ローレンス・レッシグ ネットの中立性を守れ

2008/4/17(Thu)
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18分

スタンフォード大学の法学教授ローレンス・レッシグは、世界の有数のサイバー法の専門家として有名です。ネットの中立性に関する問題をめぐって、2008年4月17日にスタンフォード大学で行われた米連邦通信委員会の公聴会を機に、インタビューを行いました。

まず「ネット中立性」とはどんな概念か、レッシグ教授は次のように説明します。

「たとえば電気回線を考えてください。電源にプラグを差し込むだけでテレビが映りますよね。そのとき、受信機がソニーかパナソニックかなんてことは問題になりません。どこの製品でも、プラグを突っ込めば映ります。それは、電気回線が中立的なシステムだからです。プラグの形や電圧など一定のプロトコル(編注:ネットワーク上の手順や規則)さえ守れば機能します。でも現在インターネットで起きている動きは、たとえて言うなら、電力会社が自社の回線にどの電気製品がつなげるかを決めるようなものです。そして、つなげる権利をメーカーに売るのです」

ネットワーク所有者がコンテンツの流れを管理支配することが可能になり、ネットの中立性が失われることが懸念されているのです。ケーブル大手のコムキャストは、自社サービスと競合するP2PのアプリケーションBitTorrentを使った動画のダウンロードを、意図的に妨害したことを認めて話題になりました。小さなメッセージを挟みこんでトラフィックを混乱させたらしいのですが、同社は動かぬ証拠を突きつけられるまで、それを認めようとしませんでした。問題は、こうした技術がネットワークの効率を高めるためのものではなく、支配するためのものだということです。

「インターネットができたときには、ネットワーク所有者にそんな力はなかった。末端のユーザーたちが、すべての権限を持っていたのです。ところが所有者たちは、ネットワークの中枢に、通過できるパケットやメッセージの種類、機能するアプリケーションの種類を選択できる技術を構築してしまった。ネットの中立性の議論とは、そのような技術を行使して所有者がネットワークの性格を管理することを、政府が許可するかどうかの問題なのです」
 
フリープレスのジョッシュ・シルバーによれば、米国ではケーブル事業者と電話事業者が高速インターネット接続の98%を支配しています。彼らは新規参入を阻止する法律を作ることで、個別ウェブサイトへのアクセス速度を自分たちが決められるようにしたい。そうなれば、インターネットはケーブルテレビのようになってしまい、コンテンツや料金、アクセス速度を、電話やケーブルの会社が決めることになります。

 この危機を未然に防いで、現在の皆に開かれた民主的な環境をどうしたら守れるのでしょうか? 必要なのは、法律が決められるときに、企業の思いのままにさせないこと。策定プロセスに市民の意見を反映させることでしょう。

☆ コムキャストが行ったユーザーのアクセス妨害については、FCCが2008年8月1日、コムキャストは連邦通信政策に違反しているとして、同社のネットワーク管理方法の変更を命じました。FCCがネットの中立性を守る立場を明確に示した、画期的な決定とみられています。 (中野)

★ ニュースレター第11号(2009.3.10)
★ DVD 2008年度 第3巻 「メディアの現在」に収録

ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig) スタンフォード大学法学部教授。サイバー法の分野における世界的な権威。スタンフォード大学法学部のCenter for Internet and Society を創設し、現在は共同所長。クリエイティブ・コモンズ・プロジェクトの会長。最近、Change Congressというプロジェクトをはじめた。

Credits: 

字幕翻訳:駒宮俊友 /校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子