「ノーモア・デス」国境をわたる難民に、保護を与えるのは重罪か 後編

14分
Real動画の再生にはリアルプレーヤー(無料版)が必要です。こちらからインストールしてください(windows版mac版
放送日: 
2007/4/23(月)

難民救助運動の今と昔
 この2人が所属する救援活動団体「ノーモア・デス」は、長老派教会のジョン・ファイフ牧師が2002年に始めたサマリタン・パトロールを母体としています。ファイフ師は80年代中ごろにも、国境に滞留した大勢の難民たちを保護する「サンクチュアリ(避難所)」運動を始め、全米の教会やシナゴーグにネットワークを広げたため、当局ににらまれて密入国幇助で有罪判決を受けたことがあります。彼の体験談を通じて、国境で繰り広げられる生死をかけた救済活動の今と昔に、はっきりした一筋の糸が通っているのが見えてきます。

 80年代前半、中米のエルサルバドルやグアテマラは、残虐な軍事独裁政権が、「死の部隊」と呼ばれる民兵組織を使って一般市民を暗殺し、文字通り恐怖によって住民 を支配する血なまぐさい独裁体制のピークにありました。サンサルバドル大司教オスカル・ロメロはこれに猛然と反対し、政府の人権侵害を世界に訴え、兵士たちに「人民に向けた銃を捨てよ」と呼びかけました。1980年彼はミサの途中で狙撃され、暗殺されましたが、彼の名は人権を守る戦いの象徴として記憶されています。政府の弾圧と虐殺を逃れた人々が、メキシコ経由で合衆国に向かいアリゾナ国境に集まっていました。彼らは政治的な理由で迫害され、自国に戻れば殺されかねない正真正銘の難民でしたが、米国政府は彼らを難民として受け入れるのを拒絶しました。彼らを弾圧する軍事政権を支援していたので、それを逃れた人々を難民と認定するわけにはいかなかったのです。この人たちの存在はよほど邪魔だったと見え、米政府は入国を阻むだけでなく、国内で彼らを逮捕すれば、彼らが殺されると判っている母国に強制送還しました。ファイフ師らは、このような非人道的な政策に反対して立ち上がりました。 政府の弾圧と虐殺を逃れた人々が、メキシコ経由で合衆国に向かいアリゾナ国境に集まっていました。彼らは政治的な理由で迫害され、自国に戻れば殺されかねない、正真正銘の難民でしたが、米国政府は彼らを難民として受け入れるのを拒絶しました。彼らを弾圧する軍事政権を支援していたので、それを逃れた人々を難民と認定するわけにはいかなかったのです。この人たちの存在はよほど邪魔だったと見え、米政府は彼らの入国を阻むだけでなく、国内で捕縛すれば、殺されると分かっている場所に強制送還しました。ファイフ師らは、このような非人道的な政策に反対して立ち上がりました。

 見落としてならないのは、当時レーガン政権で中米政策の中枢にいた人々が、現在のブッシュ政権の中東政策を担っていることです。例えば安全保障担当副補佐官エリオット・アブラムスは、80年代初期に国務次官として、難民を強制送還し「死の部隊」の手に引き渡す米政府の方針を推進していた人物です。また現イラク大使のジョン・ネグロポンテは、当時はホンジュラス大使として、実際にはニカラグアの反革命勢力コントラを援助するのが役割でした。コントラの特殊部隊に資金と軍事援助を与えるため、米政府がイランに武器を密売したイラン・コントラ事件の渦中にあった人物です。虐殺と弾圧に堂々と加担し、犯罪者の過去を持つ人たちが、いまも米国の外交政策の中枢にいることに、ホンジュラスのみならず全世界が抗議すべきでしょう。

