新たな冷戦のまっただ中 ロシアとウクライナ危機

2014/4/17(Thu)
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ウクライナ危機の打開をめざして4月17日ジュネーブで開かれた4者協議で、ウクライナ、ロシア、EU、米国は緊張緩和に向けた一致点をなんとか見出したようですが、合意の履行をめぐって紛糾が続いています。新たな冷戦の様相を呈してきたウクライナ危機をめぐる対立について、ふたたびコーエン教授の話を聞きます。前回の出演からわずか2カ月のうちに、コーエン教授が危惧したことの多くが現実となりました。わずかな期間に急展開した現在の状況は、キューバ危機以来の危険な状況です。

大きな問題は欧米の報道です。ウクライナ危機をめぐって、欧米や日本の主要メディアはプーチン非難の一辺倒ですが、そこには多くの重要な事実が無視されているとコーエン教授は指摘します。

1)欧米のメディアでは、クリミアへのロシアの介入から危機が始まりますが、コーエンによれば昨年11月にEUが当時のウクライナ大統領ヤヌコビッチに最後通牒をつきつけ、EUかロシアかどちらか一方を選べと迫ったことが危機の始まりです。

2)その後のヤヌコビッチ大統領の解任と暫定政権成立は正当な手続きを欠いており、現在のキエフ政府には正当性の乏しいクーデター政権であることが、欧米の議論から抜け落ちています。

3)欧米はプーチンに自重を求めていますが、その一方でNATOは東欧への軍備増強を堂々と発表しています。いったいどちらが緊張をあおり、軍事化を進めているのか? そもそもが、NATOの旧ソ連加盟国への拡大が今回の危機の背景になっていることを忘れてはいけません。東西冷戦終了後のNATOはなんのために存続してきたのかが問われるべきでしょう。

その他に重要な視点として挙げられるのは、今回の緊張で国内のプーチン人気が高まった結果、ちょうど弾みがついてきたばかりのロシア内部の体制改革派の運動が求心力を失い、ロシア社会の民主化が大きく後退する恐れです。たとえプーチンの下で結束を固め、国を守ることができたとしても、その代償が民主主義の後退では残念なことです。(中野真紀子)

 

*スティーブン・コーエン(Stephen Cohen): ニューヨーク大学とプリンストン大学名誉教授。専門はロシア研究と政治学。近著は Soviet Fates and Lost Alternatives: From Stalinism to the New Cold War(『ソ連の運命と逸した選択肢:スターリニズムから新たな冷戦まで』)。

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字幕翻訳:中野真紀子 / 校正:桜井まり子