2010年第3巻(通巻17) ウィキリークス

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 ニュース報道のあり方を根底からくつがえしたウィキリークス。国家安全保障と機密管理のあり方にも一石を投じました。サーバーを攻撃しても、金の流れを止めても、アサンジを捕まえても、ウィキリークスはつぶせません。直接的な支援者だけでなく、世界中に無数の存在するネット活動家たちが、ウィキリークスを支持するからです。グローバル帝国のネットワークに対抗する逆ネットワークは、マスに溶け合うのではなく、独立した無数の個と個のつながりです。ウィキリークス以降、何かが決定的に変わりました。今年にはいって、中東アラブ世界を大きく揺さぶっているツイッター/フェイスブック革命も、リーダーをもたないマルチチュードの反乱です。

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 政府機密漏洩と内部告発に対するオバマ政権の締め付けが強まっています。内部告発サイトの「ウィキリークス」は4月に、米軍ヘリがイラク民間人を襲い12人を殺す場面が映った米軍機密ビデオを公開して話題を呼びました。その他にもアフガニスタンの米軍による民間人虐殺のビデオや、国務省の機密外交公電を何万件も持っている模様です。米軍は、ウィキリークスに情報を渡した可能性のある陸軍技術兵ブラッド・マニングを逮捕しました。国務省の中東地域の電信網にアクセスして2万6千件の通信記録をダウンロードし外部に渡したと、他人に告白したためです。ウィキリークスの中心人物ジュリアン・アサンジは、ペンタゴンの捜索を逃れて行方をくらましています。両名に対する追及は、内部告発に対して歴代のどの大統領よりも強硬な姿勢を取り、厳罰で臨むオバマ政権の態度をくっきり浮き上がらせました。いまや漏洩情報を受け取った側も訴追の対象です。(2010年6月17日放送)

*ダニエル・エルズバーグ(Daniel Ellsberg) 1971年、国防総省スタッフとして作成にたずさわったベトナム戦争遂行に関する最高機密報告書(ペンタゴン・ペーパーズ)を暴露し、ニクソン政権によって指名手配された。
*ビルギッタ・ヨンスドティル(Birgitta Jonsdottir) アイスランドの国会議員でウィキリークスのビデオ Collateral Murder.の共同プロデューサー。


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 ジュリアン・アサンジはコンピュータ・ハッカーの出身です。7月に開かれた世界ハッカー会議(HOPE)でも講演する予定でしたが、当局の弾圧により出席を見合わせました。この会議では、ウィキリークスに機密情報を渡した疑いで逮捕された米軍兵士マニングを当局に通報したエイドリアン・ラモが、他のハッカーたちから「裏切り者」としてつるし上げを食らいました。HOPE会議を主催した通称"エマニュエル・ゴールドスタイン"から、ハッカー社会とウィキリークスの関わりについて興味深い話を聞きます。(2010年7月27日放送)

*エマニュエル・ゴールドスタイン(Emmanuel Goldstein) ハッカー社会では有名な人物で、雑誌 2600:季刊ハッカーの編集人。世界ハッカー会議(Hackers on Planet Earth)の主催者。


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 2010年は、ウィキリークスの年でした。世界を震撼させた4月の米軍ヘリによるイラク民間人攻撃のビデオ公開、6月には75000点に及ぶアフガニスタン戦争の米軍機密記録(Afghan Diary)、10月には40万点近いイラク戦争に関する機密文書(Iraq War Logs)を公開しました。英国のガーディアン、米国のニューヨーク・タイムズ、ドイツのシュピーゲルなど各国の代表的な報道機関との連携を打ち立てたことは、漏えい情報の裏どりの点でも、内容の解釈の点でも、画期的な効果を生みました。さらに11月には全体で25万点といわれる米国国務省の機密外交公電が次々と公開され、世界に衝撃を与えると共に米国の外交に大きな打撃を与えました。こうした動きの中心にたってきたジュリアン・アサンジ本人から、ウィキリークスの活動の動機や目的について聞きます。(2010年12月31日放送)

