米国の通商政策とNAFTAが移民の大量流入をもたらす

2006/5/2(Tue)
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 奇しくも今週最後のニュースは、米上院の超党派グループが米移民法を抜本的に見直す新議案を提出したというものでした。国境警備体制や無届の滞在者の取締りを強化したりする一方で、外国人労働者の受け入れ体制を整備するゲストワーカー・プログラムの推進も唱っています。一定の手続きを踏めば期限付きで労働許可を与えようという、一見譲歩のようにみえるこの提案は、移民の権利を擁護する市民団体から猛烈な反発を受けています。 いったい何が問題なのか。

 昨年のメーデーに大きな盛り上がりを見せた移民の権利要求運動ですが、この運動に参加した150万人もの人々が要求したのは、1986年の移民法改正時に行ったような「恩赦」による、無届の移民の即時合法化でした。合法、非合法を問わず、すでに経済の大きな部分を移民労働に頼っている米国の現実を認め、移民の貢献を正当に評価し、1200万に達しているともいわれるヴィザなし移民に社会参加の機会を与えよと、労組も一緒になって要求したのです。 

 でも議員たちの多くは、二大政党のいずれも「恩赦」には冷淡です。それに代わるものとして超党派で提案されているのがゲストワーカー制度ですが、どうやらこれは「外国人一時労働者」という底辺労働層を固定化するものであり、「移民の国」アメリカの従来の移民政策を大きく変えてしまうものです。

 その背後にはNAFTAに代表される米州自由貿易体制の生み出す構造的な貧困と移民流出と、そのような人の流れに目をつけた大資本による、人の移動そのものを搾取しようという思惑が働いているようです。議員たちの行動は、このような勢力の要求を反映したものでしょう。こうした動きは米州にとどまらず、WTO会議でもゲストワーカー制度の導入が各国共通の目標とされたらしく、国際的なゲストワーカー制度が推進されているとも考えられます。

 このような移民法をめぐる現在の動きの背景を知る上でも、またその根底にある構造的な問題を知る上でも。昨年のメーデーに際してデイビッド・ベーコンに行ったインタビューは、大変に興味深いものです。  (中野)

* デイビッド・ベーコン David Bacon は労働運動を一筋に追い続けてきたベテランのフォトジャーナリストです。『ネイション』や『プログレッシブ』などの雑誌に寄稿し、カリフォルニア州バークレーにある独立系ラジオ放送網パシフィカのKPFA局で番組編成もしています。『ナフタの子供たち』、『国境なき人間集団(Communities Without Borders)』(近刊)など、著書多数。

* ハビエル・ロドリゲス Javier Rodriguez 移民の権利要求運動に長年たずさわり、2006年メーデーにロサンゼルスで行われた二つの大規模デモの片方の主催団体(March 25th Coalition Against HR 4437)のスポークスマン。全国的な経済ボイコットの呼びかけ人

* フスティーノ・ロドリゲス Justino Rodriguez 移民の権利を支持するニューヨークの学生共闘(CUNY Coalition For Immigrant Rights)を組織。ニューヨーク市立大学のみで2000人近くの学生が授業を欠席した

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字幕・翻訳 :甘糟智子
全体監修:中野真紀子