上院のフィリバスター(議事妨害)ってなに?

2010/2/16(Tue)
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ちょっと馴染みの薄い米国の議会制度の話。でも、オバマの「改革」がいっこうにすすまない理由のひとつには、共和党の上院議員たちが議事妨害(フィリバスター)を乱発して上院の審議を麻痺させ民主党の法案をことごとく阻止しているという事情があります。この戦術により医療保険制度改革や地球温暖化対策、金融規制などの重要法案がことごとく座礁に乗り上げ、官職の任命でもオバマの指名候補15人が承認を妨害されました。

おかげで今や法案の通過には、上院で「スーパーマジョリティ」が確保できるかどうかが勝負とみなされています。たまりかねた民主党の2人の上院義委員が2月中旬に議事妨害を制限する法案を提出し、単純過半数である51票の獲得で可決できるようにしようと提案しましたが、同じ民主党の上院多数党院内総務ハリー・リード議員は、規則の改正には3分の2議席(67)が必要だとしてこれを退けました。このフィリバスターはとはどんな制度か、なぜここへ来て急に頻用されるようになったのか?そしてスーパーマジョリティの確保が必要とされる根拠は?

フィリバスターといえば、名作映画「スミス、都へ行く」で主人公が果敢に試みたことで有名です。デモクラシー・ナウ!のファンであれば、かつてマイク・グラベル議員がこれを使ってペンタゴン・ペーパーズ(国防総省のベトナム機密文書)を上院の議事録に入れてしまうという快挙をやったことで、記憶にあるかもしれません。要するに議員の発言を議長が一方的に中断することができないのを利用して、とめどなく話し続けることによって法案可決を妨害するのがフィリバスターです。映画のスミス議員は「言論の自由の行使であり、民主主義の最高の表現だ」と言っていますが、現実にそれを行ったグラベル議員の回想を聞けば、そんな品の良いものでも、なまやさしいものでもなかったことが分かります。

フィリバスターを強制的に打ち切ることができるのは、上院議員のスーパーマジョリティによる議決です。現在はそれが60議席となっているため、議事妨害をクリアして法案を通過させるためには上院で50票が必要だということになっています。しかし合衆国憲法にはそんな規定はなく、現在の議会運営は違憲状態だとトマス・ゲーガン弁護士は熱弁しています。こうした状況が生まれた経緯とともに、議会の上院が果たしてきた歴史的な役割も考えさせられる興味深いトピックです。(中野)

トーマス・ゲーガン(Thomas Geoghegan) シカゴの弁護士、文筆家。See You in Court: How the Right Made America a Lawsuit Nation (『じゃ、また法廷でね:権利意識がアメリカを訴訟国家にした』)など、著書多数。最新著は Were You Born on the Wrong Continent?: How the European Model Can Help You Get a Life.(『生まれる場所、まちがえた? ヨーロッパ方式に学ぶこと』)

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字幕翻訳:さかまきさきえ
校正・全体監修:中野真紀子・付天斉