「情勢が悪化すればするほど、戦争は美味しいビジネスになる」ナオミ・クライン、戦争の民営化について

2007/4/2(Mon)
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 『ブランドなんか、いらない』で一躍有名になって以来、一貫して企業中心のグローバリゼーションに対する鋭い批判を提起してきたナオミ・クラインは、戦後のイラク復興ビジネスについても関心を持ちつづけ、ファルージャ事件直前のイラクを現地取材し、イラクという国家そのものをアメリカ企業に切り売りする占領当局の施策を目の当たりにしました。そうした背景を踏まえて、ジェレミー・スケイヒルの新著『ブラックウォーター 世界最強の傭兵軍の勃興』を題材に、戦争の民営化について語ります。戦争の民営化がもたらした最大の罪は、戦争を儲かるビジネスに変えてしまい、平和の推進から経済的なインセンティブを奪ってしまったことだと、クラインは主張します。

 2003年5月1日アメリカはイラク戦争の終結を宣言し、戦後イラクをゼロから再建するイラク復興のゼロ年が始まりました。連合国暫定当局(CPA)のポール・ブレマー代表が推進したイラクの経済復興政策は、「ソ連崩壊後の旧共産圏で実施されたもの以上に過激なショック療法」だったと経済学者のJ・スティグリッツは言ったそうです。従来のイラクは、サダム・フセインの民族主義経済政策の上に国連の経済制裁が重なり、世界でもっとも閉ざされた市場でした。ここに、「貪欲は善なり」とするウォール街イデオロギーに沿った急激な改革プランが導入されたのです。

 兵士、医師、看護婦、教師など50万の国家公務員が解雇され、外国からの製品輸入には関税やチェックが全廃されました。また、ほぼ全ての生産部門をカバーしていた200社の国営企業について、即時民営化する計画が発表されました。9月には、外資誘致のため法人税を40%から15%に引き下げ、天然資源以外は外資による100%所有を認可し、利益の100%国外持ち出しを可能にする法令が出されました。

 占領政府は国営企業に何一つ援助の手を差し伸べませんでした。国営企業は朽ちるにまかせ、アメリカ企業が安値で買い叩けるようにするためです。失業率67%の状況で、外国から製品や労働者が無制限に流れ込む状況は、イラク国内に大きな不満を引き起こし、反米感情を掻き立てました。イラク各地で反乱や蜂起が広まり、結局、国営企業売却プランの実施は不可能になりました。

 ちょうどこのころ現地を取材していたナオミ・クラインはファルージャの包囲戦のさなかに、バグダッドを離れました。米軍による2度の侵攻で、ファルージャでは2000人ほどのイラク人が殺されました。この「ファルージャの大虐殺」を契機に各地に抵抗運動が広がり、イラク国内で活動していた外国の民間人はいっせいに退去を強いられます。数日後、日本の民間人四人が拉致されました。

 イラクは「現地でビジネスを行うには世界一危険な場所になり、アメリカ企業は相次いでイラクでの事業契約を凍結しました。CPAが解散し、ブレマーがイラクを去るまでには、彼の経済政策のほとんどが放棄されました。その後のイラク情勢の泥沼化は、結果的に傭兵部隊の活躍を招くことになります。ファルージャの事件はそうした意味でも大きな転換を画するものでした。

 2007年3月21日、ニューヨークの倫理文化ソサエティで行われた、エイミー・グッドマン司会によるジェレミー・スケイヒルと対談からの収録です。(中野)

★ DVD 2007年度 第1巻 「2007年4-5月」に収録

参考文献:"Baghdad year zero," Harper's September 2004 http://www.harpers.org/archive/2004/09/0080197

* ナオミ・クライン (Naomi Klein) カナダのジャーナリスト、作家、活動家。2000年に出版した『ブランドなんか、いらない』は、企業中心のグローバリゼーションへの抵抗運動のマニフェストとしてベストセラーになった。その後も、WTOのシアトル総会(1999年)への抗議運動に始まり世界社会フォーラムへと発展した反グローバリゼーション運動の動きを追い続け、『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』を著した。アメリカのイラク侵攻が起こると”戦後の復興”に群がる企業の行動に注目し始め、2004年初めに現地を取材。三番目の著作The Shock Doctrine: The Rise of Disaster Capitalism (『ショック・ドクトリン  戦禍を食い物にする資本主義の台頭』)が近刊予定。 公式ウェブサイト

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字幕・翻訳 :高野清華
全体監修:中野真紀子