ウィキリークスの背景には、ハッカー文化が
ウィキリークス創立者ジュリアン・アサンジはコンピュータ・ハッカーの出身です。7月に開かれた世界ハッカー会議(HOPE)でも講演する予定でしたが、当局の弾圧により出席を見合わせました。この会議では、ウィキリークスに機密情報を渡した疑いで逮捕された米軍兵士ブラッドリー・マニングを当局に通報したエイドリアン・ラモが、他のハッカーたちから「裏切り者」としてつるし上げを食らいました。HOPE会議を主催した通称"エマニュエル・ゴールドスタイン"から、ハッカー社会とウィキリークスの関わりについて興味深い話を聞きます。
マニング上等兵は「WIRED」誌のサイトでエイドリアン・ラモについての記事を読み、彼を信用して爆撃ビデオなどのリークについて打ち明けました。共謀罪が存在する米国では、それだけで共犯にされかねないため、危険を感じたラモは当局に通報しました。これはハッカー社会に衝撃を与えました。ハッカーにとって、情報を明るみに出すことこそが最も大切な価値だからです。機密漏洩の匿名性を保障するウィキリークスのようなサイトは、ハッカー社会で高い評価を得ています。
マニングの事件が明らかにすることの一つは、軍のセキュリティ体制の脆弱さです。マニングはイラクに駐留中に軍のネットワークから国務省の情報にアクセスして、持ち込んだCDやDVDに情報を落としていました。マニングにできたのなら、他の兵士にもできたはずですが、その人物がマニングのように米国や民主主義の味方とは限りません。他国やテロ組織の手に渡る可能性も十分にあります。大切なのは、安全対策が甘ければ、それを隠さず、皆が知ることだと、ゴールドスタインは言います。それによって、対策が取られ、安全が強化されます。暴く人々がいてこそ、社会は強くなる、マニングは英雄だと。
ハッカーたちはコンピューターシステム上の情報にアクセスすることにより、企業のセキュリティがどんなに甘いかを明るみに出します。システムや技術の脆弱性を知らせ、悪用される危険があると知らせてくれます。でも、そのために彼らは脅迫を受け、企業に訴訟されたり、当局に検挙されたりします。情報を公開されて都合の悪い人たちは、ハッカーを刑務所に送り、社会の悪者にして口を封じてしまいたいのだと、ゴールドスタインは言います。(中野)
★ ニュースレター第34号(2010.11.10)
★ DVD 2010年度 第3巻 「ウィキリークス」に収録
*エマニュエル・ゴールドスタイン(Emmanuel Goldstein)ハッカー社会では有名な人物で、雑誌 2600:季刊ハッカーの編集人。世界ハッカー会議(Hackers on Planet Earth)の主催者
字幕翻訳:桜井まり子
校正全体監修:中野真紀子・付天斉