「警察は合法的な集会を監視してはならない」ハイテクを駆使して市民集会を監視するNY市警
9・11以降、アメリカではテロ対策の名のもとに政府が市民の情報を収集し、行動を監視するシステムが張り巡らされています。ニューヨークではCIA出身のデイヴィッド・コーエンDavid Cohenが警察の情報担当副本部長に就任して以来、一般市民のさまざまな集会をハイテク機器を駆使して監視しています。政治や宗教の集会は憲法が保障する権利であるにもかかわらず、「テロ対策」では一般市民の合法的活動にも犯罪捜査の手法が向けられます。
このような警察による人権侵害をめぐって、2007年2月15日にニューヨークの連邦地裁が画期的な判断を下しました。9・11の後、ニューヨーク市警の要請に応じて一時は強引な捜査を容認したチャールズ・へイト Charles Haight判事が、警察は犯罪性のない市民の集会を監視してはならず、あえて監視する場合には犯罪性の兆候を指摘して令状をとることが必要、とする判断を下しました。1980年代に成立した「ハンチュー合意」のガイドラインが、改めて確認されたのです。
ハンチュー合意は、警察による市民の政治活動の監視がどこまで許されるかについて、明快なガイドラインを示したものです。番組では、これができあがった経緯がさらりと紹介されていますが、1920年代の第一次レッドスケア(共産主義への過剰な防衛反応)の時代からずっと、市民の合法的な政治活動を取り締まろうとする警察の情報収集活動が拡大してきたことと、それに反発する弁護士や市民運動家の攻防の歴史が背景になっているようです。弁護士たちが中心になって70年代はじめに起こしたハンチュー訴訟も、ウォーターゲート事件を経て、警察が政治集会など市民の合法的活動を捜査する際に従うべき「ガイドライン」を設けるという形で80年代に決着しました。
9・11事件で、このガイドラインが棚上げにされていたのですが、今回のへイト判事の判断は、ニューヨーク市警に対し、ふたたびハンチュー合意のガイドラインの遵守を(緩和したかたちではありますが)認めるようにというものでした。
非常事態、有事などという名称で、市民の合法的な活動が取り締まられるようになる可能性はもちろんどの国にも存在します。この国でも今後、起こりうる事態に対して、どのように対抗していくか。とても参考になる事例だと思います。(中野)
★ DVD 2007年度 第1巻 「2007年4-5月」に収録
マーティン・ストーラーMartin Stolar は長年ハンチュー訴訟にかかわってきた弁護士です。今回の判決の意義と、その背景について、たいへんに分かりやすく説明してくれます。
アイリーン・クランシーEileen Clancyは、警察による市民のビデオ撮影、監視活動を告発する市民団体I-Witness Video(アイ・ウィットネス・ヴィデオ)のメンバーです。2004年の共和党全国大会では、期間中に現政権の政策に抗議する人々がさまざまな集会を開きました。抗議する人々を警察がいかに高度な技術を駆使してビデオに納めていたかが、I-Witness Video の収集した映像記録によって具体的に明らかにされます。
字幕・翻訳:西亮太 全体監修:中野真紀子