核保安サミットの「から騒ぎ」、イスラエルの核はどうする?

2010/4/14(Wed)
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オバマ大統領が主宰したワシントンDCの核安全保障サミットは、テロの標的になりやすい無防備な核物質を今後4年以内にすべて封じ込めるとの誓約を参加47カ国から取りつけて閉幕しました。しかし高濃縮ウランやプルトニウムの生産については具体的な法規制の枠組みを作れませんでした。

『原爆妄想:ヒロシマからアルカイダに続く核の空騒ぎ』の著者ジョン・ミューラー教授は、核原料の封じ込めは無駄ではないとしながらも、テロリストに核をわたさないことが最重要の緊急課題であるというオバマの見方には疑問をはさみます。現実には核兵器がテロリストの手にわたる可能性はきわめて低く、彼らが核兵器にさほど関心を示している様子もないからです。

その一方で、会議の直前になって出席を取り消したイスラエルの問題があります。イスラエルは中東で唯一の核保有国家です。イスラエルの核保有は1970年代から国際的に知られていましたが、当時のゴルダ・メイヤ首相とニクソン大統領とのあいだで、米国はイスラエルの核計画を黙認するが、そのかわりにイスラエルは核保有を公式に認めないという取引が成立しました。イスラエルが中東で核兵器を独占しながら公式に認めずにいることは、一歩間違えば、この地域での核拡散の引き金になりかねないと、ジョン・スタイバックは言います。

アラブ連盟は、イスラエルが核兵器保有を公式に認めるようなことがあれば自分たちも核兵器を持たざるをえないとの声明を出しました。エルバラダイ前IAEA理事長はこれに対し、イスラエルに保有を公式に認めさせなければ、問題を俎上にのせることができず、そこからでないと中東の核廃絶は実現しないと諌めました。中東の国々はすべて核不拡散条約に署名しており、イランは過去10年にわたり徹底的なIAEAの査察を受けてきましたが、イスラエルは核弾頭のみならず潜水艦やミサイルなどの運搬システムを持っているのに放置されています。この不条理な状況を解消しなければならなりません。(中野)

*ジョン・ミューラー(John Mueller), オハイオ州立大学政治学教授 Atomic Obsession: Nuclear Alarmism from Hiroshima to Al-Qaeda(『原爆妄想:ヒロシマからアルカイダに続く核の空騒ぎ』)Overblown: How Politicians and the Terrorism Industry Inflate National Security Threats, and Why We Believe Them (『政治家とテロ業界が煽る脅威に踊らされる私たち』)などの著者

*ジョン・スタインバック(John Steinbach) 核問題の専門家。イスラエルの核兵器開発計画についての論文を、エミレーツ戦略研究調査センター(ECSSR)から出版した。

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字幕翻訳:川添峡子/校正・全体監修:中野真紀子