「貧困のアメリカ史」スティーブン・ピムペア

2008/11/25(Tue)
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10分
バラク・オバマは選挙中から米国の中産階級の復権についてしきりに力説してきましたが、下層や貧困の問題については語っていません。しかし金融危機の影響をもろに受けるのは、日々の生活を直撃される貧困層です。貧困問題を中心に財政政策を分析、提言する非営利シンクタンクCenter on Budget and Policy Prioritiesは、2008年11月 24日に発表した報告書で、失業率の上昇で700万~1000万の米国人が貧困に追い込まれる可能性があると述べています。国勢調査局の統計では2007 年に米国民の12.5%にあたる3700 万人以上が貧困ライン以下で暮らしていましたが、この数が4700万人まで増加する恐れがあることになります。米国の貧困の歴史を研究してきたスティーブン・ピムベアの話を聞きましょう。

ピムペアは前著『新たなビクトリア朝時代人』で、米国における生活保護反対運動の歴史をさぐり、1980年代以降の保守派による福祉政策への攻撃キャンペーンは、「政府の保護は勤労意欲を損ねるので、貧困層や労働者の精神にとって有害だ」という19世紀末の主張と同じお為ごかしであり、「生活保護に頼る人々は遊んで暮らしている生来の怠け者であり、犯罪予備軍であるから甘やかしてはいけない」という昔ながらのプロパガンダだと言います。

そうしたモラルの荒廃が懸念されるのは、もちろん下々の者だけです。「大きすぎてつぶせない」金融機関が税金によって救済されても、彼らのモラルハザードを心配する声は上がりません。特権を持つ人たちは、国による保護を受けるのは、その「資格」がある者だけだと言います。

第二次大戦を契機に大きく膨らんだ「福祉国家」の理想でも、恩恵に与ったのは主に中産階級でした。1980年代からの保守派の巻き返しによって、どんどんセーフティネットが失われていった、という主張も、ピムペアに言わせれば中産階級の視点からみたときの歴史であり、貧困層の体験は19世紀の貧救院の時代から何も変わっていません。(中野)

☆ ここで語られているピムペアの新著A People’s History of Poverty in Americaは、『民衆が語る貧困大国アメリカ』という邦題で明石書店から出版されました。訳者はデモクラシー・ナウ!の仲間の桜井まり子さんと甘糟智子さんです。米国の社会福祉制度の歴史を貧者の体験を通して読み直すという画期的な試みで、南部の奴隷制度と社会福祉制度関係についての非常に興味深い考察があります。紹介文を書きました。ぜひ、お手にとってお読みください。

手もとに1冊だけ余分があります。抽選でプレゼントいたします。ご希望の方は「民衆が語る貧困大国アメリカ 希望」と書いて、office2☆democracynow.jp(☆を@に変えてください)までメールでお申し込みください。締切りは2月20日です。
スティーブン・ピムペア(Stephen Pimpare) ニューヨークのイェシーバ大学の米国政治学と社会福祉政策の教授。前著The New Victorians: Poverty, Politics, and Propaganda in Two Gilded Ages(『新たなビクトリア朝時代人 二つの金メッキ時代における貧困、政治、プロパガンダ』)につづき、A People’s History of Poverty in America(『貧困のアメリカ史』『民衆が語る貧困大国アメリカ』)がハワード・ジン(『民衆のアメリカ史』)監修の『民衆の歴史』シリーズの一巻として出版された。
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字幕翻訳:川上奈緒子/校正・監修:中野真紀子