米国労働者の冬の時代

2008/7/29(Tue)
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ニューヨーク・タイムズ紙の労働記者スティーブン・グリーンハウスは、新著Big Squeeze(『きつい締め付け』)の中で、米国人は労働時間が延びる一方、収入は減少し、年金や医療保険は貧弱になり、雇用の安定は失われたと、雇用環境の悪化を検証しています。米国の労働システムの不平等と破綻、将来の変革の可能性について話を聞きます。

米国はつい最近まで好景気が続いていたにもかかわらず、失業者は2000年より900万人も増え、労働人口の6分の1が保険未加入です。1人当たりの医療保険費は約6500ドルと、国民皆保険のある仏独の2倍、日本の2.5倍の高額だからです。企業収益は最高水準で労働生産性は15~20%も上がったのに賃金は低く据え置かれ、国民総所得に対する賃金の割合は大恐慌以来の低水準です。

どうして、こんなことになってしまったのか? グリーンハウスは、労働組合の交渉力の低下を指摘します。組織率の低下に加えて、グローバル化の影響で、企業側は「賃金据え置きが嫌なら、仕事は中国やインドへ回すぞ」と脅すことができるようになりました。

一方、経営者には株式市場からの圧力がかかります。1980年代からヘッジファンドや年金基金など機関投資家が台頭し、株価を押し上げる政策を採るよう常に経営者に迫ります。利益の最大化のため、まっさきに削られる経費が人件費です。

こうした中、米国の労働運動は激しい内部対立を経験しています。サービス業労働者などを中心とする「勝利のための変革」連合が、穏健派とされる主流派AFL-CIO(米労働総同盟産別会議)から分離独立しました。離脱の理由は、積極的な組織化による急拡大をめざすためということですが、はたしてこれは、労働運動の活性化につながるのでしょうか?

グリーンハウスはまた、経営者側も利益最優先とは異なる理念に立つ可能性があることを示唆しています。従業員収奪の代名詞のようなウォルマートの対極にあるものとして、同じ小売業界のコストコ(米国ではコスコーと発音します)の経営理念が紹介されています。労働者をもっと大切にする政策に切り替えることが、国内産業の復興のために重要な鍵を握るのかもしれません。(中野)

スティーブン・グリーンハウス(Steven Greenhouse) ニューヨーク・タイムズ紙の、労働関係専門記者。新著はThe Big Squeeze: Tough Times for the American Worker(『大きな締め付け 米国労働者の困難な時代』)。

Credits: 

字幕翻訳:川上奈緒子 / 校正:永井愛弓
全体監修:中野真紀子