「命名のポリティクス」 マフムード・マムダニが語るダルフール

2007/6/4(Mon)
Video No.: 
2
24分

2007年5月末ブッシュ大統領はスーダン政府に対する新たな経済制裁措置を発表し、スーダン政府系企業31社を米金融機関から締め出しました。これは米国の団体「ダルフールを救え」同盟の広報活動の成果とされています。しかし、スーダン国内で活動中の援助団体からは反発を買っています。「ダルフールを救え」は現地の救援活動を危険にさらすような提案をする一方、集めた数百万ドルの寄付はダルフール難民のためには使われていないというのです。世界有数のアフリカ研究者、コロンビア大学のマフムード・マムダニ教授が、米国内のダルフール支援キャンペーンの問題点について語ります。

マムダニ教授によれば、ジェノサイドという呼び方は、ホロコーストに代表される20世紀特有の集団虐殺を背景に使われだしました。この言葉をつくった法律家レムキンは、ジェノサイドが発生したときは国際社会が介入する義務があるという国連決議を採択させました。でも数ある民間人の大量殺戮のうち、どれがジェノサイドとされるかは自明ではありません。ここから「ジェノサイド」の命名が政治的な道具に使われるようになりました。最強の大国アメリカが敵方の大量殺人のみをジェノサイドと呼び、味方の大量殺人にはけっしてその呼称を使わないのです。

ダルフールにもこれが適用され、固有の歴史や政治の背景が剥ぎ取られて、加害者(アラブ)と被害者(アフリカン)がいるだけの抽象的な図式にはめ込まれます。ほんとうは複雑な問題なのに、このような還元によって簡単に「正義」の立場をふりかざすことが可能になる。こうした無邪気な善意は真の解決にはつながりません。莫大な寄付金を集めながら、現地の救援にはまったく使っておらず、すべて広告キャンペーンに使っているとすれば、いったい誰のための運動なのでしょうか?(中野)

★ ニュースレター第13号(2009.4.10)
★ DVD 2009年度 第2巻 「アフリカ」に収録

* マフムード・マムダニ(Mahmood Mamdani)ウガンダ出身のコロンビア大学教授。アフリカ研究では世界的権威の一人。2008年『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』に「命名のポリティクス ジェノサイド 内戦 反乱」という記事を載せ、米国におけるダルフール問題の扱いがいかに間違っているかを指摘した。『良いムスリムと悪いムスリム 米国と冷戦とテロの根源』など、著書多数

Credits: 

字幕翻訳:大竹秀子 / 全体監修:中野真紀子