メープルの春:ケベックが連帯の赤であふれた大規模学生スト

2012/5/25(Fri)
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14分

アラブの春から1年。公正で平等、真に民主的な社会を求める若者たちの運動は、カナダのケベック州に飛び火しました。きっかけは2012年2月、州政府が発表した7年間で75%の学費値上げ案。これに抗議して学生たちのデモや授業ボイコットが始まったのですが、紛争の火に油を注ぐことになったのは、与党自由党が成立させた非常事態法「特別法第78号」でした。「50人以上の集会やデモは8時間前に警察にルートを届け出なければならず、違反した団体は12万5000カナダドルの罰金を科す」。あからさまに学生や市民の運動つぶしの内容です。これには市民も怒り、スト100日目にあたる5月22日には40万人が州都モントリオール市内で抗議行動を行いました。学生ローンで赤字まみれになった学生たちへの連帯を示して、人々はシンボルの赤いマークを胸に着け、鍋釜をたたいて通りにくりだし政府への不満を街に響き渡らせました。赤い旗が翻る「メープルの春」が始まったのです。運動は緊縮財政と学生ローンに苦しむ世界の若者の共感を呼び、ニューヨークやパリでも連帯のデモが行われました。

ケベック州といえばフランス語圏。カナダの中ではマイノリティの州であり、伝統的に急進的な気風で知られます。教育も他州とは異なる独自な制度を採用し、北米で一番安い学費を維持し、市民が高等教育を受ける機会を大切にしてきました。州民のGDPが全国平均より低い経済的に恵まれない州であるにもかかわらず、大学進学率はカナダ国内で最高レベル。それが州民の誇りでもありました。今回の値上げは、緊縮財政を理由に親の世代が築いた優れた制度を破壊し、公共サービスの民営化をめざす一連の流れの突破口になりかねない、だからこその反対でもあると番組のゲストの1人で、CLASSE(学生労組連帯協会連合)の広報担当、ガブリエル・ナドー=デュボワさんは語ります。

番組が収録されたのは、5月。それから4ヶ月。嬉しい後日談が生まれました。9月はじめに行われた州議会選挙で、ケベック党が自由党を破って第1党に躍進。州首相に就任したマロワ氏が、大学学費値上げ計画の撤回を表明、78号法の廃止も明言したのです。甘やかされた学生たちのわがままと主要メディアがこぞってけなした運動が、完全に勝利!カナダ人のナオミ・クラインは「ラディカルな運動をがこてんぱんにけなされるのはなぜか、これでわかったでしょ。だって(そうでもしなくちゃ)、勝っちゃうんですから」(This is why radical movements are mercilessly mocked. They can win)と、ツィッターで喜びを語りました。(大竹秀子)

*ガブリエル・ナドー=デュボワ(Gabriel Nadeau-Dubois):CLASSE(ケベック学生組合連合)の広報担当

*アンナ・クルジンスキ(Anna Kruzynski):モントリオールのコンコルディア大学助教。「学費値上げに反対する教授団」メンバー。

Credits: 

字幕翻訳:大竹秀子/Web作成:桜井まり子