我々が支払う代償:オフショア資産隠しが国内の人々の金を盗むことになる理由

2015/11/3(Tue)
Video No.: 
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15分

ドキュメンタリー映画The Price We Pay(『我々が払う代償』)を基にタックスヘイブンの問題を取り上げます。監督のハロルド・クルックス氏と、映画にも登場するエコノミストでタックス・ジャスティス・ネットワーク上級顧問のジェイムズ・ヘンリー氏をゲストに迎え、映画制作の動機や経緯、またタックスヘイブンの歴史的背景、納税を回避する手口と隠れ資産の実態、そしてその弊害について映画のシーンを交えて検証していきます。

映像には米上院および英国議会の公聴会で証言するアップル、グーグル、アマゾンという代表的グローバルIT企業の幹部が登場します。いずれの企業も有名なタックスヘイブンに子会社を置き、実際に営業活動をしている国に支払うはずの税金を合法的に逃れています。タックスヘイブンに利益を移転させる所業が横行している結果、米国では年間推定1000億ドルの税収が失われているとされます。

金融グループも追及は及びます。英国議会で証言するバークレイズ銀行の幹部は、マン島、ジャージー島、ケイマン諸島にそれぞれ30、38、181社の子会社を保有するという不自然な実態を指摘され、これは「脱税」ではなく、効率的な納税の手法であると主張します。違法ではないのだから、なんの問題も無いとの認識です。本当にそうでしょうか?問われているのは合法か違法かではなく、税法の抜け道を積極的に利用して払うべき税金を逃れる行為の反社会性です。

税収の減少で、公共サービスは劣化、道路など公共インフラの維持が困難になります。一般市民は増税や社会保障の削減を押し付けられ、乏しい公共サービスに我慢するしかありません。個人の負担は増大し、格差は拡大する一方です。IT革命で仕事は消滅し、人々は生きる手段さえ奪われています。これは国家と市民との約束である「社会契約」の崩壊です。

20世紀に誕生した分厚い中流層と充実した社会保障制度に基づく社会システムは、その根幹を支える所得税の累進課税制度が無効化された今、崩壊に直面しています。英国の議員がグーグル重役に投げた「あなた方が違法だと責めてはいません、不道徳なのです」という言葉が、すべてを物語っているようです。(山根明子)

*ハロルド・クルックス(Harold Crooks):新作ドキュメンタリー映画The Price We Pay(『我々が支払う代償』)の監督

*ジェイムズ・ヘンリー(James Henry):エコノミスト、弁護士、「タックス・ジャスティス・ネットワーク」のシニアアドバイザー。元マッキンゼー&カンパニーのチーフエコノミスト。ドキュメンタリー『我々が支払う代償』にも登場

Credits: 

字幕翻訳:朝日カルチャーセンター横浜 字幕講座チーム:
東泉知佳・千野菜保子・仲山さくら・山下仁美・山田奈津美・山根明子
/全体監修:中野真紀子