「魔人はランプから解き放たれた」アルジャジーラが率いるアラブ民衆革命

2011/2/17(Thu)
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18分
バーレーン、リビア、イエメン、イランなど、中東から北アフリカにかけて大規模な民衆デモの波が広がっています。「アラブの春」とも呼ばれる現在の状況について、アルジャジーラ英語放送のマルワン・ビシャーラ氏とノーム・チョムスキー氏に聞きます。

劇的な展開のように見えますが、この動きは昨日今日にはじまったものではありません。アラブ世界では独裁体制に対する不満が長年鬱積しており、これまでは弾圧によって抗議運動を押さえつけてきました。それが押さえつけても止まらない勢いになったのは、2010年11月の西サハラの独立運動ですリンク。モロッコの占領支配に反対する抗議キャンプをモロッコ軍が武力鎮圧し、多くの死傷者が出ましたが抗議の動きは広まりました。

でも米国のメディアには、まるでアラブの民衆が忽然と姿を現したように映るのです。こと中東に関しては、何ごともイスラエルの色つきめがねを通してしか見ることのできない米国の政府やメディアには、石油や独裁者やテロリストしか見えなくなっているからです。怒涛のようなアラブの民主化のうねりを、「魔人はランプから放たれた、もう元には戻らない」とビシャーラは評します。

本当は、米国政府が今回の民衆運動の高まりを知らなかったはずはないとチョムスキーはいいます。米政府は本音では「民主化」を恐れています。ブルッキングス研究所が2010年に発表したアラブ世界の世論調査では、イランが脅威だと思う人は全体の1割しかいませんが、米国とイスラエルが脅威だとする人はそれぞれ8割と9割に上ります。半分近くの回答者はイランの核武装さえ、米国とイスラエルをけん制するためには肯定できるとしています。中東が民主化されれば、第二の中南米になるのは必至です。

それでもこれまでは民衆の意見など無視されてきました。声を上げないうちは、彼らの意見など無視してもよいという態度なのです。民衆の抵抗が目に見える形で断固として示されれば、事態は決して変わりません。これはアラブだけではなく、米国や日本でも言えることです。こうした中で注目されるのが、オピニオンリーダーとしてのアルジャジーラの役割です。元クリントン大統領補佐官のロバート・マーレイが「今やアルジャジーラこそがアラブの指導者だ」という文をワシントンポスト紙に発表したそうですが、アルジャジーラはアラブ人が自由に発言できる開かれた議論の場を提供しました。商業メディアでは隠蔽される民衆の声をアラブ世界のすみずみから拾って報道するアルジャジーラが、国境を越えた民主化運動の広がりに大きく貢献したと考える人は多いようです。アラブ世界に福音をもたらした放送局の誕生は、奇しくもデモクラシー・ナウ!と同じ15年前です。日本の「民衆」が姿を現すためにも、日本のアルジャジーラや日本のデモクラシー・ナウ!の出現が待たれます。(中野)

★ ニュースレター第40号

(2011.5.21)

マルワン・ビシャーラ(Marwan Bishara)アルジャジーラ英語放送の上級政治アナリストでテレビ番組「エンパイア」の司会・編集者
ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky) マサチューセッツ工科大学教授 言語学者、新著はイラン・パペとの共著『ガザの危機』や『希望と展望』など著書多数

Credits: 

字幕翻訳:桜井まり子/全体監修:中野真紀子