「白い肌のテロリスト」 反アパ ルトヘイトの詩人ブレイテンバッハ 前編
ブレイテン・ブレイテンバッハ(ブレイテンバック)は反アパルトヘイト運動で有名な南アフリカの亡命詩人です。作家、画家としても評価は高く、今も世界中で社会正義の実現を訴え続けています。1939年、アフリカーナとよばれる南ア白人の有力な家庭に生まれましたが、60年代の初めにパリに移り住み、そこで反アパルトヘイト運動に深くコミットするようになりました。ベトナム系フランス人の女性と結婚したため、帰国すれば異人種間の結婚を禁じた当時の人種差別法で罪に問われる状況に陥ったためです。1975年、偽造パスポートで南アに戻ったところを逮捕され、テロリストとして7年間投獄されました。この獄中体験を綴ったのが、代表作のThe True Confessions of an Albino Terrorist(『白い肌のテロリストの真実の告白』)です。現在は、ニューヨーク大学で文芸創作の授業を持つ一方、西アフリカのセネガルにあるゴレ研究所にも籍を置いています。
11月26日に放送された第一回は、反アパルトヘイト闘争と解放後の南アフリカの失敗について詳しく聞きました。続編にあたる今回は、アフリカ大陸全体に視野を広げます。ジンバブエの政権を握り続けるムガベ政権、アフリカで展開する米軍を管轄するアフリコム(米アフリカ軍司令部)の役割、ソマリアの海賊問題、中国のアフリカ進出、ダルフール紛争、イスラエル=パレスチナの「アパルトヘイト」、オバマ政権に望むことなど、今日のアフリカが直面するさまざまな危機について語ります。
南アフリカではアパルトヘイト時代より経済格差が広がり、公衆衛生や公教育は崩壊し、凶悪犯罪が横行するなど基本的国家機能が停止している状態です。最近、実質的な一党支配を続けてきたアフリカ民族会議(ANC)が分裂しました。反アパルトヘイト闘争の勝利が、どのようにしてその後の「失敗」を許してしまったのか?
解放後の課題は、人種間の和解に基づく新たな国民国家の形成という第一段階を経て、政治権力と経済体制の抜本的な変革(社会主義革命)という第二段階に移るはずでした。でも、現実には解放運動の中核を担った少数の人々が権力を握り、南アフリカに引き続き有利な投資を続けたい多国籍企業や欧米政府とのあいだに「取締役会」になぞらえられる親密な関係を築いて、彼らの利益におもねる政策を進めるようになっています。過酷な解放運動の中で政治的な姿勢を鍛え上げてきたはずの彼らが、なぜこのようなわなにはまってしまうのか、ブレイテンバッハは問い続けています。
似たようなパターンは、ジンバブエ、ギニアビサウ、モザンビーク、アンゴラ、アルジェリアなどでもみられると彼は言います。アルジェリアが典型例ですが、解放運動から出発したアフリカの諸政権が、社会の近代化や格差の是正などの理想の達成にことごとく失敗し、欧米資本の利害を守る独裁者に変質してしまったのです。このような近代化を掲げた運動への幻滅が、伝統回帰やイスラム主義の台頭を招いているようです。
もちろん、その背景にはグローバリゼーションがあります。最近めざましい進出を遂げた中国は、マオ時代とは打って変わり実利のみに突き動かされる典型的な国際資本主義のスタイルをとっています。民族主義者の政権が腐敗堕落し、自国民を収奪する少数特権階層を形成している現在、アフリカ大陸は「国民国家」の概念を再考すべき時期に達している、とブレイテンバッハは言います。
また、後半のソマリアの海賊問題についても興味深い指摘があります。ブレイテンバッハは現在の無政府状態をもたらした過去10年ほどの経緯にふれ、この無政府状態につけこんだソマリアの経済水域の国際的な収奪を指摘し、「海賊」と言われる行為は生活圏を破壊された沿岸地域の漁民たちが自衛に立ち上がったものであるとの見方を示しています。
☆最後の部分には、昨年心臓発作で亡くなった南アフリカの代表的歌手で「ママ・アフリカ」と呼ばれるミリアム・マケバが、国連で行なった反アパルトヘイト演説が収録されています。ブレイクに入っている「パタパタ」や「カウレーザ」などの名曲もお楽しみください。(中野)
★ ニュースレター第21号(2009.11.10)
★ DVD 2009年度 第2巻 「アフリカ」に収録
*ブレイテン・ブイレイテンバッハ(Breyten Breytenbach)有名な南アフリカ出身の詩人、画家、反アパルトヘイト運動家。1939年、南アの白人(アフリカーナ)家庭に生まれ、60年代初めパリに移り、反アパルトヘイト運動に身を投じるようになった。1975年、偽造パスポートで南アに潜入して逮捕され、テロリズムの罪で7年間投獄された。現在、ニューヨーク大学で文芸創作の授業を持つ一方、西アフリカのセネガルにあるゴレ研究所にも籍を置いている。
字幕翻訳:桜井まり子/校正;大竹秀子
全体監修:中野真紀子