民衆の気候マーチ Part2 その日

民衆の気候マーチ Part2 その日

2014年9月21日、ニューヨーク市で開催された「民衆の気候マーチ」。1500団体、40万人近くが参加し、先頭から最後尾まで、行列の長さは4マイル(約6.4km)に達しました。行進は午前11時30分にセントラル・パーク・ウェストを出発し、12時58分から午後1時にかけて2分間、炭素燃料による環境破壊で亡くなった犠牲者のための黙祷が献げられました。

アル・ゴア元米副大統領、ビル・デブラシオNY市長、動物行動学者・霊長類学者で国連平和大使のジェーン・グドール一緒にマーチに加わった潘 基文国連事務総長には、世界各国からの200万を超える署名が、手渡されました。署名は、翌々日の9月23日に国連で開かれる気候変動サミットに集まる世界各国の首脳に向け、気候変動に対する大胆で真剣な取り組みを訴えたものです。

この日、ロンドン、ベルリン、ローマ、リオデジャネイロ、メルボルンなどでも、ニューヨークに連帯してデモが行われ、ロンドンでは4万人が参加しました。また、152ヶ国で2000を超える関連イベントが開催され、気候変動に対する市民運動はグローバルに拡がっています。PART2では、「その日」の熱気を写真と音でお届けします。

カナダからもバスでやって来た 地下鉄の駅で

集合場所に向かう人で地下鉄駅も大賑わい。タイムズ・スクエア駅のプラットフォームでカナダからの参加者に出逢いました。トロントに近い人口4千人の街から、350.orgが仕立てたバスで到着し、「昨夜は、お宿をしてくれた教会の地下室でゴロ寝したの」と嬉しそう。3人とも、タールサンド反対のTシャツを着ています。

NYでのマーチに参加する人たちのため、全米各地やカナダから550台以上の貸し切りバスがやってきました。また、サンフランシスコからは「民衆の気候列車(People’s Climate Train)」2台が仕立てられ、1台目は9月15日、2台目は16日にサンフランシスコを出発し、デンバーやシカゴなど数カ所でアクティビストを拾いながら、4日をかけてNYに到着しました。列車の中では、ティーチインやトレーニング、ワークショップが開かれ、準備も万端です。

ちなみにカナダのスティーブン・ハーパー首相は、23日の国連気候サミットに出席しませんでした。いまや地球温暖化に大貢献してしまっている中国の温 家宝首相、インドのナレンドラ・モディ首相もサミット・スキップ組でした。

マップを見る

右はマーチの路線図。左はマーチのフォーメーションです。先頭を切るのは、気候変動の影響を真っ先にまた最大規模で被り、運動の先頭を担っている人たち。先住民やハリケーンの被害者たちです。次は大学生やハイスクールの生徒たちなど、気候変動の影響を次世代に背負わされるグループと労働組合やその家族、シニアのグループなど。3番目は、再生可能エネルギーなど解決策や対応策を推進する環境団体、4番目は企業の責任や環境正義を追究する人たち5番目は気候変動を否定する人たちに対抗する科学者や宗教団体、最後はLGBTQはじめ社会の変革を求めるグループやコミュニティ団体、という構成です。

マーチは予定通り午前11時30分にスタートしましたが、最後のグループが最終地点に到着したのは、午後5時30分。出発までに長い待ち時間になったようです。お疲れさま!

マーチ出発前のセレモニー。

9月19日、デモクラシー・ナウ!にゲスト出演した、カナダの「先住民タールサンド・キャンペーン」の共同代表で、「もう、だまっていない」(Idle No More)キャンペーンのメンバー、クレイトン・トーマス=ミューラーは、次のように語りました。「先住民は、気候変動の影響に人一倍強くさらされています。森の恵み、海の恵みに頼って生きる種族、そして、もちろん、北極圏に住む種族は、地球上の他のどこよりも厳しい状況におかれています。それだけではありません。先住民コミュニティは化石燃料の影響の最前線にいます。カナダでは巨大石油企業(ビッグオイル)がいたるところで操業しています。カナダのタールサンドは物議の的ですし、北西部のクリー族とデネー族のコミュニティではビッグオイルが残したカーボンフットプリントのために大量のがん患者が発生しています。民衆の気候マーチには世界各地から数百におよぶ先住民の代表が参加します」。

