デュポンとの闘い 化学大手がテフロンのフッ素化合物の世界的な健康リスクを隠蔽(前半)
2018/1/23(Tue)
Video No.:
1
17分
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2020年4月10日、沖縄県の米軍普天間飛行場から有害な有機フッ素化合物PFOSを含む泡消火剤が基地の外に大量に漏れ、11日には宜野湾市の宇地泊川や付近の住宅街に風に乗って泡が広がる事件がありました。改めてフッ素化合物の危険性と行政の対処が問われる事態です。これに関連する、2018年の動画を前半と後半に分けて掲載します。
2018年のサンダンス映画祭で初公開された記録映画『既知の悪魔』は、テフロン加工に使用される有機フッ素化合物C8(PFOS/PFOA)の有毒性と水質汚染の広がりを解明するため、製造元のデュポン社を相手取って住民が集団訴訟を起こし、被害を賠償させるとともに、国内での製造と使用の段階的終了を約束させたいきさつを描いています。
デュポンはPFOAの有毒性と広範な飲料水汚染を知りながらウエストバージニアの工場で長年にわたり製造と廃棄を続けていました。いまでは米国人の99%の血液の中に存在しており、そればかりか地球上のすべての生き物の体内に侵入しています。環境に放出されたC8は分解されることがなく、煙突の煙から雲の水滴として取り込まれ、世界中に汚染が広がっています。たとえ米国内での製造をやめても世界のどこかで製造すれば、汚染を免れることはできません。
デュポンは2006年にPFOAの製造と使用を段階的に終了させると発表し、代賛物として、GenXという物質を2009年に導入しました。同じPFAS化合物でも毒性が少ないとされていますが、もちろん無害ではありません。製造のために自社のフッ素製品部門を分社化してケマーズという新会社を設立しました。この会社はオランダに製造工場を持っていますが、GenXの廃棄物をより規制の緩い他国に輸送して処分している疑いがあります。インターセプトの記事によれば、2017年ごろまではイタリアの会社に廃棄処分を委託していましたが、この会社は倒産し、現在は米国のノースカロライナ州に輸送しているという疑惑が浮上しています。欧州に比べて規制が緩いため、Uターンしてきた形です。これまで中国など第三世界の規制の緩い国々に汚染物をアウトソーシングしてきた米国ですが、いまはこのありさま。皮肉なものです。
ここで気になるのが日本の規制です。2019年4~5月に開催されたPOPs条約締約国会議(COP9)においてPFOA及び関連物質が製造使用の廃絶に取り組むべき物質に追加されたことを受け、日本でも規制強化への取り組みが始まりました。そんな中で、米軍基地のPFOS流出事件が起こりました。その量はドラム缶700本分以上にも上る模様で、事の重大さから米軍基地にはじめて日本側の立ち入り検査が行われましたが、米軍の情報開示は十分とは言えません。環境省は5月26日、河川や地下水などに含まれるPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラムという指針値を発表しましたが、法的拘束力はありません。主要な汚染源が米軍基地となると、本当に規制できるのかどうか心配ですね。(中野真紀子)
*バッキー・ベイリー(Bucky Bailey):胎児のとき母親がウエストバージニア州のデュポンのテフロン製造工場で働いていた。深刻な身体欠損症を負って誕生し、30回以上の手術を繰り返しながら成長した。
*ジョー・カイガー(Joe Kiger):デュポン社を相手取った集団訴訟の原告代表を務めた。デュポンの工場のあるウエストバージニア州パーカースバーグの元教師で肝臓疾患を患う。
*ロブ・ビロット(Rob Bilott):デュポンとの訴訟を率いた弁護士
Credits:
字幕翻訳デモクラシー防衛同盟(千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美)+関房江 全体監修:中野真紀子
English Script:
https://www.democracynow.org/2018/1/23/dupont_vs_the_world_chemical_giant