ハイチの食糧暴動をもたらした米国の政策
1980年代から90年代にかけてカリブ海、中南米、アフリカ、アジアの貧困国はある条件と引き換えにIMFや世界銀行から借金をしました。その条件とはIMFや世銀が青写真を作った構造調整プログラムと呼ばれる政策を実行するというもので、租借国は医療や教育などの公共サービスの民営化、貿易や為替への介入の縮小による自由市場経済の推進など、機能を縮小した所謂「小さな政府」を目指すことを約束させられたのです。今年4月にハイチをはじめとして世界各地で暴動を引き起こした食糧価格の高騰による飢饉の原因はこの数十年前に行われた開発政策の弊害が現実化したものだという指摘がされています。
構造調整プログラムは貧困国の市場を自由化、活性化し、生産物の国際競争力を上げるというキャッチフレーズとは裏腹に、実際にはそれまで関税、政府援助や規制で守られてきた貧困国の小農家を国際競争に直接晒すことになりました。同時にこの構造調整プログラムを推し進めた国際機関にもっとも大きな影響力を持つ米国や西欧諸国は、膨大な額の政府援助によって自国の農産物の国際競争力を保つことに専心してきたのです。結果は、構造調整プログラムを受け入れたほとんどすべての貧困国で、農業が崩壊、食糧のほとんどを富裕国からの輸入に頼るという構造が出来上がりました。そこへ来て昨年暮れからの原油価格の高騰による貿易コストの上昇や、世界中でおきている穀物からバイオ燃料作物への切り替えによって、米や小麦の国際価格が急速に上昇すると、食糧を輸入に頼る貧困国の食卓から食糧が消えることになったのです。
このセグメントで取り上げられているハイチの場合、80年代半ばには国内で消費される米のほとんどが自国産であったのが、現在では「マイアミライス」と呼ばれる米国産の米が国内消費のほとんどを占めています。国民の8割以上が1日1ドル以下で暮らしているハイチの場合、輸入米の値上がりは死活問題を意味します。帰農による自給体制の再開を促そうにも都市に流れてしまった人口を農村に戻し、荒廃した農地を回復し、そこからの収穫を望むにはかなりの時間がかかるのです。
今回の飢饉と暴動に関して、自国の農業が廃れるに任せてきたハイチ政府を責める論調が見られます。そうした論調に対し、人権弁護士のビル・キグリーはこのセグメントの中で、貧困国の離農を直接・間接に後押しし、知らずにはといえそこから利益を得てきた富裕国の人々が自分たちの責任に気づくことが、緊急食糧援助体制の整備と同じぐらい重要であると指摘しています。(石川麻矢子)
ビル・キグリー(Bill Quigley) ニューオリンズ州ロヨラ大学の法学教授。同大学のロー・クリニック所長
字幕翻訳;石川麻矢子/全体監修:中野真紀子