米国ジャーナリズムの起死回生

2010/2/4(Thu)
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独占構造で守られた日本の大手新聞とは違い、米国の新聞業界はビジネスモデルが破綻して退潮が著しく、廃刊や事業縮小が相次ぎ絶滅の道をまっしぐらです。2009年度には142紙が廃刊し、報道編集部の大幅縮小で出版・新聞業界で推定9万人が失職しました。こうした新聞業界の惨状を踏まえ、メディア改革運動の2人の旗手が新著The Death and Life of American Journalism: The Media Revolution that Will Begin the World Again(『米国ジャーナリズムの起死回生-世界を再生するメディア革命』)で、公益事業としてのジャーナリズムを公的な助成によって救えと提唱しています。とかく保護主義には手厳しい米国ですし、しかもメディアへの助成となると政府の干渉も心配です。でも歴史をひも解けば、南北戦争のころまでは報道出版事業の育成に手厚い保護が与えられ、教育や軍隊に匹敵するほどの予算が振り向けられていたのだそうです。どうしてこの歴史が忘れ去られたのか?

「言論の自由」は米国の国是です。最高裁判例の多くが、言論の自由の保障を政府の第一の責任としており、憲法は言論の自由を「容認する」のではなく「要求している」のです。 「言論の自由」といっても、言論の手段(メディア)がなければ無意味です。言論がないところには検閲の必要もありません。つまり「言論の自由」の保障とは、検閲をしないだけでなく、独立した言論が育つ環境を政府が責任を持って整えることなのです。少なくとも南北戦争のころまではそのように理解されていました。出版物への助成を特に本気で推進したのは、奴隷廃止論者たちだったそうです。反体制の声を伝える手段を制度的に保障しなければ、真の変革は起こせません。

一方、新聞の凋落によって調査取材の能力はどんどん落ちています。ピュー調査研究所によれば、米国のニュースの出所は今や85%強が政府や企業の広報であり、独自の取材は15%もないそうです。権威者の話を伝達するだけでは、もはやジャーナリズムではありません。新聞の独自取材はこの20年で7割も減ったそうですが、これはメディアの統合整理が原因であって、ネットとの競合が始まる前のことです。巨大化したメディア企業を救う必要はありませんが、ジャーナリストがいなければ取材はできません。でもウェブにはジャーナリストを支えるだけの収入がありません。

"言論の自由がなければ民主政治も法の支配も失われる"という言葉が、こうした報道の崩壊を前に現実味をもって響くようになったとマクチェズニーは言います。米国ではメディアそのものが問題の一部だと多くの人が思っています。この堕落したメディアがブッシュ大統領を不当に当選させ、イラク戦争の開始を煽りました。メディアをなんとかしなければ、どんな改革もうまくいきません。そのことは日本でも同じでしょう。(中野)

*ロバート・マクチェズニー(Robert McChesney)イリノイ大学教授、メディア改革団体フリープレスの共同創始者。

*ジョン・ニコルズ (John Nichols) ネイション誌のワシントン特派員 メディア改革団体フリープレスの共同創始者。

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字幕翻訳:中村達人/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子・付天斉