世界のイベント

出発点のジャンボスクリーンには、ロンドンとイスタンブールなどで行われたイベントが映し出され、連帯感を盛り上げました。

セキュリティ・マーシャルが登場

なんだ、このやたら張り切っている緑の若者たちは!主催者側が準備した、「セキュリティ・マーシャル」と呼ばれるこのボランティアたちのお役目は、警察と協力して交通整理に当たること。6つに別れたグループをきちんと順々に出発させ、混乱を防ぐこと、だったのだそう。でも、一度、歩道に出てしまうと2度と車道に戻してくれないし、ポリスラインの柵があるのだからもう十分なのにスクラム組んで視界を遮り、邪魔なんだなあ。出発点のコロンバスサークルからセントラルパークの南を歩くルートでは、警察の警備も異様に厳しく、犬の散歩や家族連れでセントラルパークに向かう人たちは道を渡れるのだけれど、路上にとどまることは御法度。警官の目が無意味にきつかった。セキュリティ・マーシャルの人たちは、その後、潘 基文国連事務総長たちがマーチに参加した時にもはせ参じて周囲をガード。がんばりすぎたため、多くのカメラマンがブロックされ、潘 基文さんたちは、せっかく歩くんだからきっと写真を撮られて宣伝したかっただろうにほとんど撮影されずに終わりました。

瞑想パワー

マーチが通過するセントラルパークの南沿いで、空気に異様を感じました。パークの中で通りに向いて座禅を組んでいる人たちが!時がとまったような穏やかな「気」が送られてきました。「民衆の気候マーチ」には、さまざまな宗教団体も参加したのです。

YES WE CAN

悪い!いまさら"YES WE CAN"なんて言われたら、ついつい"NO YOU CAN'T"と口答えしたくなる。でも、カラーコーディネーションといい、ポップな感じといい、ビジュアルなプレゼンはとっても上手。

沈む島

南太平洋の島、キリバス共和国の人たち。左の人がもっている写真では、アバイアン島の住民たちが昔、自分の家が建っていた場所に立っています。"We are South Pacific Islanders. We are sinking."と説明してくれました。

気候変動はNYも直撃

気候変動の被害者は、お膝元のNYにも。2012年のスーパーハリケーン・サンディでは、洪水と大風で多大な被害がでました。ロッカウェイなど、もともと低所得者が多い地域では、いまも復興が滞り、起こり得る次の災害に対する防御策も欠けています。

山を破壊する石炭採掘

アパラチア山脈で盛んな「山頂除去石炭採掘(Mountaintop Removal Mining)」は、地下の鉱脈を露出させるため、山の頂上を強力な爆薬で吹っ飛ばしてしまうという乱暴な採掘法。従来の方法よりも人出がいらず、安上がりということで実施されていますが、汚染した岩や土砂が谷に捨てられるなど、自然破壊に加え健康被害も問題とされています。

第3の極、チベット

世界最大の氷河をもつチベットは、北極・南極に次ぐ第3の極。「何億もの人たちに水をもたらしている氷河が、標高が高い所でどんどん溶けています。私たちチベット人は、中国政府が推進する環境搾取に反対です」とコメントしてくれました。

ブルックリンのラティーノ・パワー

「エル・プエンテ(El Puente)」は、ブルックリンのプエルトリコ系コミュニティの団体。アートや教育を軸に人権や社会正義を推進するるリーダーを育てる活動を行っています。ニューヨーク市と提携して、ハイスクールも創設。ヒップホップのクラスもあるというから、楽しそう。クリエイティブなスキルをいかして、マーチを盛り上げました。

ブロンクスのティーンたち

「ビルドオン(buildOn)」は、ブロンクスのティーンたちのグループ。「ブロンクスには大きなハイウェイが3本も走り、大型トラックの交通も多い。スモッグの問題もあって、ぜんそく患者が大勢いるの。低所得者層の、糖尿病も大きな問題。貧困と環境・健康、みな、つながってるものね」とマーチに参加した理由を話してくれました。

