資本主義の問題に真っ向から挑むマイケル・ムーアの新作 『キャピタリズム~マネーは踊る』 前編
ゼネラルモーターズによる大規模な工場閉鎖が、故郷のミシガン州フリント市の経済と住民の生活を破壊していく様を、絶妙のユーモアを交えて批判した初監督作品『ロジャー&ミー』(1989年)が、記録映画として米国興行成績記録を書き換えてから、はや20年。巨体と野球帽をトレードマークに、自らレポーター役で体当たり取材すると云う独特のスタイルを確立したマイケル・ムーアは、作品の多くが全世界で劇場商業公開される稀有なドキュメンタリー作家として常に注目を集めてきました。
日本で劇場公開されただけでも、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞受賞の『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)の銃規制問題、カンヌ映画祭パルムドール受賞の『華氏911』(2004年)の軍事産業、『シッコ』(2007年)の医療保険問題と、米国の主流マスコミがタブーとして敬遠する分野を切り口に、米国の、ひいては全世界の病巣を容赦なくえぐり出し、多くのファンを獲得しています。
2009年9月末に米国で封切られたマイケル・ムーアの新作『キャピタリズム~マネーは踊る』(原題Capitalism: A Love Story 『資本主義─ある愛の物語』)の標的は、世界を隅々まで支配する資本主義そのもの。資本主義は悪の制度で、その本質はネズミ講だと喝破するムーア監督はこの映画で、民主主義を形骸化させ政治と社会を牛耳る金融資本と、それに寄生する議会と行政に正面から切り込み、返す刀で、問題の本質から目を背け弱者に責任を転嫁することで権力に擦り寄る大手報道機関を切り捨てます。2008年、リーマンブラザーズ証券の破綻とAIG保険の経営危機に端を発した世界同時不況、それに続く巨額の公的資金による金融業界救済。「デリバティブ」や「クレジット・デフォルト・スワップ」(CDS)など、専門用語の煙幕に隠れて行われた「略奪」を誰にでも分かるように説明するという野心的な作品を通じて、21世紀のための新しい経済秩序が必要だと提言する、マイケル・ムーア監督に独占インタビューしました。
10切れしかないパイのうち9切れを一人が取り、残りを全員で奪い取る現代社会の構造を、子供にでも分かる犯罪だと言うマイケル・ムーア監督が示す代案とは? ユーモアと愛情に溢れる、辛辣な語りをお楽しみください。(斉木)
★ ニュースレター第23号(2009.12.10)
字幕翻訳:斉木裕明/校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子・付天斉