全米にはびこる「ゾンビ原発」

2009/11/25(Wed)
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環境に有害と見られてきた原発が、気候変動対策の選択肢として脚光を浴び始めています。オバマ政権は原子力発電所新設の助成に185億ドルの予算を組んでおり、2010年2月には合衆国では約30年ぶりになる新規原発建設のため80億ドルの債務保証を発表しました。合衆国では1979年にペンシルベニア州のスリーマイル島原発で2号炉が炉心溶融の大事故を起こし、これをきっかけに安全性に不安を抱く世論が高まり新規発電所の建設はストップしていたのです。

2009年11月21日、このスリーマイル島原発で放射能漏れの事故が起こり、150人以上が退避する騒ぎとなりました。1970年代始めに建設された1号炉が、いまも稼働しているのです。これを運転するエクセロン社は放射能漏れは軽微であり深刻な影響はないと発表しました。しかし70年代の古い原発は設計耐用年数が40年程度であり、すでに寿命が尽きていると、ネイション誌のクリスチャン・パレンティ記者は言います。「でもゾンビは死なない、規制当局の怠慢のせいだ」。

米国全土に100基以上の「ゾンビ原発」が散らばっており、原子力規制委員会(NRC)は、こうした原子炉の約半分に20年のライセンス延長を認めています。その多くが耐用年限を超えて使用され、ものによっては設計能力の120%にも達する出力で運転されているとパレンティは警告します。

こんなことが起こるのは、原発がおいしいビジネスだからです。ライセンスの延長は、たいていは新会社による買収とセットになっていて、旧会社が背負っていた債務は政府の金、つまり税金で清算されます。そして新会社もまた政府に100%の債務保証を要求するのです。原子力発電事業は市場原理のもとでは維持できないからです。

運営以上においしいのは、リスクのまったくない新規原発の建設です。新規原発の建設費はべらぼうに高く、総工費は常に当初計画の何倍にも膨れあがります。100%政府保証の巨額事業を請け負いたい建設業界が、新規建設を推進するのです。

原子力発電所の建設が市場経済のもとでは成り立たないという指摘は重要です。フランスや日本で原子力発電がさかんなように見えるのは、民業の皮をかぶった国策事業だからこそ可能なことです。日本が非核国でありながら濃縮ウランの製造を許されてきたことの意味は、米国内での濃縮ウラン生産の減少と合わせると、なかなか興味深いものがあります。(中野)

★ DVD 2010年度 第4巻 「巨大リスクと利益」に収録

*クリスティアン・パレンティ (Christian Parenti) ジャーナリスト。ネイション誌の最新気候変動特集号の特別編集員

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全体構成:中野真紀子