恐怖、売ります:米国でイスラム嫌悪を仕掛ける「専門家」とその財源

2011/9/6(Tue)
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9・11後の米国市民のテロへの不安につけこんで、イスラムへの恐怖と嫌悪を売り込むネットワークの仕組みを解明する報告書が出ました。"Fear Inc: The Roots of the Islamophobia Network in America" (恐怖会社:米国のイスラム嫌悪ネットワークのルーツ)」と題された米国進歩センター(Center for American Progress)によるこの報告書は、「安全保障政策センター」などもっともらしい名前をつけた団体の「専門家」5人が主に7つの財団の寄付を受け書籍や報告書、ウェブサイト、ブログ、綿密に練り上げた反イスラム的な話題の発信源となりイスラム嫌悪を撒き散らしている様子を明かにしました。

「帰依しない者の撲滅をめざし、モスクを利用してテロを送り出しているイスラムの脅威」を説く彼らの名前はノルウェー・テロ事件の犯人ブレイビクの「決起文」に何度も登場し、元CIAテロ専門家が、「過激な宗教思想がアルカイダの温床となるように、反イスラム扇動家の文章がブレイビクを育んだ」と断言するほどです。
こうした専門家の中でも報告書が特に注目しているのは、「ジハード・ウオッチ」というブログの執筆者ロバート・スペンサーで、この人は、ニューヨーク市に宗教の違いを超えた人々の協調と世界の平和を願いそれに寄与する穏健なイスラム教センターを作ろうとする地元の取り組みを、「グラウンド・ゼロ」のまっただ中にモスクを建設しテロの「勝利」を誇示し世界を挑発しようとするムスレムの野蛮な行為という物語にねじまげて世界的な関心事に仕立てた団体「アメリカのイスラム化を阻止せよ」(Stop Islamization of America)の代表です。

このようなプロパガンダにいともたやすく乗るマスコミも少なくはなく、ニューヨーク市警のムスリム・コミュニティへの監視が時に批判を浴びながらも、このような理不尽な言説や取締が市民の間でどこか黙認されてしまってきたのが現状です。そんな中でニューヨーク市警察がイスラム教徒市民の生活を極秘に監視していたことを暴いたAP通信の記事が2012年度のピュリツァー賞を受賞したのは朗報でした。たたき売りされ、垂れ流される恐怖に対抗する調査や報道の取り組みはまだまだ重要です。(大竹秀子)

参考資料:
"Fear, Inc.: The Roots of the Islamophobia Network in America"(英文のみ)

*ファイズ・シャキール(Faiz Shakir)米国進歩センター(Center for American Progress)の役員で、同センターの報告書 "Fear, Inc.: The Roots of the Islamophobia Network in America"(恐怖会社:米国のイスラム嫌悪ネットワークのルーツ)の共著者。 。

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字幕翻訳:斎藤千紘/全体監修:中野真紀子/サイト作成:丸山紀一朗