ギリシャ国民投票を妨害するEUの背後にはデフォルト回避に必死なウォール街が

2011/11/3(Thu)
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2011年11月初旬カンヌで開催されたG20サミットの議題はギリシャ救済とヨーロッパ債務危機への対応でした。この直前にEUの救済措置を受け入れるかどうか国民投票で決めると発表したギリシャのパパンドレウ首相は、集中砲火を浴びました。国民投票で救済提案が否決しされればギリシャはデフォルトに追い込まれ、金融市場は大きなリスクに直面するからです。でも救済案を受け入れれば、ギリシャは今後長期にわたり緊縮財政と不景気が続き、公共財も天然資源も借金のかたにとられてしまいます。国の主権にもかかわるような大問題を国民投票で決めることの、どこが間違っているというのでしょう。国民の頭越しに政府間の話し合いで決めてしまいたいというEUのほうがよっぽど変です。

マイケル・ハドソンによれば、この背景にはまたしても米国の金融業界がいるようです。ギリシャ国債の最大の保証人になっているのは米国の投資信託(MMF)やヘッジファンドなので、ギリシャが返済不能ということになれば彼らが大損してしまいます。そこでG20に先だちガイトナー財務長官をEUに送り込んで、ギリシャ債権に減免措置を認めたりしないように脅したらしいのです。EU諸国はガイトナーに屈し、民主主義を踏みにじって債権回収を優先させることにしました。

結局、国民投票は行われず、パパンドレウは内閣信任決議が可決されたものの、左右両派の合意で大連立政権をめざす形で辞任し、11月11日にルーカス・パパデモス前欧州中央銀行副総裁が首相に就任しました。パパデモスはハーバード大学に学んだゴールドマン・サックス出身者です。欧州中央銀行総裁に就任したマリオ・ドラギ、イタリア首相に就任したマリオ・モンティと並んでゴールドマンが欧州に送り込んだ三羽烏の一羽であり、さっそく大胆な緊縮政策と反労働者政策を推進しています。そもそもギリシャの債務が膨れ上がったのは、ゴールドマン・サックスが粉飾決算を手伝ったせいです。この布陣が、ユーロ防衛をかかげてEU諸国でなにをしていくのか、要注意で見守る必要があります。(中野真紀子)

*マイケル・ハドソン(Michael Hudson) ミズーリ大学カンザスシティ校の経済学教授で、長期経済トレンド研究所の所長。 『超帝国主義国家アメリカの内幕』(Super Imperialism: The Economic Strategy of American Empire)の著者。

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翻訳:小田原琳/全体監修:中野真紀子/サイト作成:丸山紀一朗