本邦初上映!「グラニート 独裁者に爪をかけろ!」 

本邦初上映!「グラニート 独裁者に爪をかけろ!」 

 過去の虐殺をどう立証するのか?


数年前にデモクラシー・ナウ!で紹介した映画『グラニート』が、日本語字幕つきで上映されることになりました。直前ですが、あらためて簡単な紹介です。

中央アメリカの国グアテマラは1950年代前半の民主化が米国の干渉で阻止されて以来、軍の親米派と反米派や左派の対立が続き、1960年に始まった内戦が96年の和平合意まで36年間も続きました。親米軍事政権は反体制派のゲリラ戦に対抗するため、ゲリラや左派が潜入していると見られるマヤ系先住民の村を襲撃して焼き払い、住民を大量虐殺しました。

この内戦で推定20万人が殺害または行方不明になりましたが、その多くは1982年に権力を掌握した元将軍エフライン・リオス・モントの1年半の統治下に集中しています。この時期のすさまじい弾圧と虐殺については内戦終結後も誰も責任を問われることなく、政府は事実を否定しつづけました。虐殺に直接かかわった人々が権力の中枢に居座り、人々は恐怖によって口を閉ざし、司法は無力化されていました。極悪な犯罪を免責してきたことが、麻薬組織が幅を利かせ暴力事件が日常化する現在の状況を招いたとグアテマラ法医人類学基金のフレディ・ベチェリは指摘します。

ところが、そんなグアテマラで、2013年5月に驚くべき事件が起こりました。グアテマラの裁判所がリオス・モント元将軍に対し、ジェノサイドと人道に対する罪で、80年の刑を宣告したのです。中南米はもちろん、世界中を見渡しても元国家元首が自国の司法制度の中でジェノサイドの罪で裁かれるなんて初めてのことですし、しかも有罪判決が出たのです。

死んだかのように思われていたグアテマラの司法が息を吹き返した背景には、重大犯罪に断固として裁きを求める人々の地道な活動と国際ネットワークの働きがありました。この映画に描かれているような、闇に葬られた過去を掘り起こし、記憶の断片を拾い集めて証拠を積み上げる丹念な作業が裁判所を動かしたのです。そうした無数の努力を結晶させたのは、3人の女性の強い信念と桁外れの勇気にもとづく行動でした。



先住民出身の人権活動家で、ノーベル平和賞を受賞したリゴベルタ・メンチュウは、グアテマラの司法で過去の権力者の犯罪を裁くのは無理だとして、1999年にスペインの裁判所にリオス・モント時代の集団虐殺についての訴状を提出しました。この行動が後に、スペインの裁判所が普遍的管轄権を適用してグアテマラの大量虐殺の提訴を受理するという動きにつながります、2006年スペイン最高裁判所は、グアテマラ政府に対しリオス・モントなど7人の元政府高官の引き渡しを要求しました。

しかしリオス・モントは選挙に出馬して国会議員の不逮捕特権を手に入れて抵抗し、結局スペインでの起訴は不発に終わりました。でも、これがグアテマラ国内の司法に刺激を与え、自国の独裁者の罪は自分たちの手で裁くべきだという機運が盛り上がったのです。2010年グアテマラ初の女性検事総長に就任したクラウディア・パス・イ・パスは、軍政時代の虐殺や拷問の責任追及に乗り出しました。露骨な脅迫や妨害にもひるまず彼女は訴追を続行させ、ついに2012年1月、議員の任期が切れたリオス・モントがジェノサイドと人道に対する罪で起訴されました。

この裁判を担当するのも女性判事のヤスミン・バリオスです。彼女は防弾チョッキをつけて法廷に通い、文字通り命がけで有罪判決を読み上げました。この肝のすわり方は尋常ではありません。おびただしい犠牲者を出したグアテマラの恐怖政治の過去に立ち向かうには、こういう気迫が必要なのでしょう。この力が、人権の歴史に大きな一歩を刻む判決をもたらしました。

画期的な判決ではありましたが、10日後には憲法裁判所によって取り消し命令が出て裁判のやり直しを行うこととなり、今のところ被告人の高齢を理由に再審は延期されています。ジェノサイド裁判の続行を困難にした理由の一つは、2011年に大統領に選出された元将軍オットー・ペレス・モリナが、リオス・モント政権の下で虐殺を実行した張本人であることです。この裁判が進めばいずれ我が身にも追及がおよぶ人物が大統領なのです。

しかし、そのペレス・モリナ大統領もつい最近、汚職事件を糾弾する大規模な大衆の抗議運動によって退陣を余儀なくされ、議会により大統領の不逮捕特権を剥奪されて辞職と同時に逮捕されました。これが過去のジェノサイド関与の訴追にまで発展するかどうかは今後を見守らないとわかりませんが、権力で過去を隠蔽する力は少しずつ崩されてきているようです。この国では軍や特権的財閥に立てつく者はたちまち惨殺されてきたことを考えると、このような社会の変化が起きたことはすごいことです。そうした変化をもたらしたものは何かを考えさせるのが、映画「グラニート」です。明日が日本での初上映です。お時間があればぜひお越しください(中野真紀子)。



● 日時 2015年11月11日(水) 17:00-19:00

● 場所:上智大学四ツ谷キャンハス 2号館409教室
     (最寄り駅:JR/地下鉄東京メトロ南北線・丸ノ内線四ツ谷駅)

● 参加費無料・事前登録不要・日本語字幕付

● トーク:デモクラシー・ナウ!ジャパン 中野真紀子

主催:上智大学グローバル・コンサーン研究所
お問い合わせ : i-glocon@sophia.ac.jp / 03-3238-3023 



チラシはここからダウンロード


 **************** 関連のDN動画

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