は絶大で欧米からも大勢の若者がはせ参じているのはよく知られている事実です。9月には、オバマ政権は、湾岸諸国(英国もついに尻馬に乗るようですが)と組んで、シリアでの空爆を開始し、自らいついつ果てるともわからないとする長い戦争をまたしても開始してしまいました。これまではテロリスト扱いしてきたシリア軍、ヒズボラ、シリアのクルド勢力とこっそり手に手を取っての作戦です。「イラクはまだ、存在しているとされ、これからもイラクと呼ばれるだろうが、実態はすでにもう、崩壊し分裂している」と7月の時点でコウバーンは断言しています。オバマ政権は、空爆に際し、「イスラム国」は米国の領土まで攻めてくる気配がなく国際法上、「自衛権の行使」と言いくるめにくいため、「ホラサン(Khorasan)」というこれまで誰も耳にしたことがなかった過激集団を持ち出して、こいつらをやっつけねばと言い出したようです。笑えない茶番が人々の生命を奪っていくのです。(大竹秀子)

*ハンナ・アラム(Hannah Allam): マクラッチー 社各紙の在バグダード通信員。2003年から2005年までは、ナイトリダー社各紙のバグダード支局長を務めた。

*パトリック・コウバーン(Patrick Cockburn): 英インディペンデント紙の中東通信員。最新著は、The Jihadis Return: ISIS and the New Sunni Uprising (『ジハディストの復活 イスラム国とスンニ派の新たな蜂起』

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字幕翻訳:大竹秀子 / 校正:桜井まり子 /全体監修:中野真紀子