「ファミリー」米国権力の中枢にひそむキリスト教原理主義

2009/8/12(Wed)
Video No.: 
3
19分

ムスリム撲滅の使命に燃えるエリック・プリンスのような狂信者とは異なり、米国のキリスト教右派の中にはもっと実利的で、力と支配を追求する勢力もいるようです。世間には知られない最強のキリスト教原理主義運動といわれるのが、「ファミリー」と呼ばれる政治秘密結社です。有力メンバーには、米国の連邦議員や財界人、軍幹部、また外国の国家元首などが名を連ね、共和党も、民主党もなく、すべての党派に勢力を分散させ、「聖書資本主義」と呼ばれる徹底した自由競争を追求します。まさに市場の「見えざる手」への信仰なのです。『ファミリー』の著者ジェフ・シャーレットが、この秘密集団について驚くべき発見を語ります。

ファミリーは1930年代に労組つぶしのために発足しました。市場の「見えざる手」を信じる彼らにとって、労働組合は不信心者であり、ニューディール政策は悪魔の陰謀だったのです。冷戦時代になると海外の独裁者に接近し、反共と自由市場推進の戦いに利用しました。

インドネシアで左派の大量虐殺を行ったスハルト大統領はファミリーのお気に入りだったそうで、米国はこの軍事独裁者に多額の支援を続けました。相手かまわずの無節操ぶりは、「イスラム教マルクス主義者」を名乗ったというソマリアの独裁者シアド・バーレにすり寄ったことにも表れています。

「イエスが説く社会保障とは?イエスが説く公共政策とは?答えはいつも"神にゆだねよ"つまり民営化です」とシャーレットは言います。最後は「イエスあるのみ」の状態が実現する「キリスト全体主義」です。

しかし彼らの考えるイエスは愛を説く人ではなく、権力志向むき出しの独裁者です。彼らの解釈では「新約聖書」は権力の書であり、これを体現するのはヒトラー、スターリン、毛沢東なのだとシャーレットは言います。

こんな秘密集団が米国の政治の中枢に根をはっているとしたら、なんと恐ろしい話しでしょう。 (中野)

★ DVD 2010年度 第2巻 「キリスト教右派」に収録

*ジェフ・シャーレット Jeff Sharlet ニューヨーク大学の宗教メディア研究所客員研究員で、ハーパーズ誌やローリング・ストーン誌に寄稿している。The Family: The Secret Fundamentalism at the Heart of American Power(『"ファミリー" 米国の権力の中枢に忍び込むキリスト教原理主義』)の著者。

Credits: 

字幕翻訳:桜井まり子/全体監修:中野真紀子