世界金融規制の撤廃を企むサービス貿易協定(TISA)の機密草稿をウィキリークスが公開

2014/6/20(Fri)
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新サービス貿易協定(TISA)は、昨年からスイスのジュネーブで協議されているサービス貿易に関する多国間協定です。これまであまり知られていませんでしたが、6月19日にウィキリークスが金融関連部分(金融サービス付帯条項)の秘密の草案を公開したことで関心が集まり、同月28日には日本の外務省も交渉の概要を公開しました。TPPは環太平洋の17カ国ですが、TISAにはEUの28カ国を含め約50カ国が参加し、世界貿易の7割を占める極めて重要な貿易協定です。でも、例によって秘密主義で、参加国の国民は交渉の内容を何も知らされません。TISAの狙いはなんなのでしょうか?

TPPなど一連の自由貿易交渉を鋭く批判してきたパブリック・シチズンのロリ・ウォラックの見方によれば、今回のリークで明らかになった金融サービス条項の狙いは、たんに各国が今後は新たな金融規制を設けることをいっさい禁止するだけではありません。2007年~2008年の国際金融市場の危機を受けて再び強化された金融規制を反故にして、規制撤廃のピークだった1990年代の状態に引き戻して、永遠にその状態で固定することを企んでいるのだそうです。当時のゆるゆる規制が金融市場をギャンブル場に変え、世界中を金融危機と景気後退に陥れたというのに、再びそこに戻そうとするとは、まったく懲りない人たちです。

おまけに彼らは責任を取りません。そんな危険な提案をしておきながら、交渉の中でどの国がなにを提案したのか、それぞれの条文をどのように解釈したのかなど具体的な経緯については、合意が成立して協定が実施されてから5年の間は公開されません。いきなり最終版が提示されるだけで、そこにいたる議論も知らされぬまま、個別の文言の解釈についてのはWTO法廷にゆだねられ、ここで協定違反と判断されれば各国の規制は変更させられます。

このような秘密主義の交渉は、もとをただせばWTOドーハラウンドの頓挫に行き着きます。1999年シアトルのWTO閣僚会議が大規模な市民の抗議を受けて流産してしまい、それ以降の交渉も市民団体の根強い抗議運動でやりにくくなりました。そこで金融サービスの規制緩和を進めるために、一部の国だけが集まって「有志連合」による協定を作ってしまい、あとから他の国々を取り込んでいこうと考えたのが、このサービス貿易協定です。

サービス貿易協定の内容は、もちろん現在交渉中のTPPにもTAFTA(大西洋自由貿易圏構想)にも反映されるでしょう。これらの交渉に今のところ歯止めとなっているのは米国の議会の抵抗です。大統領が要求している貿易促進権限(TPA)またはファストトラックと呼ばれる権限を議会が拒んでいる限り、米国の行政府にはこうした秘密主義の交渉を進める権限がありません。なんとかこのまま阻止して欲しいものです。(中野真紀子)

*ロリ・ウォラック(Lori Wallach): パブリック・シチズンのグローバル・トレード・ウォッチ代表。The Rise and Fall of Fast Track Trade Authority(『ファストトラック貿易促進権限の盛衰』)の著者。

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字幕翻訳:阿野貴史 / 校正:中野真紀子