イスラム主義民兵団が各地で争うリビアの混沌 NATOの軍事介入はなにを招いたか?

2014/8/26(Tue)
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リビアでは2011年にカダフィ政権が倒れて以来、暫定政府はできたものの国家再建は進まず、各地で民兵組織が乱立し再び内乱状態に戻っています。国の西部では首都トリポリの支配をめぐってジンタンやミスラタの民兵組織が闘い、議会を開くこともままなりません。また、ベンガジなど東部の諸都市ではイスラム主義の民兵組織が勢力を伸ばし、米国から帰国したハリーファ・ハフテル将軍の軍と激しく戦っています。

トリニティ・カレッジで国際学を教えるヴィジャイ・プラシャド教授は、現在のリビアの混沌を招いたのは、2011年のNATOによる爆撃だと批判します。「砂漠に浮かぶ島国」にたとえられるリビアでは各都市の自立性が強く、それぞれが都市国家のように独自の民兵組織を持っています。これらを強力に取りまとめてきたカダフィの中央政府が崩壊し、その空白を埋めるものがないままに各都市は独立性を強め、都市民兵が合い争う混乱の時代が始まりました。カダフィの軍隊はすでに弱体化しており、いずれは反体制勢力に倒される運命だったのに、NATOが介入したことによって、カダフィ後の体制を築くプロセスがゆがめられてしまったとプラシャドは言います。

空爆による圧倒的な破壊力で国家機構を一瞬にして壊滅させる米国式の軍事介入は、それに代わる統治機構をつくりあげるいとまを与えず、瓦礫の中に残された人々は政治的な空白の中で立ち上がることができません。この隙間がイスラム主義の軍事組織の急速な台頭を可能にするのだとプラシャドは指摘します。これと同じことがイラクでも起きました。サダム・フセイン大統領とともにイラクの統治機構も徹底的に破壊されてしまい、強力な中央権力の不在の中でISISの急速な台頭が可能になったのだとプラシャドは論じています。

もう一つ興味深いのは、リビアのイスラム主義民兵組織の性格です。ミスラタの民兵組織を率いるサラフディン・バディという将軍は、かつてはジハード戦士として世界各地の戦場で戦ってきた経歴の持ち主です。戦場体験のトラウマによるPTSDがひどく、ギャングまがいの理不尽な行動でトリポリ政府を震え上がらせています。こうした軍人は、いつなんどきアルカーイダを名乗ってもおかしくないし、イスラム国の急速な成長によって感化され、積極的な勢力拡張を目指すようにならないとも限りません。

そんなリビアの危機的な状況に対して、現在の米国はまるで無関心。オバマ政権内で軍事介入を強硬に主張したサマンサ・パワーも、今はすっかり慎重派です。どうやら「人道的な懸念」の高まりは、現地の状況とは関係なく、米国の政治家の都合によって決まるもののようです。(中野真紀子)

このインタビューは、この後も続いていて、パレスチナの政治組織ハマスの軍事行動の是非と非暴力主義の有効性をめぐる議論や、イスラム国についての突っ込んだ話が聞けます。興味のある方は、こちらから→ Libya in Chaos: Vijay Prashad on Rise of Islamist Militias & Bloody Legacy of 2011 U.S. Intervention

☆ このセグメントは、雑誌『世界』11月号に載っています。ぜひお手にとってごらんください。

*ヴィジャイ・プラシャド(Vijay Prashad) トリニティ・カレッジ国際学教授。Arab Spring, Libyan Winter(『アラブの春、リビアの冬』)、『褐色の世界史―第三世界とはなにか』(水声社 2013年)など多数の著書がある。

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字幕翻訳:中野真紀子