イランの核兵器開発疑惑は米国の諜報機関によって否定されている セイモア・ハーシュ
IAEA(国際原子力機関)は11月8日、テヘランに核兵器の起爆装置を開発する施設が建設された有力な証拠があるとするイラン核問題報告書を発表しました。米国のマスコミは発表前からすでにリーク情報を流しており、イスラエルが単独でイランを攻撃することへの懸念を指摘しました。これを受けて米国、英国、カナダは共同でイランに対する制裁措置を決めました。いっぽうイラン側は、天野之弥IAEA事務局長を「米国の手先」と呼び強く反発しています。長年イランの核兵器開発疑惑を取材してきたセイモア・ハーシュ記者は、IAEAの主張は何の証拠もない妄想であり、イラク戦争を始めたときと同じ危険なものだと言います。
イランの核兵器開発疑惑は近年、決定的証拠もないのに、なんども、なんども、なんども、浮上してきました。ハーシュ記者は6月のインタビューで、国家情報評価(National Intelligence Estimates)という米国の諜報部門の中ではもっとも権威のある内部調査が行われた結果、16の情報機関すべてが一致した最終結論は「イランが2003年以降に核兵器開発を行った証拠は皆無である」というものだったと述べています。これまでIAEAの核査察団はイランが濃縮ウランを軍事に転用している証拠はないと繰り返し表明してきましたが、それを肯定する内容を米国の情報機関自身が認めているのです。
2003年は米国がイラク攻撃を始めた年です。それ以前には確かにイラクは核武装の可能性を探っていたようですが、それはイスラエルや米国を標的とするものではなく、1980年代におびただしい犠牲を出したイラク・イラン戦争の後を受けて、サダム・フセイン政権のイラクに対する核抑止力を持とうとしたのだと、NIE調査報告を読んだハーシュ記者は言います。フセイン政権が倒れた後は、イランが核兵器を開発する動機がありません。
こうした厳然たる情報査定がありながら、それでもイランへの疑惑が繰り返し浮上するのは完全に政治的な意図にもとづく空騒ぎです。ただここへきて、IAEAの新事務局長になった天野氏が、エルバラダイ前事務局長とは打って変わって、米政府の意向を無批判に反映するだけの追従者になっているらしい事が懸念されます。(中野真紀子)
*セイモア(シーモア)・ハーシュ(Seymour Hersh)ピュリッツアー賞を受賞した調査報道記者ニューヨーカー誌の最新記事は Iran and the Bomb: How Real is the Nuclear Threat? (イランと爆弾 核の脅威に、どれほど現実味があるのか?)
字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子/サイト作成:丸山紀一朗