ノルウェーの大量殺人事件報道に見る「テロ」報道の色眼鏡

2011/7/26(Tue)
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12.5分

まず、おさらいから。2011年7月22日にノルウェーで起きた大量殺人事件。首都オスロでの爆破とウトヤ島のノルウェー労働党青年本部のキャンプ地での銃撃により計77人が殺害されました。事件が初めて報道されたときの衝撃にもかかわらず、多くの人々にとってこの事件はあっという間に色あせ、忘れさられました。なぜか?主流メディアが興味を失い、報道が消えたからです。憲法専門の弁護士で、政治と法律問題のブロガーでもあるグレン・グリーンウォルドが、イスラム過激派の「テロ」襲撃ではないとわかった途端に報道を放り出したメディア報道の歪みを分析します。

ルパート・マードック所有の英紙ザ・サンは、第一報で一面に「アルカイダの大虐殺:ノルウェーの9/11」という見出しを掲げました。米国では、マードックのウォール・ストリート・ジャーナル紙が当初、「ノルウェーは欧米の規範に忠実であったから標的にされた」と報じ、犯行を“ジハーディスト(聖戦主義者)たち”によるものと決めつけました。けれども、実際には犯人は、アンネシュ・ベーリング・ブレイビクという名の32歳のノルウェー人でムスリムを嫌悪する右翼国粋主義者あることが判明しました。途端に「『テロリズム』という言葉はメディアから消えた」とグリーンウォルドは指摘します。「犯人は急進派ムスリム集団だと多くの人が思い込んだ時は色めきたったメディア。ところが犯人が右翼だと分かったとたん手のひらを返したように見方を変えた」のです。おまけにそんな報道への反省がなされたわけでもないので、「ムスリムを悪者に仕立て権利を制限し 監視を強めるイスラム恐怖症」が、霧散するわけもなく、むしろ今回は大丈夫だったが次回が怖い、という根拠を欠いた警戒のメッセージだけが煮こごりのように残ったのではないでしょうか?

ちなみにブレイビクは、2011年秋に、裁判所が指定した精神鑑定家により妄想型統合失調症であり刑事責任を負えないと判定されましたが、ノルウェー世論の強い反発により2012年春に再度、鑑定が行われ、最初の鑑定とは正反対に、精神異常ではなく裁判に耐えると言う結果が発表されました。裁判は、2012年4月半ばに開始される予定です(大竹)

*グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald) 憲法専門の弁護士で政治法律ブログSalon.comを運営

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字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子/ウェブ作成:丸山紀一朗