 でも現実には、国家に役立つ犯罪者たちは大手をふるって自由を謳歌しています。この放送のあった4月23日には、トップニュースとしてルイス・ポサダ・カリレスがニューメキシコで釈放されたと伝えられました。1976年キューバ航空機爆破事件の犯人として、キューバから引渡し要求が出ていた人物です。政府の政策に合致しないため存在そのものを「非合法」とされ、人権を剥奪され、犯罪者として扱われる人々がいる一方で、人道に反する罪を犯したことが明らかな人物たちが、市中を闊歩し、政府中枢にも巣食っている。メキシコ国境から、そうした人権の二重構造が見えてきます。(中野)

★ DVD 2007年度 第2巻 「2007年6-7月」に収録

***************************************
関連トピックス 
 
*(英語)2007年6月29日米上院 ホワイトハウス推進の移民法改正案を廃案に
移民の権利問題もまた米国社会フォーラムの中心的テーマでした。アトランタでは多くの移民人権活動家たちが連邦議会で行われた米移民法の大幅改正案の行方を見守っていました。6月28日、上院の移民法案は採決動議がまた否決されて事実上廃案となりました。移民と難民の権利のための全米ネットワーク(National Network for Immigrant and Refugee Rights)理事長のキャサリン・タクタキンさんの感想を聞きました。
 
*(英語)2007年5月18日移民の権利擁護団体は、米移民法を大幅に見直す上院議案を、不平等労働の固定化として非難
米上院の超党派グループが新しい議案を提出しました。5000ドルの罰金を支払ったり生体認証のIDカードを持つなどの多くの条件を満たせば無届けの入国者でも米国内の労働許可を与えるというものです。また外国人労働者の受け入れ体制を作ることやメキシコ国境の警備強化なども唱っています。 
 
*(英語)2007年5月2日移民排斥運動の背後にある勢力を考察
移民排斥運動の背後にある勢力についてネイション誌のジャーナリスト、マックス・ブルーメンソールに聞きます。移民排斥運動の背後にある理念は「無から生まれたものではないし、米国の危機に対して必ずしも理性的な反応ではありません。排斥運動のルーツは、米国を白人社会と捉え、その”白人性“を維持しようとするホワイト・ナショナリズムにあります。」とブルーメンソールは述べています。

*字幕つきトピックス
2006年5月2日 米国の通商政策とNAFTAが移民の大量流入をもたらす
2006年のメーデーに大きな盛り上がりを見せた移民の権利要求運動ですが、150万人もの参加者が要求したのは、1986年の移民法改正時に行ったような「恩赦」による、無届の移民の即時合法化でした。でも議員たちの多くは、二大政党のいずれも「恩赦」には冷淡です。それに代わるものとして超党派で提案されているのがゲストワーカー制度ですが、どうやらこれは「外国人一時労働者」という底辺労働層を固定化するものです。その背後には、NAFTAに代表される米州自由貿易体制による構造的な貧困と移民流出、そのような人の流れに目をつけた大資本による、人の移動そのものの搾取という思惑が働いているようです。(10分)

ゲスト

*ダニエル・ストラウス(Daniel Strauss)とシャンティ・セルズ(Shanti Sellz):アリゾナ=メキシコ国境で生命の危機に瀕した移民に医療援助を与える救援団体「ノー・モア・デス(No More Deaths)」のボランティア。2005年夏、救援活動中に米国境警備隊に捕らえられ、密入国幇助の罪で起訴された。訴えは後に取り下げられ、2007年 4月ロスコ教会のオスカル・ロメロ人権賞を受賞した。

*ジョン・ファイフ (John Fife):ツーソンのサウスサイド長老派教会の牧師。エルサルバドルやグアテマラから軍事政権による弾圧を逃れ、アメリカ=メキシコ国境を渡ってくる人々を、人道的見地から教会に匿い、難民として保護を与えるサンクチュアリ運動を創始した。このため1986年他の7人の教会関係者とともに密入国幇助で有罪宣告を受けた。近年、無許可で国境をわたる移民が増え、死亡事故が絶えないことから、ふたたび救援活動を呼びかけ「ノー・モア・デス」の母体サマリタン・パト ロールを2002年に創設した。

字幕翻訳:海谷菜央子  
全体監修:中野真紀子

Share this