ジョセフ・スティグリッツ:『世界の99%を貧困にする経済』
経済的な格差が、先進国の中で最大になってしまった米国。機会均等を誇っていたはずの国が、先進国の中で均等の度合いが最も低い国になってしまったのです。最新著『世界の99%を貧困にする経済』の中で、ノーベル賞受賞経済学者のジョセフ・スティグリッツは、経済格差が政治をゆがめ、民主主義をあやうくしている現状を指摘します。
社会が不平等であればあるほど、トップに位置する人々の政治権力が強まり、そのような権力者が定める法律は、力を握る者に対して有利で、格差をさらに進めてしまう、と言うのです。99%のニーズは無視され、札束で民主主義を買う社会が実現してしまうのです。こうして民主主義が機能しなくなると、市民の間に政治や社会に対する幻滅が生まれます。幻滅は人々を過激にする、欧州ではファシズムが台頭してきているし、米国でも、茶会党は過激化する要素をはらんでいる。富がトップ1%に集中し、中産階級は空洞化し、底辺の極端な貧困層が増加している米国。不平等は、社会を分断し、弱体化させ、未来を危険に陥れるとスティグリッツは指摘します。社会がそんな状態に陥れば、我が世の春を歌っていたはずの1%の足下も総崩れ。「不平等は、高く付く」のです。「従来の経済学は、不平等を減らすには犠牲が伴い、経済の弱体化を伴うと、教えてきた。だが、それは誤りだ。新著ではそのことを明らかにした」とスティグリッツは、指摘します。そして、「強い経済、経済成長、効率化と平等は両立する」という主張のもとに、緊縮財政で格差をますますつのらせようとする欧米の経済政策に警鐘を鳴らし、不平等を緩和するための提言を行なっています。(大竹秀子)
*ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz) ノーベル賞受賞の経済学者でコロンビア大学教授。『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』はじめ、著書多数。最新著は『世界の99%を貧困にする経済』。
字幕翻訳:田中 泉/校正/大竹秀子/全体監修:中野真紀子