大学は行く価値があるのか? 新作映画が描く高等教育機関の持続不能の支出と学生ローン
学生字幕翻訳コンテスト 「課題5:大学の企業化」の受賞作品です
米国の大学の学位取得のための費用は過去30年で1120%も高騰し、食品や医療、住宅など他の生活必需品の物価上昇率をはるかに上回っています。学生ローンの貸付総額は1兆2000億ドルにも達し、第二の住宅バブルとまで呼ばれて経済を脅かす要因になっており、それだけでなく国の教育制度そのものも脅かしています。
2014年6月に封切りとなったドキュメンタリー映画Ivory Tower(『学歴の値段』)は、米国の高等教育のモデルは持続不能だと論じています。米国の学生ローンが未成年の若者に巨額の貸付を行うことの問題点については一つ前のコーナーで詳しく論じていますが、学生ローンのもう一つの弊害は大学経営の変質を加速させていることです。ローンのおかげで学費の引き上げに歯止めが無くなり、天井知らずの高騰が続いています。大学側は学生を獲得するため、やたら立派な設備や娯楽施設を整備することにお金をかけ、他校を出し抜いてランクを上げようと懸命になります。
そうした競争は構造的なものなので逃れるのは難しいのですが、その費用は結局、学費の上昇として学生たちに降りかかってきます。卒業してもそれに見合った収入が得られる保証はなく、将来の返済リスクは拡大する一方です。もはや、大学に行くのことの経済的合理性が疑わしく、「大学」の存在意義が真剣に問われる事態になっています。(中野真紀子)
*アンドリュー・ロッシ(Andrew Rossi)ドキュメンタリー映画Ivory Tower (『学歴の値段』)を制作監督
*パメラ・ブラウン(Pamela Brown) 学生ローン問題に取り組むNYのニュースクール大学の大学院生。「学生債務を占拠せよ」(Occupy Student Debt)運動の創始者で、『借金抵抗マニュアル』を作成。
字幕翻訳:小谷七生(神戸市外国語大学3年) 学生字幕翻訳コンテスト2015受賞作品
監修:長沼美香子