「偽善のサーカス」 ジェレミー・スケイヒル がパリのデモに参加した世界首脳の報道弾圧を批判

2015/1/12(Mon)
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2015年1月7日、フランスの風刺週刊新聞「シャルリー・エブド」の発行元を複数犯が襲撃し、風刺漫画家らを含む12人を殺害して逃亡、アルジェリア系フランス人の容疑者兄弟2人は2日後に籠城先の印刷工場で射殺されました。これと並行して、8日に警官を殺害したとされるアフリカ系フランス人の別の容疑者が、翌日パリのユダヤ食品スーパーに人質を取って立てこもる事件が発生。警察の強行突入の際に犯人が射殺されただけでなく人質4人が死亡しました。いずれの容疑者もイスラム系の過激思想の影響を受けていたと考えられ、「アラビア半島のアルカイダ」との関連も取り沙汰されています。

2015年1月11日、一連の事件に抗議し、報道の自由を支持して犠牲者を追悼する集会がフランス全土で行われ、約370万人が参加したと推定されています。これはフランス史上最大規模のデモで、パリだけでも100万人以上が参加、その先頭に世界中の政治指導者40人以上が立ったと報道されました。しかし番組のゲストでインターネット報道サイト「ジ・インターセプト」(https://firstlook.org/theintercept/)共同創始者のジェレミー・スケイヒル記者は、参加した首脳が一人残らず報道の自由を抑圧してきた張本人だとして強く批判しています。

今回、米国の正副大統領は渡仏せず、たまたまパリに滞在中だったホルダー司法長官も参加を見送って批判と憶測の対象になっていますが、スケイヒル記者は、言論の抑圧と記者に対する迫害について米国政府も無関係ではなく、イラク・アフガン戦争では、複数のアルジャジーラ記者を始めとする多くのジャーナリストを死傷させているという事実を指摘します。また番組では触れられていないものの、「首脳のデモ行進」は、一般の集会とは別の場所でメディア用に撮影された小集団の写真であったことが後追いで報道され、「首脳陣がデモを先導した」という誤解を与えた大手報道機関の姿勢も問われています。

一連の事件に関する報道では言論の自由擁護の論調にかき消されがちですが、「シャルリー・エブド」紙の執拗なイスラム攻撃は以前から批判の対象ともなっており、報道と言論の自由は本来国家や権力に対峙するためにあり、弱者や少数派への攻撃の武器に堕してはならないという指摘もされています。またオランド仏大統領の制止を無視してパリ入りを強行したイスラエルのネタニヤフ首相が在仏ユダヤ人に対してイスラエル移住を呼びかけるなど、事件を政治利用しようとする動きも現れています。長びく不況を受けて内向き傾向を強める欧州の一部で言論の自由を隠れ蓑に排外主義が興隆するという、まさに「過激派」の思惑そのものの傾向も懸念されます。(斉木裕明)

*ジェレミー・スケイヒル(Jeremy Scahill): インターネット報道サイト「The Intercept」の共同創始者。フランスでの襲撃事件について同サイトに”Al Qaeda Source: AQAP Directed Paris Attack”(アルカイダの内部情報─アラビア半島のアルカイダがパリの襲撃事件を指示)と題する記事を執筆。邦訳のある著書に『ブラックウォーター ――世界最強の傭兵企業』(益岡賢・塩山花子訳、作品社、2014年)と『アメリカの卑劣な戦争――無人機と特殊作戦部隊の暗躍』(上下巻、 横山啓明訳、柏書房、2014年)があり、後者は映画化(Dirty Wars日本では未公開)されて2014年の米国アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞候補となった。
最近の記事はhttps://firstlook.org/theintercept/staff/jeremy-scahill/で閲覧可能(英語のみ)。

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字幕翻訳:斉木裕明 / 校正:中野真紀子