生き延びるため「命を懸ける」世界的アパルトヘイト時代の米国移民物語

2008/6/20(Fri)
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国連難民高等弁務官事務局(UNHCR)の推計では、2007年末に世界の難民数は1100万人を超え、国内にとどまっている避難民は2600万人でした。ここには、経済や気候や生態系の変化などの理由で故郷を捨てざるを得なかった人々は含まれていません。今日のテーマは難民ですが、米国では「移民」と呼ばれています。

ニューヨーク州のバッサー大学のジョセフ・ネビンズ教授は、国際法による「難民」の定義[注*]が狭すぎるため、何の罪もないのに故郷を追われた膨大な数の人々が国際的な難民保護体制の枠外にいることを問題視しています。よく使われる「不法移民」という言葉は、難民保護の責任を逃れるために政府がつくった用語であり、基本的人権である移住の権利を行使した者を犯罪扱いするものです。国際人権規約は、生活できる賃金で働く権利、十分な食事を採り、最低限の生活物資を供給される権利を保障していますが、政治や社会の混乱でそうした権利が実現できない国では、移住しか権利を実現する方法がないからです。移住権の否定は基本的人権の否定であるとネビンズは言い切ります。

その具体的な例として取り上げられるのは、メキシコ国境を越えて米国に入ろうとする人々の困難です。米国の入国管理政策が取り締まり強化に動いているため、人の通らない危険な地帯を通過するしかなく、過酷な自然条件にさらされて命を失う人々が絶えません。それでも故郷で人間らしい生活ができない以上、彼らは「命を懸けて」も生き延びるために国境を渡ります。

ネビンズ教授の新著は、ロサンゼルスの妻子に会うためカリフォルニア国境地帯の砂漠で命を失った一人の男の物語を足がかりに話題を広げ、米国の「移民」政策の問題点、反テロ戦争の名の下にメキシコ国境の要塞化を進めるブッシュ政権、バラク・オバマや民主党の共犯関係、不法移民の脅威をあおるメディアの役割などについて語ります。(中野)

*1951年の難民条約によれば、難民とは人種 民族 宗教 国籍や帰属する社会集団や政治信条ゆえに迫害を受ける恐れがあるという、十分に根拠のある不安のため国外に逃れた人を指します。

* ジョセフ・ネビンズ(Joseph Nevins) バッサー大学の地理学准教授。The Rise of the Illegal Alien and the Making of the US-Mexico Boundary(『不法移民の発生と米墨国境の形成』)など著書多数。最新書はDying to Live: A Story of US Immigration in an Age of Global Apartheid (『生き延びるため命を懸ける 世界的アパルトヘイト時代の米国移民物語』)

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字幕翻訳:川上奈緒子/校正:斉木裕明
全体監修:中野真紀子