おじちゃまたちも元気

「ボーカルNY(Vocal-NY)」は、刑務所に入ったことのある人たちがメンバー。麻薬戦争や大量投獄に反対し、エイズ撲滅のキャンペーンも行っています。写真の左端で踊っちゃってるレジナルド・ブラウンさんが、こんな話をしてくれました。「僕ら低所得者が住む地域は、気候変動の被害を人一倍強く受けるけど、助けが来るのは最後。ハリケーン・サンディでやられちまっていまだに住む家がない人もいるんだよ。社会的な不正義のおかげでまるっきり整っていないインフラを整備しようと市が動けば、職が生まれる。大量投獄されてる若者が出てきた時、仕事に就ける。すべてがつながっているんだよね」。ちなみにメンバーの何人かがかぶっている緑の帽子は、「ロビンフッド税」運動のシンボル。ウォールストリートで取引されている総額の1パーセントのそのまた半分を課税し、健康や学校教育、病院、エイズの薬代などに充てようとする運動です。

背高のっぽ

Tシャツに書かれた"Kaisokah"というグループ名。トリニダードのことばで、地元が生んだ音楽「スカ」と「カリプソ」を意味するのだとか。トリニダードはじめジャマイカやハイチなどカリブ海出身のメンバーによるスティルト(足長)ダンスのグループです。「普段は、パーティやアーティスティックなイベントなどで出前パフォーマンスを行っています。マーチに参加することにしたのは、地球を救えというメッセージに賛成だから。いま、行動しなければ、僕らの子供たちは生き残れないもの」とリーダー格のジェイソン・エドワーズ君が、語ってくれました。

労組も参加

労組の先頭のバナーには、「健康な地球&良い仕事を」と書かれていました。9月19日に「デモクラシー・ナウ!」にゲスト出演した、NYで最大規模の労組のひとつ1199SEIU(サービス従業員国際組合)の執行副委員長エステラ・バスケスは、キーストーンXLパイプライン建設などに反対することは職を減らすことになるとして反対が出ていないのか、という質問に対し、次のように応えています。「労働者の権利とは、給与や職場の安全にとどまりません。安全な都市、安全な国も安全な労働環境の一部です。クリーンな環境も労働運動の対象なのです」「私たちの組合のメンバーはスーパーハリケーン・サンディの時、最前線にいました。組合のメンバーは深夜、NY大学の病院などからの避難を支援しました。ロッカウェイやレッドフックに住むメンバーは、停電と洪水にみまわれた公共アパートの住人でもあります。労働者の権利には、職場だけでなく労働者が住む地域社会も含まれます。汚染の無い環境で暮らし、そこで仕事する権利です。労働者の権利を抑圧する人たちと化石燃料を燃やして巨万の富を築いている人たちは、ぴったり重なっています。こういった1%の人たちに対し、私たち99%が立ち上がる必要があるのです」

脱いじゃった

えーっと、あなたは一体、だーれ?突如、現れて、むちむちしたお尻をぴくぴく揺らした末、フライトに遅れまいとあせる搭乗員を思わせるあわただしさで、キャリーバッグを引っ張って、いずこへともなく消えていきました。

リマで逢いましょう

あんまり誰も口にしようとしないけれど、2015年のパリの前に2014年12月には、ペルーのリマでCOP20 が開催されるのです。波乱が予想される2015年に向け、なんらかの前進が得られるのか。最後の分水嶺に期待したいところです。

タイムズスクウェアに鳴り響いたトランペット

マンハッタン一の繁華街タイムズスクウェアに到着

このトランペット、圧巻でした!

ゴールで待っていたもの

え、なんでこの曲?このバンド?

たどり着いたゴールで待っていてくれたものは、きれいな水がたくさん出るタンクと食のグループの炊き出し、記念の缶バッジ、そして賑やかに演奏される、気候変動とまーったく関係なさそうなバンドの演奏でした。

(大竹秀子)

DNJ参照動画(日本語字幕付)

  • ナオミ・クライン:究極の危機「気候変動」を利用して軍国主義が台頭?(2011.03.09)
  • ワシントンで温暖化放置にNo! 市民的不服従と立ち上がる若者たち 前編 (2009.03.02) 
  • ワシントンで温暖化放置にNo! 市民的不服従と立ち上がる若者たち 後編 (2009.03.02)

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  • 民衆の気候運動 先住民系 労働系 宗教系の各団体が歴史的な大行進 (2014.09.19)
  • 「民衆の気候マーチ」からの声:先住民グループが40万人強の歴史的NYデモを先導 (2014.09.22)

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