J・スティグリッツ オバマ政権の経済金融政策1年目を批評

2010/2/18(Thu)
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7870億ドルの景気刺激策を導入してから1年が経ち、オバマ大統領はこの政策が米国を破滅から救ったと自賛しましたが、雇用創出においては十分な効果が上がっていません。ノーベル賞経済学者ジョセフ・スティグリッツ教授は、景気対策は不十分であり、また減税政策に偏りすぎているため個人消費の増加につながらないと批判します。また雇用創出ばかり強調して雇用の維持への大きな貢献が見過ごされたり、評判の悪い金融業界への救済措置とごっちゃにされたりと、売り込みも下手です。

舵取りをしているオバマ政権の経済チームに対しては、個人攻撃を避けながらも、新自由主義の権化だった人々が、そう簡単にこれまで信奉してきた思想を捨てて、頭を切り替えられるものかどうか疑問視しています。根本的な改革が必要なときに、旧来の思想に染まった目でものを見がちな人々にそれが見えるのだろうかと。

その思想とは「市場は常に自己調整するため、規制をかける必要はなく、むしろ有害である」というものです。この思想に従って規制緩和を進めたことが今回の危機の原因でした。じつはその兆候は1990年代にすでに第三世界や新興諸国の経済危機の形で表れていたのです。1930年代の世界大恐慌の時にも、それに先行して第三世界で大恐慌が起こっていました。それをちゃんと見ていれば、今回の危機は予見できたはずだとスティグリッツは言います。

軍事費以外の支出は切り詰めるというオバマの財政均衡策に対しても手厳しく批判しています。戦費は国内経済に還元されず税収も増えません。そもそも戦争経費は傷痍軍人の生涯年金を含めれば数十年先まで膨大な負債が残ります。これは今日の債務よりもずっと大きな問題であり、将来の雇用や税収を増やし債務を軽減させるために、いま国債を発行するのは合理的なことだと彼は言います。これに加えて州財政の緊縮が景気対策の足をひっぱるという問題も指摘しています。
この他、気候変動問題と経済回復の関係、グローバル経済の不均衡の是正、さらには米国の選挙制度の問題点にまで、話題はひろく及びます。(中野)

*ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz)ノーベル経済学賞受賞のコロンビア大学教授。新著はFreefall: America, Free Markets, and the Sinking of the World Economy(『フリーフォール:米国、自由市場、世界経済の沈降』)

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字幕翻訳:小椋優子/校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子・付天斉