*ジュリアン・アサンジ(Julian Assange) ウィキリークス共同創設者・編集責任者。


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 ジュリアン・アサンジに対する米国でのバッシングはすさまじく、「反逆者として暗殺すべきだ」という物騒な発言が、サラ・ペイリンのような極右政治家だけでなく、民主党の有力者からも出ています。ダニエル・エルズバーグは、ペンタゴン・ペーパーズを暴露した1971年当時と比較して、「当時も裏切り者と呼ばれ中傷されたが、今ではそれに加えテロリストと呼ばれて人権をはく奪される。9/11以降の10年間で、ニクソン大統領も口にするのをはばかったようなことが、平気で言えるようになった」と嘆きます。(2010年12月31日放送)

*ダニエル・エルズバーグ(Daniel Ellsberg) 前出。


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 12月にロンドンで逮捕されたジュリアン・アサンジの釈放を求めて、支持者たちが保釈金を寄せています。政治評論家タリク・アリ、運動家ビアンカ・ジャガー、映画作家ケン・ローチ。ジャーナリストのジョン・ピルジャーもその一人です。最新作の映画The War You Don’t See(『見えない戦争』)でアサンジに取材しています。
 「ウィキリークスのしていることは、まさにジャーナリストがやるべきことだ」とピルジャーは指摘します。ウィキリークスを中傷している米国の有名ジャーナリストたちは、政府の嘘を国民に知らせるのを怠り、イラク戦争を始めた時も国民を欺くのに加担しました。そうした権力のからくりを、ウィキリークスと勇敢な内部告発者は民衆に見せてしまった。それが彼らには不都合なのです。でも、もう元にはもどりません。ピルジャーによれば、眠りこけていた国際世論が目を覚まし始め、反乱を起こし始めたのです。(2010年12月15日放送)

*ジョン・ピルジャー (John Pilger) ロンドン在住のオーストリア人ジャーナリスト。50本以上のドキュメンタ リーを制作し、多数の賞を受賞している。ベトナム、カンボジア、エジプト、インド、バングラ ディッシュ、ビアフラなど世界各地の戦地に赴任し、『世界の新しい支配者たち』(岩波書店)など多数の著書がある。


6.統制が強まる中、アイスランドは情報天国をめざす (16分)  DVD限定

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 ビルギッタ・ヨンスドティルが、極北の小国アイスランドが最強の情報開示先進国をめざすことになった背景を語ります。2008年の金融危機でまっ先に財政破綻したアイスランドは、1990年代の急激な民営化と規制緩和で大手銀行による途方もない不正が進んでいました。国民は何も知らされず、気がつけば年金も貯金も吹っ飛んで借金だけが残ったのです。ウィキリークスが公開した銀行の内部資料によって国家ぐるみの不正が明らかになりました。メディアも政府も政治家も学者も、私たちが信用してきたすべての機構に裏切られたことに、ようやく人々は気付きました。
 「情報ヘイブン」構想は、租税回避地(タックスヘイブン)がグローバル金融資本に国内法規制の回避と情報隠匿によって怪しいお金の逃げ場を提供するのに対し、彼らが隠したい情報を公開する人々をかくまいサーバーを保護する「情報の逃げ場」になろうとするものです。グローバル資本の手法を逆手にとったこの戦術も、ウィキリークスとの協力から生まれました。(2011年1月13日放送)

*ビルギッタ・ヨンスドティル(Birgitta Jonsdottir) 前出。


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 ニュース報道のあり方を根底からくつがえしたウィキリークス。国家安全保障と機密管理のあり方にも一石を投じました。サーバーを攻撃しても、金の流れを止めても、アサンジを捕まえても、ウィキリークスはつぶせません。直接的な支援者だけでなく、世界中に無数の存在するネット活動家たちが、ウィキリークスを支持するからです。グローバル帝国のネットワークに対抗する逆ネットワークは、マスに溶け合うのではなく、独立した無数の個と個のつながりです。ウィキリークス以降、何かが決定的に変わりました。今年にはいって、中東アラブ世界を大きく揺さぶっているツイッター/フェイスブック革命も、リーダーをもたないマルチチュードの反乱です。

☆付録の対訳小冊子は、