マイケル・ポーラン アメリカ人の危険な食生活

2008/2/13(Wed)
Video No.: 
2
36分

「今日たいていのアメリカ人が口にしているものは食物ではなく、食物に似た工業製品だ」──マイケル・ポーラン教授によれば、米国の食生活を危機に陥れている元凶は2つです。第一に、自然の食品に付加価値をつけるため、高度な加工処理を行い、食物を工業製品化する食品産業です。思いのままに栄養素を強化し、いつまでも腐らない工業食品がスーパーの棚にあふれ、自然食品は手に入りにくい、ぜいたく品となります。

第二に、食品そのものよりも、そこに含まれる栄養素が大事だと唱える「栄養学主義」です。これはイデオロギーであって科学ではないとポーランは批判します。科学的根拠の乏しい「善玉」「悪玉」のきめつけや、「栄養素」万能の食品評価などによって、食生活を歪ませていると。このような怪しげな科学に基づいて私達の食生活が変えられるのは恐ろしいことです。どうしてこんなことになってしまったのでしょう?ポーラン教授は、具体的な事例によってわかり易く説明してくれます。

食品企業と栄養学主義は、持ちつ持たれつの関係です。米国の主な栄養学団体には食品企業が多額の支援を行なっているそうです。お抱え栄養学者は、企業の望みどおり製品の効能を見つけてくれます。

栄養学主義が台頭するきっかけとなったのは、1977年のマクガバン上院議員による「米国の食文化」についての報告だとポーランは言います。戦後の心臓病の急増は赤身肉の食べ過ぎが原因だと考えたマクガバン議員は、赤身肉をあまり食べないようにとの勧告を出し、食品業界から猛反発をうけました。

マクガバンは1980年の選挙で牛肉業界の反対運動に遭い、落選しました。それ以来、米国の食文化を批判するときには、意味不明の栄養学用語を使うという不文律ができたとポーランは言います。飽和脂肪の話はよいが、食品そのものの評定はいけないのです。

「消費者を混乱させ、栄養素の話もできるので、食品業界は大歓迎です。加工食品は栄養素を設計できます。飽和脂肪の値を下げたり、抗酸化物質を増やしたり。自然食材は変えられませんが、加工食品なら善玉を増やし、悪玉を減らすのも思いのままです。だから業界は栄養学が大好きだ」。(中野)

★ ニュースレター第7号(2009.1.10)
★ DVD 2008年度 第4巻 「食の危機」に収録

マイケル・ポーラン(Michael Pollan), カリフォルニア大学バークレー校の科学環境ジャーナリズム教授。 最新書はIn Defense of Food: An Eater's Manifesto(『食を守れ 食べる人宣言』)。前著The Omnivore's Dilemma: A Natural History of Four Meals(『雑食動物のジレンマ 4つの食事の成分を追う』)は、ニューヨークタイムズ紙ならびにワシントンポスト紙の2006年ベスト10冊に選ばれた。

Credits: 

字幕翻訳:斉木裕明/校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子・高田絵里