サンフアン市長が語るプエルトリコのショックドクトリン

2017/10/31(Tue)
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20分

2017年9月にハリケーン「マリア」の直撃で水や電気のインフラが破壊されたプエルトリコに現地取材しました。5週間経っても島の大半が停電中で、半数の住民が水の供給も受けられません。ハリケーン被害を受けた米国の他の都市に比べて異常な復旧の遅れで、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の不作為が非難されています。そんな中でようやく現地を訪れたトランプ大統領は、1000人超の死者が出た05年のハリケーン「カトリーナ」に比較して、死者16人の「マリア」は「本物の大災害」ではないと述べて顰蹙を買いました。実際には公式発表の死者数をはるかに上回る犠牲者が出ています(18年5月発表のハーバード大学の調査では約4,600人)。

一方で、災害に乗じて一儲けをたくらむ企業の動きは迅速です。プエルトリコの電力公社は全島に電力を供給する米国最大の電力公社です。ずっと赤字経営でしたが、プエルトリコの財政危機に伴い破産状態となり、米国のコンサルティング企業の手で大幅なリストラが行われていました。送電網の維持もままならず、今回の大停電もなるべくして起きたことでした。そんな中で、どさくさにまぎれて何の実績もない米国本土の小企業に3億ドルで電力復旧を丸投げするという、とんでもない契約が結ばれていたことが発覚しました。

2015年ごろから明るみに出たプエルトリコの財政危機は、ギリシャと同じように破綻を先延ばしするために借金が膨張して、ついには700億ドルもの負債を抱えて破産しました。とはいえ米連邦の自治領という特殊な地位のため本土のような自治体の破産法による保護が適用されず、米国政府内に設けられた財政管理委員会が住民の意思を問うことなしにリストラを進めます。自治領といいながら自治権を奪われた状態になっています。こうした背景が、ハリケーン被害からの復興に影を落としています。(中野真紀子)

*カルメン・ユリン・クルツ(Carmen Yulín Cruz):サンファン市長。ハリケーン災害時の活躍で一躍有名になるが、率直な発言のためトランプ大統領に煙たがられた。

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字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
全体監修:中野真紀子