スティーブ・コルの新著『ビンラディン 或るアラブの一族と米国の世紀』

2008/9/15(Mon)
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59分

2001年の米国同時多発テロから7年、事件の黒幕とされたのは国際的イスラム主義組織アルカイダの創設者であるオサマ・ビンラディンでした。ビンラディンを匿った、アフガニスタンのタリバン政権に対する米国の攻撃からも7年が経ちましたが、アフガン情勢は一向に好転しません。報復の連鎖で死者数の増加が加速するなか、バラク・オバマ次期米大統領もアフガニスタンへの軍隊増派を公約しており、今後さらに混乱が深まる可能性もあります。

イエメン出身の移民で極貧から身を起し、サウジアラビア有数の富豪となった父モハメッドの、17番目の息子として生れたオサマ・ビンラディンは、生家と母の再婚先の二つの過程を往復して育ち、中学時代にはイスラム主義革命組織であるムスリム同胞団に加入。その後1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻すると難民支援と対ソ抵抗運動に志願し、聖戦指導者として頭角を表しますが、第1次湾岸戦争で米軍がサウジアラビアに進駐すると、聖地の守護者であるべき王家の腐敗を批判して国外追放同然となり、スーダンを経てアフガニスタンに舞い戻ります。ケニアとタンザニアの米国大使館爆破や米駆逐艦コール襲撃にも関わったとされますが、2001年の9.11事件で一躍世界中の注目を浴びました。

コル氏は、父モハメッドの出自に始り、オサマの少年時代とイスラム主義への目覚め、聖戦指導者としての台頭などを詳細に調査し多くの新事実を発見しました。番組のインタビューでは、一般に報道される謎に満ちた「怪物」としてのオサマ・ビンラディン像ではなく、ハイテク好きで家族思いといったオサマの一面も紹介、また9.11事件の直後に米国に滞在中のビンラディン一族が半ば超法規的に出国した経緯などを多くの証言に基づいて語ります。またブッシュ政権が掲げる「テロとの戦い」の最重要パートナーであったムシャラフ政権が崩壊し、民政復帰したパキスタンの情勢変化がオサマ・ビンラディンの今後に与える影響など、コル氏の深い情勢分析には興味が尽きません。(斉木)

スティーブ・コル(Steve Coll) 元ワシントン・ポスト紙の編集長で長年海外特派員をつとめた。現在はニューアメリカ財団の代表理事、ニューヨーカー誌のスタッフライター。1990年には連邦証券取引委員会に関する報道で、初のピューリッツァー賞受賞。2005年にGhost Wars: The Secret History of the CIA, Afghanistan, and Bin Laden, from the Soviet Invasion to September 10, 2001(『亡霊戦争 CIA、アフガニスタン、ビンラディン秘史 ソ連侵攻から9.11前夜まで』)で2回目の受賞。最新作はThe Bin Ladens: An Arabian Family in the American Century(『ビンラディン 或るアラブの一族と米国の世紀』)。
http://www.newamerica.net/people/steve_coll)

Credits: 

字幕翻訳:桜井まり子/校正:斉木裕明
全体監修:中野真紀子・高田絵里