フアン・コール エジプトの指導者は軍が決める

2011/1/28(Fri)
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ホスニ・ムバラク大統領が去った後、エジプトの実権を握ったのは軍でした。軍政の強固な支配をつきくずすことができるかどうか、エジプトの民衆革命は正念場を迎えています。ムバラク退陣を求める大規模な抗議運動が全土に広がりつつあった頃、ミシガン大学の歴史学教授フアン・コール氏にエジプト情勢の背景について聞きました。

アラブ世界では民族主義の政権が長期にわたって続き、硬直化が目立っています。植民地時代から続く欧米諸国の影響に苦しみ、1950年代に民族主義運動が起こり、チュニジアのブルギーバやエジプトのナセルのような指導者が欧米勢力を追い出して人気を博しました。しかしこれらの政権も時代が下るにつれ特権集団化し、一握りの人々が国家権力を使って私腹を肥やすようになりました。公共部門の受注を特定の民間業者に流しているのです。

エジプトでは、1952年の革命以来、歴代大統領は全て軍人出身で、エジプト軍を後ろ盾にしています。ムバラク大統領も空軍出身で、旧ソ連で訓練されました。でも現在のエジプト軍に多額の援助を与えているのは米国です。1978年ジミー・カーター大統領の仲介でエジプト=イスラエルの単独講和が成立して以来、エジプトは米国から毎年20億ドル以上の援助を受け取っています。米国の対外援助額としてはイスラエルに次ぎ第二位で、「イスラエルとの友好関係を米国の金で買った」のだとコール教授は言います。

でも米国の援助は、エジプトにとって不可欠なものではなく、むしろ資材の米国内調達を義務づけているので実際には米企業向けの援助です。エジプトの中でも、恩恵を受けるのは特権階級だけです。1960年代の民族主義時代にはナセル大統領の下でアラブの盟主として大活躍しアフリカも巻き込んでいたのに、今では米国から賄賂をもらって内向きになり観光産業の育成に専念しているのです。(中野真紀子)

*フアン・コール(Juan Cole) ミシガン大学の歴史学教授。中東に関するブログ"Informed Comment" Engaging the Muslim World(『ムスリム世界とかかわる』)などの著書がある。

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字幕翻訳:田中泉/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子/ウェブ作成 中森圭二郎